宮崎大学医学部付属病院 卒後臨床研修センター

卒後センター研修医・教員ブログ

2017年11月17日更新

ASTは肝“機能”検査か?

気になる言葉があるんです。

血清アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)が上昇するときに、「肝機能が上がる」と言う人がいます。
血清クレアチニン(Cre)が上昇するときに、「腎機能が上がる」と言う人がいます。

これ、違いますよね。
ALTが上がるのは「肝障害<傷害>が発生(増悪)している」からです。Creが上がるのは「腎障害<傷害>が発
生(増悪)している」からです。

一方、じゃあ「肝機能」とは何ぞや?と言いますと、「肝合成能」で置き換えられると思います。肝機能が
「上がる」と血清総蛋白は「上がる」し、コリンエステラーゼも「上がる」。良くなる時には「上がる」、
悪くなる時には「下がる」わけで、方向性が一致します。アンモニアだけは違いますけどね(肝機能が「落
ちる」とアンモニアは「上がる」)。

また、「腎機能」とは何ぞや?と言いますと、「尿を作る力」で置き換えられると思いますので、例えば推
定糸球体濾過量(eGFR)などですよね。腎臓の機能が「落ちる」とeGFRは「下がり」、機能が回復すると
eGFRは「上がり」ます。これも方向性が一致します。

要は、悪化すると「上がる」検査値もあれば、「下がる」検査値もある、改善すると「上がる」検査値もあれ
ば、「下がる」検査値もあり、これらが混在しているので、ASTやビリルビンが上がっているのに「肝機能が
上がっています」という妙な表現になるわけです。

若い先生の発言に限らず、教科書や雑誌の中でも、この誤用がチラホラ目に付きます。学会においてベテラン
の先生も口にしていることがあります。

「うーん、何とかならんもんかなぁ?」「誰も気にしないのかなぁ?」と思っていたのですが、今年の初めに
あるニュース記事を目にしました。

米国消化器病学会が2016年12月に発表したALTやAST、ALP、ビリルビンの検査に関するガイドライン
(Am J Gastroenterol, 2017; 112: 18-35)にて、『ALTやASTの検査は肝“機能”検査ではないですよ』と
言及しているそうなのです。これらの検査は肝機能(liver function)ではなく肝傷害(liver injury)に
関連するマーカーである、とずばっと指摘しています。そもそも、従来ALTやASTなどは、正式に「肝機能検
査(liver function tests)」と定義されていたそうです。思えばこれが間違いで、これからは「肝生化学
検査(liver chemistry tests)」あるいは「肝検査(liver tests)」に改めるべきだとの見解が示されて
います。

よかったー。自分が感じていた問題点は間違ってはいなかったようです。

何がいちばん問題かというと、何も知らない人々(患者さんやご家族!)にうっかり「肝機能が上がっています」
と言ってしまい、間違ったメッセージが伝わってしまうことです。これがいちばん怖いです。

私は患者さんへの説明では、ASTが上がれば、「肝臓がいたんでいます」と言うようにしています。Creが上がれ
ば「腎臓がいたんでいます」と言うようにしています。
こうすると、誤解がなく、わかりやすいかな???

(宮内)

センターひろば

卒後臨床研修センター通信vol.44

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