宮崎大学医学部付属病院 卒後臨床研修センター

卒後センター研修医・教員ブログ

2022年12月02日更新

3人のレンガ職人

 私は医学研究に強い関心があります。宮崎が求める医療を開拓するには、宮崎から発信する医学研究こそが強い意義を持つのではないかと考えます。研究機関がすぐそばにある宮崎大学医学部附属病院はその実現に最も有利であるため、私は当院で初期研修医として勤務できることに高い価値を見出しています。ただし若い医師間や医学生間において、必ずしも私の感性がその趨勢に一致しているとは限りません。

 聞くならく、今の流行の価値観は「初期対応」です。これは近年の医師国家試験の出題傾向にも強く反映されており、医学生や初期研修医からもこのフレーズをよく耳にしたものです。そして私自身も、それは肝要な医療の側面の一つであると解釈しています。最近ではTVドラマや映画等で、初期対応や救急医療をテーマとした作品も多いらしく、殊更に熱意が高まるのも大いに納得できます。

 ところが意外なことがありました。初期対応に重きが置かれる一方で、若い人が集まる場では、医学研究あるいは先進医療に対する熱意の声があまり聞かれません。種々の交流の場で、心エコー、心電図、せん妄の対応、外傷、糖尿病薬の処方、急性腹痛といった話題で盛り上がるのはよく見る光景です。同じくらい、研究やacademiaの話でも、もっと盛り上がってもいいような気がしますが、これまでの経験上、そうしたケースは稀です。

 自らの診療経験を振り返ると、確かに、まずガイドラインを追いかけたことが多いのは事実です。しかしガイドラインをたくさん追いかけていくうちに、いつまでも「受け身」でいるのではなくて、長い医師人生で一度くらい、ガイドラインを作り変えたいな、あるいは自ら新しく発信したいなという発想に至りました。これはある種のロマンです。それはまるで中世イタリアにてガリレオ・ガリレイが、逆境に晒されようと信念を曲げず、天動説から地動説に塗り替えた偉業のようなもので、率直にかっこいいことだと感じます。

 白状すると、私が当院で初期研修を始めた際、一番の関心は研究というよりも手技の実践にありました。しかし大学病院とは不思議なもので、そこで医療の実践をしていると研究への意欲が湧いてきます。忘れもしない、医師となって5番目に担当した症例は全身性強皮症(SSc)の患者さんでした。全身性強皮症の症状の一つに間質性肺炎がありますが、これは致死的な病態です。私が救急科をローテイトして間もないころ、その患者さんが間質性肺炎の急性増悪のため救急搬送され、程なくして永眠されるという経験をしました。学生時代、医師国家試験の対策の一環として強皮症を勉強したことはありましたが、実際に目の当たりにすると、原因不明で治療法の確立が途上であるような、まだまだ未開拓な領域であることを知りました。

 そして宮崎大学の学生時代から関わることが多かったのはHTLV-1感染関連疾患、中でも成人T細胞白血病リンパ腫(ATL)です。宮崎県でATLは珍しくありません。しかし教科書を見て唖然とします、なんと欧米や西洋に目を移せばうってかわって希少疾患に早変わりします。そして日本の中でも依然として西南日本に集中しているため、全国的な疾患というわけでもありません。つまり、ATLは宮崎県における地域特異性の高い疾患の一つであると言えます。

 冒頭に述べた「宮崎が求める医療を開拓するには、宮崎から発信する医学研究こそが強い意義を持つ」とは、まさにこうしたことではないかと考えます。研究というと、なんとなく欧米や西洋が得意そうなイメージがあるものですが、ATLの例からも分かる通り、遠く離れた都会での研究が宮崎の医療のすべてを包含してくれるわけではないことは明らかです。そればかりでなく、こうした宮崎に特異性の高い疾患を研究するには、宮崎で行うことが最も有利であることが分かります。

 また新たな発見もありました。ATLについて理解を深めようと奮起した私は、ひとまず悪性リンパ腫の全体像とそれぞれの位置付けを学ぶことを試みました。そのため、リンパ系腫瘍で最も頻度の高いびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)の勉強はマストであったわけですが、その治療法はR-CHOP療法として有名です。2000年頃まで標準治療はCHOP療法とされていましたが、新たに登場したR(リツキシマブ)を加えたR-CHOP療法によりDLBCLの治療成績は大きく改善しました。このリツキシマブですが……先に扱った全身性強皮症(SSc)に対する薬として2021年に認められていたことを知りました!悪性リンパ腫の勉強が、予想していなかった強皮症との関連につながったことは、その意外性に感動したと同時に、医学研究の尊さや秘めたる可能性に感服する思いがしました。

 初期研修医生活が始まり、私は努めて色々な分野の勉強会・研究会に参加するようにしています。大学病院に所属している恩恵の一つは、こうした勉強会・研究会が開催される機会、誘っていただける機会がとりわけ多いことです。

 特に今年は宮崎大学血液内科のご厚意にて、福岡県で開催された第84回日本血液学会学術集会(JSH2022)にお伺いする機会をいただき、これまで感じたことのないような刺激に鼓舞され、開催期間は無我夢中に滞在したことが記憶に新しいです。

 「3人のレンガ職人」という寓話があります。重たいレンガを運んでは積み、運んでは積みを繰り返している現場があり、旅人が「何をしているのですか?」と3人に問います。1人目は「レンガを積んでいる、大変な仕事だ」と答え、2人目は「レンガを積んで壁を作っている、金が良い仕事だ」と答え、3人目は「レンガを積んで壁を作ってこれが大聖堂の一部になる、とても光栄な仕事だ」と答えた、というお話です。一見同じ仕事をしているように見えても、各々の目的意識や視野の違いによってこうも姿勢が変わるとは、大変教訓的であると私は感じました。これは医師であっても例外でないように思われます。蓋し、初期対応から先進医療に至るまで、一次医療機関から三次医療機関まで、基礎研究から臨床研究まで、どの一つを取っても尊いものです。重要なことは、それらを俯瞰した全体像を念頭に置いておくことなのだと心から思います。単に初期対応に追われているのではない、単にガイドラインを追いかけているのではない。そのように考えると、初期研修医はいつだって誇りを持って仕事ができるはずです。

 良い臨床を目指して、良い研究がしたいと志すようになりました。そして、良い研究のためには十分な臨床における研鑽が必要だと教わりました。臨床のために研究、研究のために臨床であり、今の私の立ち位置はまさにここです。それもまだ駆け出しであると言えます。まずは初めてのcase reportを世に出すことを目標に、今後とも診療に邁進したいです。

(初期研修医1年目 長嶺 宏士朗)

(JSH2022)

(JSH2022)

(シーガイアにて第1回南九州真菌研究会)

 

 

センターひろば

卒後臨床研修センター通信vol.44

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