生理活性ペプチドと神経疾患の関連の研究

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成長ホルモン分泌促進物質受容体(GHSR1a)の内因性リガンドである生理活性ペプチドghrelinは、摂食や成長ホルモン放出を促進することで知られています。ghrelinはまた、免疫細胞や血管内皮細胞に作用し、炎症誘発性サイトカインの産生を抑制する機能も明らかにされています。宮崎大学脳神経内科ではこれまで、ghrelinが動物モデルにおいて、末梢神経障害を改善することを示してきました(Kyoraku I, et al. Biochem Biophys Res Commun. 2009; Ishii N, et al. Eur J Pharmacol. 2018. )。

一方、Liver-expressed antimicrobial peptide 2 (LEAP2)は、2003年に肝臓由来の抗菌ペプチドとして同定されたものの、生物学的及び生理学的な作用は長らく不明でした。2018年になって、LEAP2はGHSR1aの内因性antagonistとしてghrelinの作用に拮抗することが分かってきたことで、近年非常に注目を集めている生理活性ペプチドです。ghrelinの神経保護作用や免疫調節機能、中枢神経での広範なGHSR1a発現の事実に基づき、当科では生理活性ペプチドLEAP2の神経疾患での役割について研究しています。

液体クロマトグラフィー分析と免疫学的測定法を組み合わせた実験系で、ヒト脳脊髄液中にLEAP2の存在を証明し、その定量性を確立しました。

 

炎症性神経疾患を自己免疫性疾患や感染症などのカテゴリーに分類し、脳脊髄液中のLEAP2濃度を測定しました。その結果、細菌性髄膜炎で有意にLEAP2濃度が上昇していることが分かりました。

 

細菌性髄膜炎の患者では髄液中のLEAP2は上昇していましたが、血清中での上昇がありませんでした。対照的に菌血症の患者では、血清中のLEAP2は上昇していましたが、髄液中での上昇はみられませんでした。末梢とは独立した中枢神経系でのペプチド免疫機構の存在があるのかもしれません。

また、感染症の中でも、ウイルスや真菌の感染よりも細菌感染で顕著にLEAP2が上昇していました。これは、非常に興味深い結果でした。治療の遅れが致命的となる細菌性髄膜炎では、画像検査や髄液検査よりも広域抗生物質の開始が優先されます。しかし、抗生物質が一旦投与されると、髄液培養は陰性となり、さらに無菌性髄膜炎様の生化学所見を呈することがあります。このような症例でLEAP2が細菌感染を鋭敏に検出することができる可能性があります。

 

Sakai et al. Human liver-expressed antimicrobial peptide 2 elevation in the cerebrospinal fluid in bacterial meningitis. Brain Behav. 2021 May; 11 (5) e02111. doi: 10.1002/brb3.2111. Epub 2021 Apr 3.

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