神経免疫学研究

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多発性硬化症(MS)は若年者に好発し、再発を繰り返す中枢神経の炎症性疾患で、神経難病の代表的疾患の1つです。近年、免疫学研究のめざましい発展とともに、新たな治療薬が開発、臨床応用されるようになっています。しかし、いまだに多くの患者さんが再発に苦しめられています。

新たな病気のメカニズムの発見は治療の発展につながります。私たちは、MSではあまり注目されていなかった神経細胞の免疫学的役割に着目し、マウス実験を行いました。この研究により、以下のことが分かりました。

① MS病巣における神経細胞の過剰な活性化を抑制すると、神経症状が軽減する

② 神経症状の軽減は、病原性リンパ球の中枢神経内への侵入が減少していることによる

③ 活性化した神経細胞由来のケモカイン CCL2が病原性リンパ球の侵入を促している

MOG35-55(Myelin Oligodendrocyte Glycoprotein)と呼ばれる髄鞘構成成分の皮下注と胸髄への炎症性サイトカインの局所投与を組み合わせ、胸髄限局性の脱髄巣をきたすマウスモデルを作成しました。病変部脊髄の神経細胞の活動性を抑制するために、抑制性DREADD(Designer Receptors Exclusively Activated by Designer Drugs)を搭載したアデノ随伴ウイルス(AAV9)を病変部位に局所投与しました(図1-a:モデル作製.図1-b:脊髄横断面.緑色蛍光がコントロール,赤色蛍光がDREADD発現部位)。

MSモデルマウスの病変部における神経活動抑制により、神経症状が軽減すること(図2)、脊髄内への病原性リンパ球(CD4陽性リンパ球)の浸潤が減少すること(図3)を見出しました。

MSにおいて、炎症細胞は種々のケモカインにより中枢神経内へ誘引されます。AAV9を用いたshRNAの脊髄内投与によりケモカイン CCL2を除去すると、神経障害が軽減することがわかりました(図4)。

本実験から、炎症状態で活性化された神経細胞は、CCL2を放出することで病原性リンパ球を脊髄内へ侵入させること、過剰な神経活動を抑制することでリンパ球の脊髄内への侵入を抑制することができ、炎症の軽減、神経症状の改善を得られることがわかりました(図5)。

多発性硬化症において神経細胞が免疫細胞として作用しうること、神経細胞の適切に機能調節をすることが治療につながる可能性があることを示す重要な知見です。

Nakazato Y, et al. Neurons promote encephalitogenic CD4 + lymphocyte infiltration in experimental autoimmune encephalomyelitis | Scientific Reports (nature. com) 

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