中枢神経腫瘍(CNS tumor)

神経膠腫(星細胞腫、膠芽腫など)、髄膜腫、神経鞘腫、下垂体腫瘍、転移性脳腫瘍、頭蓋咽頭腫、胚細胞腫瘍、脳原発性悪性リンパ腫、類表皮嚢胞、など。

■脳腫瘍について

脳腫瘍、特に脳腫瘍に発生する悪性の神経膠腫については、つい最近まで一旦かかったら治らない死の病気というイメージがついて回っていました。実際に、最も悪性度の高い膠芽腫では、従来の治療では診断から1年以内に死亡する例が大半です。

その理由として、1)腫瘍が脳の実質に染み込むように広がっていく性格があるため、完全に手術で摘出することが難しいこと、2)脳には言語中枢や運動中枢などの機能的に重要な部分があるため手術によって摘出出来ない領域があること、3)脳には血管との間に特殊なバリアがあるため、有効な抗癌剤でも腫瘍に届かないこと、等いくつかあります。しかし最大の理由は、腫瘍に対して本当に効果の高い薬剤がないことでした。

ところが、最近少しずつ状況が好転してきました。平成18年、欧米を始め世界各国ではすでに悪性神経膠腫の標準薬として使用されていたテモゾロミドが、我が国でも承認されました。この抗癌剤は飲み薬ですが従来の注射薬と比べても治療効果が高く、2年生存率を3倍に伸ばすという効果が実証されています。図1の患者さんは、手術・放射線や他の薬剤を使用した化学療法でも腫瘍の進行を全く止めることが出来なかったのですが、テモゾロミドを4コース使用した後に、腫瘍が完全に消失しました。この患者さんはその後3年間にわたって再発がありません。

テモゾロミドの他にも新しい治療薬の開発が進んでいます。平成25年にはベバシズマブと言われる腫瘍細胞に栄養や酸素を運ぶ新しい血管が作られるのを妨げ、腫瘍の成長や増殖を抑える薬も承認されました。

多くの基礎研究により脳腫瘍が発育するためにはどのような細胞内の信号が必要かということを元にして、現在腫瘍の増殖信号を特異的に止める多くの薬が開発され、海外ではすでに臨床治療研究の段階に進んでいます。悪性脳腫瘍を根絶するために、今後新たな薬の開発が加速することを願って止みません。

図1:悪性脳腫瘍に対するデモゾロミドの効果

投与前

投与前

4コース終了後

4コース終了後

(竹島  秀雄)

■下垂体について

図1の矢頭の先の脳の底のほぼ中央に脳からぶら下がっている径1 cmほどの円い組織が下垂体です。そしてホルモンと呼ばれる様々な物質を作って体の状態を調節しています。

脳にできる腫瘍の内、約20%が図2のように下垂体にできます。そのほぼ99%が良性であり、ホルモンを作っているものと作っていないものがあります。およそ半数がホルモンを作っておらず、頭痛などの症状で検査して偶然見つかる場合や腫瘍が大きくなって下垂体のすぐ上にある目の神経を圧迫して目が見えづらくなって見つかります。一方、腫瘍がホルモンを作っている場合は、ホルモンの働きが強くなって様々な症状がでます。例えば成長ホルモンが作られ過ぎると、指の節々が太くなったり、眉毛や顎の部分の骨が出っ張ってきたりして先端肥大症という状態になります。また甲状腺や副腎を刺激するホルモンが作られ過ぎると、甲状腺機能亢進症(バセドー病)による動悸や発汗、副腎機能亢進症による肥満や倦怠感がおこります。

下垂体腫瘍の治療法としては、薬物によって腫瘍の縮小やホルモンの調節を行う内科的治療と、手術により取り除いてしまう外科的治療があります。残念ながら薬物による腫瘍の縮小が期待できるものは、現時点ではまだ成長ホルモンとプロラクチンを作っている腫瘍のみです。その他の腫瘍の場合や薬物の効果が不十分な場合などは外科的手術が必要になります。幸いにも他の脳腫瘍とは異なり、下垂体腫瘍は頭蓋骨の一部を切りとることなく、図2の矢印の方向に鼻の穴を経由して行う方法が一般的です。ただ、手術用顕微鏡を使用していた時代は鼻の穴を経由するためその視野は狭くて約1.5 cmほどしかなく、完全に取り除けない場合もありました。しかし、当科では平成23年7月より神経内視鏡を使用するようになり、図2の矢印の部分までそれを挿入することで、顕微鏡より明るく広い視野で手術ができるようになりました。その結果、径が2.5cm以上の腫瘍の摘出率が改善しました。図3は図2の手術後のMRIで、腫瘍が完全に取り除かれています。また、この方法ですと手術時間も3時間程度で出血量も少なく、患者さんの術後の負担は頭蓋骨を取り除く場合より格段に軽く、翌日から歩いたり食事を摂ったりすることも可能です。手術により起こりうる合併症は、正常の下垂体の機能が低下したり、尿量が増えたりすることです。そのため、一次的にはそれらを調節するホルモンの補充が必要になる場合もありますが、大部分は一次的なもので数週から数ヶ月で回復することがほとんどです。

宮崎大学附属病院脳神経外科は、県内でも唯一神経内視鏡を使用してこの手術を行うことのできる施設であり、年間約2~30例の手術を行っています。

図1

図1

図2

図2

図3

図3

(上原  久生)

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