消化管・内分泌・小児外科

2015年4月を持ちまして、(旧)第一外科と(旧)第二外科が統合し外科となりました。
それに伴いそれぞれ診療科にあった消化器内分泌外科グループが再編されて、消化管・内分泌・小児外科となり新たに出発することになりました。

上部消化管グループ

1.食道癌

食道癌は、胃癌や大腸癌など他の消化管癌に比べると全体の症例数の少ない疾患です。一方、我々が担当している外科手術は患者さんの体力的な負担の大きい特殊な手術となります。このため、我が国のNational Clinical Dataの解析結果を見ても、年間手術症例数の多い施設(20~30例/年が目安)に比べると症例数の少ない施設では術後の合併症が約3倍になることが報告されています。当科は2016年以降に症例数が増加し、九州はもとより全国でも有数の症例数を誇る施設となっています。
当科では、体力的な負担を軽減する目的で胸腔鏡を用いて胸壁の破壊を最小限にとどめた手術を積極的に行っています。

また当院では、胸腔鏡の画像が立体的に見える3D内視鏡を用いて、より精密な手術を心がけています。
もちろん、胸腔鏡を使用しても手術時間がむやみに延長するようでは本末転倒ですので、手術時間の短縮にも努めており2016年以前の半分以下の手術時間へ短縮しています。
胸腔鏡による低侵襲手術の一方では、大動脈や気道への浸潤が疑われるような高度進行食道がんに対しても、総合外科学講座の利点を最大に生かして、心臓血管外科、呼吸器外科、形成外科の先生方に協力を頂き、手術適応を十分に検討したうえで他臓器合併切除などの拡大手術にも取り組んでいます。

また、食道癌治療においてさらに重要なことは外科手術のみでなく、抗がん剤による化学療法や放射線治療などと手術の組み合わせによる集学的治療が非常に重要です。このため、消化器内科、腫瘍内科、放射線科、麻酔科、集中治療部、耳鼻咽喉科、歯科口腔外科の各診療科の先生方と密に連携をとり協力して治療を進めています。治療には医師のほかに看護師、栄養士、理学療法士、歯科衛生士などの多職種でのチーム医療が必要となります。当施設は、このような多職種の専門家が在籍する日本食道学会認定施設に登録されています。食道外科認定施設は、認定施設以外での治療成績よりも食道癌の治療成績が良好であることも報告されています。

2.胃癌

胃癌は、ピロリ菌がその発癌に関与していることが明らかにされました。日本人の生活環境の変化や積極的なピロリ菌の除菌療法の普及による感染率低下のため、胃癌症例数は減少傾向にあります。さらに、胃癌検診精度の向上によって早期に発見された症例が内視鏡的切除によって治療されるようになってきたたこともあり手術適応となる症例数も減少傾向にあります。しかしながら当科ではこの数年間、胃癌の年間手術症例数は増加傾向にあります。当科では、胃癌に対しても小さな傷で切除を行う腹腔鏡手術を取り入れています。食道癌手術同様に、当院では、腹腔鏡の画像が立体的に見える3D内視鏡を用いて、より精密な手術を心がけています。早期胃癌に対しては周術期の短期成績のみならず5年生存率からみた長期成績ともに腹腔鏡手術は開腹手術と同等の成績であることが報告されていますので、腹腔鏡手術を積極的に行っています。しかしながら、進行胃癌に関しては安全性と根治性に関して開腹手術と腹腔鏡手術を比較した試験が進行中で結果の判明が数年後ということもあり、厳正に手術適応を検討したうえでの腹腔鏡手術を行っています。

また、胃癌に関しては大学病院の使命でもあります高度進行胃癌症例や心臓や肺などに他の病気を併存しているハイリスク症例の手術が多いのが特徴です。高度進行胃癌症例に関しては、消化器内科、腫瘍内科と連携して手術療法と抗がん剤治療を組み合わせた集学的治療によって治療成績の向上に取り組んでいます。一方、他の疾患を併存しているハイリスク症例に関しては、手術時間の短縮と小さな傷による体力の負担の軽減を両立させる小開腹下の胃切除(胃全摘)術も適応を吟味したうえで積極的に取り入れています。

下部消化管グループ

① 大腸がん

大腸がんは、欧米化した食生活や肥満、食物繊維摂取量の減少などが要因で増加傾向にあります。男性においてはがんによる死亡原因の第3位、女性では第1位になっています。早期発見のためには大腸がん検診が重要ですが、宮崎県の受診率は高くありません。治療方法として、がんの部位や進行度に応じて内視鏡治療、手術治療、化学療法、放射線療法などが組み合わせて行われます。当院の下部消化管グループは主に「手術」を担当しており、重篤な心疾患、呼吸器疾患、末期腎不全などの合併症例も多く扱っています。周術期管理を安全に行うため、循環器・呼吸器・腎臓内科・麻酔科などのサポートを受け、術後の長期・短期成績も良好です。また、2003年から腹腔鏡手術を実施し、大腸がんに対して積極的に行っています。現在、内視鏡外科学会が認定する技術認定医(年間平均合格率約30%)が2名在籍しております。

ロボット支援下手術

●保険収載

2018年4月より、直腸がんに対するロボット支援下腹腔鏡下直腸切除・切断術が保険適用となりました。宮崎大学医学部附属病院では、2022年7月からロボット支援下直腸手術を開始しました。さらに、2022年4月には結腸がんに対するロボット支援下結腸切除術も保険適用となり、当院では2022年11月から取り組んでいます。これにより、すべての大腸がんの治療が「保険診療」で対応可能となり、従来の腹腔鏡手術と同等の費用負担で最先端のロボット支援下手術を受けることができます。

画像:手術支援ロボット「ダビンチ」に含まれる3機。左から「ペイシェントカート」、「ビジョンカート」、「サージョンコンソール」。

●ロボット支援下手術とは?

  • ロボット支援下手術は、3Dビジョンを利用した高解像度の鮮明な画像、手首以上の可動域を持つ多関節の鉗子、手ぶれ補正機能などを備えたロボットを使用した手術のことを指します(図1)。これにより、より正確で精密な手術が可能となります。
画像:ロボット支援下手術に使用するロボットが、小さいピンセットで細やかな作業をおこなっている様子。
(図1)
  • ペイシェントカートと呼ばれるロボット本体には、内視鏡カメラと鉗子が取り付けられ、これらが体内に挿入されます(図2)。ロボットが自動で手術を行うわけではなく、手術者はサージョンコンソールから遠隔操作でロボット本体を動かし、手術を進めます(図3)。
画像:ペイシェントカートを使用し、手術をおこなうスタッフ。
(図2)
画像:サージョンコンソールを使用し、手術をおこなうスタッフ。
(図3)
  • 従来の腹腔鏡手術を超える繊細で精密な操作が可能となり、特に直腸がん手術のような狭い骨盤腔内での手術に適しています(図4)。肛門機能や神経機能の温存率が向上することが報告されています。
画像:通常の腹腔鏡手術と「ダビンチ」による手術の比較。通常の腹腔鏡手術は深部では支える点からの距離が遠くなるため、動きが大きくなり、ブレやすくなる。「ダビンチ」による手術では、手ブレを防止でき、多関節機能により、鉗子先端を意図する角度に操作することも可能。
(図4)

大腸がんに対する集学的治療

手術だけでは対処できない大腸がんの治療として、抗がん剤や放射線療法を組み合わせた「集学的治療」が行われています。周囲の臓器への浸潤や転移がある場合は、消化器内科・臨床腫瘍内科・放射線科・麻酔科・泌尿器科・産婦人科の医師と連携し、他の臓器を含めて摘出することや、術前に抗がん剤や放射線治療を行い、腫瘍が縮小した後に手術を行います。抗がん剤や放射線療法によって腫瘍が小さくなり、手術が可能となることもあります(図5)。

画像:化学放射線療法前と療法後の比較。この画像の療法後においては腫瘍の大きさが4分の1ほどに縮小している。
(図5)

内分泌グループ

甲状腺外科

あまりなじみのない臓器ですが、国内には甲状腺疾患に罹患している方は500万人以上いるとされています(平成26年度厚生労働省調査)。その約半数近くが治療を要する状態とされていることから非常に身近な疾病と考えられます。当科では主に甲状腺腫瘍とバセドウ病に対して外科的治療を行っています。内分泌内科や放射線科と連携し患者さんの状態や疾患の状況を十分に評価した後に外科的適応を評価します。当科は大学病院の使命のもと通常の手術だけなく進行症例や重度の併存疾患を有する症例においても対応しています。特に当科の特色として、心臓血管外科や呼吸器外科との合同手術のもと高度浸潤症例においても積極的に行っています。

また術後の発声や嚥下機能を維持するため神経温存に最大限に配慮し早期より神経モニタリングシステムを用いて術中の神経温存に努めています。神経浸潤症例や神経損傷の高リスク症例においては、持続モニタリングシステムを導入しより厳密な神経管理を行っています。さらに整容性の向上に努めるためにも近年は鏡視下手術を導入し行ってます。傷の目立たない手術を実践して満足度の高い手術に寄与しています。

近年は、リスクの低い甲状腺癌の患者さんは手術をしないで経過観察することもあります。これをactive surveillance(積極的な監視療法)といい、腫瘍の状態によっては推奨される管理法の一つとなってます。あえて手術をしないで経過観察することも症例によっては可能です。

都市部との治療格差がなく宮崎県の患者さんに最高の診療を提供できるように努めています。

鏡視下甲状腺切除術
従来のように頸に傷がないため整容性に優れています

小児外科グループ

小児外科は主に16歳未満の消化管、呼吸器、泌尿器・生殖器疾患、腫瘍など心臓、脳神経、運動器以外の小児患者さんの外科疾患全般を担当しています。現在は日本小児外科学会小児外科指導医と小児外科専門医の2人体制で診療にあたっています。当施設は宮崎県内では2施設しか認定されていない小児外科の専門医が治療を担当する日本小児外科学会の教育関連施設の一つです。主に鼠径ヘルニアや停留精巣などを中心として直腸肛門奇形(鎖肛)ヒルシュスプルング病、新生児の外科疾患(消化管穿孔、腸回転異常症、先天性横隔膜ヘルニア、腸閉鎖など)、固形悪性腫瘍などの外科治療を行っています。また小児期より治療を受けている成人の重症心身障害児(者)の患者さんに対する胃瘻造設や胃食道逆流症に対する腹腔鏡下逆流防止術も対応しています。ECMOを必要とする重症横隔膜ヘルニアや重症閉塞性気道疾患に対する治療は鹿児島大学病院小児外科と連携・協力し治療を行っています。小児外科疾患の約20%は緊急疾患で、出生前から外科疾患が疑われることもあります。外科、小児科、総合周産期母子医療センター、麻酔科、ICU、救急部などと連携して緊急を要する小児外科疾患にも対応しています。現在、胸腔鏡や腹腔鏡を用いた手術を積極的に導入し、傷が小さく、低侵襲な手術を行っています。小児の手術はその後の成長・発育も見据えた手術が必要で、小児においては組織の脆弱性など手術に際し注意することもあります。小児期の手術は小児外科専門医がいる日本小児外科学会認定施設・教育関連施設での治療をお勧めします。

小児外科で対応する疾患に関しては日本小児外科学会ホームページをご参照ください。

Acute care surgery部門

Acute care surgeryとは、『Trauma Surgery(外傷外科)』、『Emergency General Surgery(救急一般外科)』、『Surgical Critical Care(外科的集中治療)』を一体として扱う外科領域とされています。米国外傷外科学会より提唱され全世界に広がっており本邦においても徐々に普及していってます。その概念は、主に救急領域の外科手術と周術期管理を扱う部門と認識されています。以前より本邦においては救急外科の多くは消化器外科が担ってきていました。しかし近年外傷外科領域においては、従来のような消化器外科による対応では不十分とされPreventable trauma death(防ぎえた外傷死)をさらに低減させるためには外傷外科に特化した修練が必要とされています。

都市部であれば外傷外科専門医が外科手術を行っていきますが、当院のような外傷外科専門医がいない地方都市においてはAcute care surgeonがそれを担う必要があります。当科のAcute care surgery部門は、外傷症例に対して迅速かつ適切な外科介入を行っています。消化器外科医にてAcute care surgeryチームを形成し初期治療から介入しています。重症多発外傷症例や出血性ショック症例など救命の困難な症例においても積極的に外科治療に挑み救命に寄与できていると考えています。さらなる高い水準を目指すべく修練を行っています。

専門領域の細分化がいわれる現代医療において、総合的な外科的対応および重症外傷診療を行うグループとして重要性を感じています。宮崎県の最後の砦として救命に最善をつくしていくことをモットーとしています。

臨床研究について