ごあいさつ
greeting
宮崎大学医学部附属病院
救命救急センター センター長
落合秀信
宮崎大学医学部附属病院高度救命救急センターは、「いつでもどこでも地域に根差し高度な救急医療の提供」、「地域と連携し地域で最強の救急医を育成」、そして「世界を視野にいれた情報発信」をスローガンに掲げ、平成24年4月のオープンから今年で14年目に入ります。年を重ねるごとに、少しずつではありますが体制並びにスタッフも充実し、厚生労働省が実施する救命救急センター充実段階評価におきましても、新たな評価方法へ変更となって以降、6年連続で「S」評価をいただくことができました。それに伴い多くのスタッフが救急科専門医資格を取得し、当センターがオープンした当初の県内における救急科専門医数は19名と全国ワースト5位だったのが、令和7年1月現在では48名まで増加し、救急科専門医1人あたりの対象人口も21,393名と全国平均に達してきております。さらに令和7年7月1日付で県内初となる高度救命救急センターにも指定していただきました。このようにここまで順調に運営できたのもひとえに連携並びにご支援いただいている皆様方のおかげと深く感謝しております。
ご存じのとおり救急医療を取り巻く環境は年々厳しさを増し、働き方改革や高齢者救急の増加、自然災害対応など課題は山積しておりますが、逆境の中でこそ真の実力は試されますので、教室員一同さらに気を引き締めて診療、教育、そして研究に励んでいく所存であります。令和7年8月20日現在の救急科専従スタッフは、大学勤務が20名、寄付講座 2名、関連施設出向 17名で、各診療科・各部署のご協力のもと、ER診療、病院前救急診療 (ドクターヘリ・ドクターカー)、重症外傷ならびに重症内因性疾患の診療、集中治療、災害医療などを幅広く展開しております。今年度は新たに5名の救急科専攻医が我々のチームに加わってくれました。今後の成長がとても楽しみです。
診療においては、県全域を俯瞰して県北、県央、そして県西部の救急医療の拠点となる施設の充実を図りつつ、当センターがハブ施設としてそれらの施設をバックアップする体制を構築しています。その結果、当センターは他施設として患者総数は少ないものの、入院患者の重症率は常時70%を越えております。入院患者の内訳は、重症・多発外傷や熱傷、中毒などの外因性疾患が6割程度、そして重症敗血症や脳血管疾患、心疾患などの内因性疾患が4割程度となっています。一方、「病院まで持たない命を救う」をコンセプトに開始したドクターヘリも、運航開始以降の総要請件数は6450件となっています(令和7年8月20日現在)。現場出動の75%は重症外傷であり、外傷センターそして医療過疎地へのバックアップ機能も十分果たせていると思います。
その一方で「ドクターヘリ」と聞くと、どうしても重症や多発外傷のイメージが先行するためか、運航を開始した2012年当初は、現場出動した患者の約8割は大学へ搬送 (Uターン) していました。しかし、救急医の育成と地域における救急医療の中核施設への積極的な人材派遣により地域連携を進めることで、地域におけるドクターヘリ現場出動症例の受け入れ (Jターン) が徐々に進んでいった結果、2023年にはUターン件数とJターン件数が逆転し、現在ではドクターヘリが現場出動した症例の約7割は地域の中核病院で受け入れていただいております。
ドクターヘリを活用した地域救急医療の活性化に微力ではありますが、貢献できたのではと実感しています。また、ドクターヘリの補完としてのドクターカーについても、県全域を守備範囲として平日夕方4時間の限定運用であるにも関わらず年間100件を超える要請をいただいております。さらに山中など陸路では到達困難な地域で発生した救急患者にも迅速に対応するために、県と協定を結び防災ヘリコプターによる医師の救急現場投入も行っており、全国でもトップレベルの病院前救急診療を展開しています。
県内における重症救急患者の最後の砦として、今後も高度救命救急センター的な役割を果たしていくことは当然ですが、地域の救急医療に貢献するためには、目まぐるしく変化する社会が求めるニーズにも柔軟に対応していく必要があると思っております。現在の救急医療における課題の1つが「2025年問題」に伴う高齢者救急ならびに病院収容困難事案の著しい増加と思われます。当センターでは、この課題にも積極的に貢献していけるよう、令和7年2月に救急患者連携搬送料加算の施設基準を取得し、さらなる地域連携を強化していくこととしています。先日県北地域を除く救急告示医療機関に、高齢者救急の後方連携に関するアンケートを行ったところ、50を超える施設より協力していただけるという、とても心強い回答をいただきました。現在、この取り組みのさらなる充実に向けて調整を進めているところであります。
専攻医教育におきましては、「地域で最強の救急総合医を育成する」を合言葉に、「For MIYAZAKI救急科専攻医プログラム」を立ち上げ、卒後3年目の救急科専攻医を診療チームのリーダーとする独自の教育方法を行ってきました。現在10名がこのプログラムにのって救急科専門医取得を目指しています。この教育方法について専門研修修了者にアンケートを行いましたところ、「つらい面もあったが、指導医の掌の中で多くの症例を経験でき早く実力をつけることができた」という肯定的な意見を数多くいただきました。
今後も専攻医からの意見を尊重しつつ、専攻医が“生き生きと輝いて後輩の憧れの的”となるような教育システムにできるようブラッシュアップしていく所存であります。
研究面では、重症多発外傷診療システムの構築と検証、補体と凝固系のクロストーク、病院前救急医療システムの構築と検証、多発外傷をともなう重症頭部外傷の治療、救急医療過疎地域に対する遠隔診療支援体制の構築、災害医療など幅広く行っており、関連学会はもとより欧文誌や和文誌にその成果を報告しています。
まだまだ若い救命救急センターではありますが、皆様方のご支援のおかげで診療のみならず、教育や研究、国際連携においても少しずつ前進することができました。
新しい教室であるがゆえのパワーを活かし、今後も教室員一同、患者様に安心安全でご満足いただける医療が提供でき、また救急医療のさらなる進化に少しでも貢献できるよう、なお一層精進していく所存ですので、今後とも変わらぬご指導ご鞭撻の程よろしくお願いします。
宮崎大学医学部附属病院
救命救急センター 看護師長
夏伐憲子
宮崎大学医学部附属病院救命救急センターは、2025年で14年目を迎えました。3次医療機関としてあらゆる救急患者を受け入れ、「命をつなぐ」“For MIYAZAKI”の精神で救命救急センターの医師や各診療科の先生方と連携しながら、看護師も積極的に救急医療に対応しています。
当院の救命救急センターは、専用病床20床を備え、院内でのベッドコントロールはもちろんのこと、患者支援センターの協力を得ながら県内の多くの医療施設に患者様を広く受け入れていただいております。
救命救急センター開所と同時に運航が開始された宮崎県ドクターヘリ、2014年にドクターヘリの補完として導入されたドクターカー、救急現場に医師や看護師を投入することで、病院前から診断・治療を行うことが可能となり、患者様の致命率の向上に貢献しています。
2025年4月現在、看護スタッフは、看護師長1名、副看護師長4名、看護師40名の45名(うち救急看護認定看護師2名、クリティカルケア認定看護師1名、特定行為看護師1名)が活動しています。
看護部の教育理念である「愛と和」は、看護職が人を大切にした倫理性のある行動ができること、看護職間のチームワークや他職種とのチーム医療など、より良い看護を提供するうえでの連携や協働することを示しています。看護の専門性を発揮し、常に患者さんとそのご家族に寄り添い、信頼される看護が提供できるように努力しています。
患者さんの生命の危機に直面する現場は、常に緊張感に満ちています。しかし、そのような状況だからこそ、医師をはじめとする多職種と緊密に連携し、それぞれの専門性を活かしながら、チーム一丸となって患者さんのために全力を尽くしています。患者さん本人やご家族にとっては、予期せぬ事態に戸惑いや不安を感じられることと思います。私たちは、そのような皆様の気持ちに寄り添い、丁寧な説明と心のこもったケアを提供することで少しでも安心して治療に専念していただけるよう努めてまいります。
また、救命救急医療は、常に進歩し続けています。私たちは、最新の知識・技術を習得するための研鑚を怠らず、より質の高い看護を提供できるよう、日々努力を重ねてまいります。
このHPを通じて、救命救急センターの活動や、私たちの想いを少しでも皆様にお伝えできれば幸いです。
最後に、私たち看護師の大先輩でもあるフローレンス・ナイチンゲールが「看護婦が観察もできなければ、いったい何のために看護婦は存在しているのであろうか?」と看護師の観察の重要性について述べているように、救命救急センターの看護師は、五感を駆使して、患者の状態を把握し、迅速に対応しています。そして、患者さんの生命力の消耗を最小限に整えられるよう看護しています。救命救急の現場は、緊張の連続ですが、お互いがコミュニケーションを積極的にとり、信頼関係を築きながら、切磋琢磨しています。
今や、“For MIYAZAKI”の精神は、救命救急センターに関わるすべてのスタッフにも浸透しています。一秒でも早く患者さんの元へ最適な医療を届けられるよう、一人ひとりが成長していける環境をスタッフ全員で築いていきたいと思っております。今後ともご指導よろしくお願い申し上げます。