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寒い時期の体調管理

スポーツ傷害Q&A

季節も秋から冬に代わり、急に寒くなりかぜやインフルエンザなども流行する時期でもあります。せっかく練習で培ったプレイも体調不良では十分なパフォーマンスを発揮できなくなります。今回は、寒い時期の体調管理、とくに選手個人として気をつけることと、チームとして気をつけることについてお話したいと思います。

寒い時期にとくに気をつけることは?

気温や湿度が下がると様々な感染症が流行します。冬場はとくにかぜ症候群、インフルエンザ、ノロウイルス感染症に注意が必要です。

かぜ症候群って何?

かぜは病原微生物の呼吸器への感染で生じる疾患で、原因の種類に関係なく、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、のどの痛み、咳、痰などに加え、発熱、頭痛、全身倦怠感、食欲不振などの全身症状を伴います。原因としては各種ウイルス、マイコプラズマや細菌など多岐にわたっており、一概には特定できない場合もあります。

かぜ症候群にはどうやってかかるの?

感染経路としては、咳やくしゃみをした際に飛び散る水分を含んだ微粒子による感染が多く、これを飛沫感染といいます。咳をすると1回で10万個の病原体を含む飛沫物が約2mほどの範囲まで飛び散ると言われています。電車やバス、エレベーターなどの狭い空間で咳をすると病原体が撒き散らされ、かぜがうつりやすくなります。また、病原体が付着したドアノブや手すり、電車やバスのつり革などに触れた手で鼻を触ったりすると直接感染することもあり、これを接触感染といいます。通常のかぜでは接触感染の方が多いとの報告もあります。

かぜ症候群の予防法は?

予防法としては、

  1. マスクの着用
    駅、空港、ホテルなど不特定多数のひとが行き来する場所ではマスクを着用したほうがいいでしょう。ひとが多くなると、それだけで病原体を撒き散らす可能性が高くなります。自分の身を守るため、そしてとくにチームメイトがいるところではマスクを着用してください。自分だけの問題ではなく、自分が治ってもチームメイトにかぜをうつしたのでは本末転倒です。
  2. 手洗いの徹底
    かぜの感染経路として、先ほど述べたように接触感染があります。自分でも気付かないうちに病原体が付着したものに触ってしまい感染する可能性があるため、外出後、練習後に必ずチーム全体で手洗いを徹底しましょう。病原体に接触した手であちこち触っていたら、チームメイトにもうつる可能性があります。毎日の習慣にしてかぜを未然に予防しましょう。
  3. うがいの徹底
    かぜの主な症状は呼吸器の症状です。口腔内、鼻腔より咽頭を介して症状が広がります。咽頭の洗浄の効果がありますので、ぜひうがいも施行してください。ヨード剤のうがい薬(イソジンなど)を用意できればよいですが、なければ水うがいでも構いません。水のみのうがいでもかぜの発症が4割減少したとの報告があります。また、宿舎でも毎日うがいを試行するように習慣づけましょう。
  4. 乾燥予防
    この時期は寒くなると同時に湿度が低下し、乾燥することが多くなります。また、ホテルでは空調の関係から乾燥する環境にあります。乾燥すると、起床時にのどが痛くなったり、かぜをひきやすくなります。暖房などの空調は必要最低限とし、タイマーなどで調整しましょう。また就寝前には水分を少なくとも500ml以上摂取するようにしてください。そして可能ならばスチームを、なければ洗面所か湯船に温水をためて寝るようにしましょう。

かぜをひいてしまったら?

このように予防していてもかぜをひくことは考えられます。その際にチーム内での蔓延を防ぐために注意することがあります。

  1. かぜをひいた選手は部屋を隔離する
    かぜの治療の基本は安静・保温・栄養・水分摂取です。しっかりと治すためにも部屋を隔離して一人部屋にしてください。数人の部屋ではかぜをひいた本人もしっかりと休めませんし、同室者にもかぜがうつる可能性があります。また、かぜをひいた選手と同じ部屋では、精神的にも気を使いますし、睡眠も十分にとれず試合への集中力も低下してしまいます。かぜをなおすこと、そしてチームメイトにうつさないことを念頭に対処してください。
  2. スクイーズボトルの使用法
    スクイーズボトルの飲み口を口もしくは歯であけて飲んだり、飲み口に直接口をつけて飲む光景を見ることがあります。これは衛生面および感染の観点から非常に危ないことです。チーム内での感染の蔓延を予防するために、スクイーズボトルの飲み口には絶対に口を直接つけないことを習慣づけてください。また、直接口をつけなくてもかぜを引いた選手のあとに使用することも問題です。かぜをひいた選手にはチームのボトルは使用させず、個人専用のペットボトルなどで水分摂取をさせるようにしましょう。

薬は何を飲めばいいの?

そのほかに注意することとして、ドーピング検査の観点より市販の総合感冒薬の服用は控えてください。近年、高校全国大会でもドーピング検査が実施されています。市販の総合感冒薬のほとんどには、興奮作用のあるメチルエフェドリンやマオウが含まれています。これらの成分は、ドーピング禁止薬物に指定されており、知らずに服用してしまってもドーピング検査では陽性に判断されてしまいます。かぜにはその症状ごとに咳止めや抗生剤などの薬剤が医師から処方されて服用するのがアスリートの世界では一般的です。安易に薬局の薬に手を出さずに病院で薬を出してもらいましょう。またその際には、自分がスポーツ選手であることを必ず医師に告げて、ドーピング禁止薬物以外の薬剤を処方してもらってください。

インフルエンザって何?

インフルエンザはウイルスによって感染する感染症です。インフルエンザのタイプとしては一般的にはAソ連型、A香港型、B型の3タイプありますが、2009年に大流行した新型などもあります。流行するタイプは年によって異なります。

インフルエンザの症状はどんなの?

症状としては、かぜ症候群と同様に鼻水、咳などの呼吸器症状ももちろん出現しますが、高熱・頭痛・腰痛・筋肉痛・関節痛・全身倦怠感などの全身症状が早期より高度に出現します。

インフルエンザの予防法は?

予防としてはかぜ症候群と同様にマスク着用、手洗い、うがいなどが有効です。とくにマスク着用にてインフルエンザの発症が5分の1に低下したとの報告もあります。また、インフルエンザウイルスは湿度に極めて弱いため、部屋の湿度を上げることはインフルエンザの予防にとても有用です。加湿器を使用したり、洗面所や湯船にお湯をためておくようにしましょう。さらに国内で製造されているインフルエンザワクチンは先述した3タイプのウイルスに対応していますので、予防接種をおこないましょう。しかしながら効果が発現するまで2-3週間ほどかかりますので、早めのインフルエンザワクチンの予防接種をお勧めします。

ノロウイルス感染症って何ですか?

ノロウイルスは非細菌性急性胃腸炎を引き起こすウイルスの1種で、おもに牡蠣などの貝類による食中毒の原因になるほかに、感染したひとの糞便や吐しゃ物を介して経口感染をおこします。牡蠣・アサリ・シジミなどの二枚貝の摂取により感染するものが多いですが、日本ではとくに冬場に牡蠣を生食する機会が多いので冬場に流行するようです。

ノロウイルス感染症の症状は?

症状としては突発的に強い腹痛と吐き気、嘔吐、下痢などがおき、悪寒や発熱を伴うこともあります。

ノロウイルス感染症の予防と注意点は?

ノロウイルスは先述したとおりに二枚貝の摂取によって感染するほかに、患者の排泄物によって感染したり、生の牡蠣などを扱った包丁やまな板、料理人の手指を介して二次感染することもあります。チーム内に感染が蔓延しないように、

  1. 二枚貝の摂取は控えること
    家庭でもですが、宿舎にもお願いしておくことが望ましいと思います。また、他の宿泊者用に二枚貝を出すような場合には、料理人の手洗い・消毒の徹底やまな板・包丁の別使用なども依頼しておいたほうが無難でしょう。
  2. 感染者がでたら隔離すること
    とくにトイレや浴室などは完全に別使用にしたほうがよいでしょう。また感染者が使用したドアノブ、蛇口、手すりなどにも触れないようにしましょう。

ノロウイルス感染症の治療法は?

ノロウイルス感染症に有効な薬剤はなく、確立された治療法は現在のところありません。感染しないことが最良の治療ですが、万が一感染してしまった場合には、早めに病院を受診しましょう。また、嘔吐や下痢を繰り返すと脱水状態に陥ります。水分摂取が推奨されますが、ミネラルウォーターやお茶などは喪失した電解質を補うのに十分なものではありません。スポーツドリンクを常温にして摂取するようにしましょう。

夏合宿を終え、きつい練習で培ったプレイも体調が不良な状態ではよいパフォーマンスを発揮できません。ベストコンディションで試合に臨み、ベストパフォーマンスを出せるように、個人で、そしてチーム全体で体調管理に努めてください。

参考文献

田島卓也:冬場の体調管理. ラグビーマガジン. 新メディカルズファイル. ベースボールマガジン社, 2. 106-107 (2008)