研究業績

研究費による成果

掲載日:2017年05月29日

(1)科学研究費補助金

萌芽研究、循環系のオーファン受容体を特異的に細胞内移行させる未知の生理活性ペプチドの探索

 我々は、G蛋白共役型受容体(GPCR)の安定発現系を独自に作製して、GPCRのリガンド依存性細胞内移行(internalization)の機序を明らかにし(Kuwasako et al. J. Biol. Chem. 2000; 他)、細胞内移行を定量するための簡易アッセイ法を確立した。今回、新規の生理活性ペプチドを探索すべく、循環系に高発現しているFamily Bのヒトオーファン受容体を標的に2種を選定して、これらの遺伝子の5'端と3'端にそれぞれV5タグ(受容体の細胞膜発現と細胞内移行をFACS解析で定量)とEGFP(受容体の細胞内移行を可視的に評価)を付加してHEK-293細胞に遺伝子導入し、薬剤選別後に各々の安定発現系を樹立した。これに平行して、循環系の臓器(ブタ左心房、左心室、肺、腎臓、副腎)の抽出液を大量に獲得した。これらの抽出液を処理した後に各安定発現系に添加して、当該受容体の細胞内移行を指標に精製を進めたが、目的のペプチドは得られなかった。今回浮き彫りになった問題点の解決策を講じ、現在、Family Aのヒトオーファン受容体も対象に当該研究を進めている。

若手研究(スタートアップ)、プロアンジオテンシン-12の単離精製および生成変換機構の解明
目的:1)

 ヒトプロアンジオテンシン-12(proang-12)あるいは類似ペプチドの系統的検索を行い、2)ラットproang-12の病態生理学的意義の解明、および3)proang-12の生合成およびAng IIへの変換機構の解明を試みた。

成果:1)

 Ang IIのN末側を特異的に認識するRIAにより、新たな分子型のヒトアンジオテンシンペプチドを検索したところ、複数のproang-12あるいは類似ペプチドが存在する可能性が示唆された。2)ラットproang-12の発現を免疫組織染色にて検索したところ、心筋細胞および腎尿細管に比較的高いレベルのproang-12の発現が認められた。また、腎由来レニンが欠落した両側腎臓摘出ラットでは、コントロール群と比較して、血液中のproang-12、Ang IおよびAng II濃度は低値であったが、心室筋におけるこれらのペプチド濃度が逆に上昇していた。すなわち、心室筋には、血中RA系非依存性のアンジオテンシンペプチド産生系が存在している可能性が明らかになった。3)培養血管内皮細胞上において、proang-12が速やかにAng I、Ang IIへと変換され、少なくとも血管内皮では、一連の変換にACEが関与していることが明確になった。

基盤研究(C)、アドレノメデュリンと関連ペプチドの特徴的作用の解析と治療応用

 アドレノメデュリン(AM)とProadrenomedullin N-terminal 20 peptide(PAMP)は、同一の前駆体から産生されるが、相互に異なる作用を有する。本研究では、AMとPAMPの特徴的な作用を解析して、治療薬としての有用性を検討した。その結果、血管新生作用、心筋線維化抑制作用、併用降圧作用、大腸潰瘍治癒促進作用、血圧上昇抑制機能が明確になり、血管新生と大腸潰瘍治癒促進の作用機序についても解明された。また、大動脈疾患の発症進展の機序に関する新たな知見も得られた。それぞれの作用および作用機序の詳細に関して、科研費以外の学術研究費による成果に後述した。本研究の結果を基盤として、AMとPAMPの臨床治療学的応用のための研究展開が可能となった。