研究業績

研究費による成果

掲載日:2019年05月22日

(2)学術研究助成(科研費以外)

公益財団法人ソルト・サイエンス研究財団研究助成、食塩摂取量増加に伴う血圧変動性増大のモデル動物の開発と機序解明および治療手段探索
上原記念生命科学財団来日研究生助成金、血圧変動性増大のモデル開発・機序解明・治療手段探索

 発表論文:Jiang D, Kawagoe Y, Kuwasako K, Kitamura K, Kato J. Inhibitory effects of losartan and azelnidipine on augmentation of blood pressure variability induced by angiotensin II in rats. Eur J Pharmacol 2017; 806: 91-95.

一般財団法人地域医学研究基金、心血管保護ペプチド・アドレノメデュリンのPEG化による薬理学的特性の向上

 論文発表:Kubo K, Tokashiki M, Kuwasako K, Tamura M, Tsuda S, Kubo S, Yoshizawa-Kumagaye K, Kato J, Kitamura K. Biological properties of adrenomedullin conjugated with polyethylene glycol. Peptides 2014; 57: 118-121.

公益財団法人ひと・健康・未来研究財団、老化抑制降圧ペプチドの機能増強個体の臨床疫学的同定と解析

 心房性と脳性ナトリウム利尿ペプチド(ANPとBNP)およびアドレノメデュリン(AM)は、降圧ペプチドであり、高血圧や心血管・腎臓疾患の発症進展に対して抑制的に作用する。本研究では、これらの降圧ペプチドの血中濃度が高値を示し、心血管・腎臓疾患を発症しない「降圧ペプチド機能増強個体」を、地元自治体(宮崎市清武町)住民の健診事業をとおして同定し、機能増強の機序を解明することを目指した。清武町の健診受診者の降圧ペプチド濃度を測定して、血圧およびその後の血圧変化との関連を解析したところ、極めて少数であるが、血圧に対して相対的にANPまたはBNP濃度が高く、高血圧を発症しない個体の存在が観察された。現時点にて、降圧ペプチド機能増強個体の同定には至っていないが、本研究にて得られた成果を基盤にして、研究コホートのサンプル数を増やしつつ追跡調査を継続中である。

大和証券ヘルス財団、血中降圧ペプチド濃度をマーカーとした慢性腎臓病対策の試み

 維持血液透析を必要とする末期腎不全(ESRD)は、中高年の生活の質を低下させる重要な疾患の1つである。慢性腎臓病(CKD)はESRDの予備軍であり、健康診断をベースにしたCKDへの早期介入が求められているが、CKDの発症進展を予測することが難しい。一方、心房性と脳性ナトリウム利尿ペプチド(ANPとBNP)およびアドレノメデュリン(AM)は降圧ペプチドであり、これらのペプチド血中濃度測定の心血管疾患マーカーとしての有用性が示されている。本研究では、宮崎市清武町の住民健診受診者を対象に、降圧ペプチド血中レベルのCKD対策における疾患マーカーとしての有用性を検討した。その結果、降圧ペプチドレベルの高い住民からのCKD発症が高頻度であることが明らかになり、降圧ペプチド濃度がCKD発症のマーカーとして有用である可能性が判明した。

かなえ医薬振興財団研究助成、アドレノメデュリン受容体の役割の解明と臨床応用を目指した新たな手段の確立
武田科学振興財団研究助成、受容体活性調節蛋白によるG蛋白共役型受容体の分子調節機構の解明およびその臨床応用

 カルシトニン受容体様受容体(CRLR)に3つの受容体活性調節蛋白(RAMP)が作用すると、1型カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)受容体(CRLR/RAMP1)と2つのアドレノメデュリン(AM)受容体(CRLR/RAMP2及びCRLR/RAMP3)が形成される。我々は、ヒトのカルシトニン受容体(CTR)の主要分子型である2型CTR(CTR2)にRAMP1が作用すると、2型CGRP受容体が形成されることを初めて明らかにした。さらに、内在性のヒトCTR2の機能を抑制するdominant-negative RAMP3変異体を同定した。
 今回、FACS解析によるCRLR/RAMP複合体の細胞内移行の定量法を確立して、CRLRの細胞内輸送における各RAMPの細胞内領域(C-tail)の役割を検討した。ヒトRAMP3のC-tailはCRLRの細胞内移行を負に制御し、その責任領域はSer-Lys配列(SK配列)であることを明らかにした。ヒトRAMP2のこのSK配列はCRLRの小胞体から細胞膜への輸送に不可欠であることが判明した。一方、ヒトRAMP1のC-tailはCRLRの細胞膜発現や細胞内移行に関与しなかった。また、どのRAMPのC-tailもCRLRのライソゾーム集積に関与しなかった。
 RAMP2とRAMP3のアミノ酸残基の中で、ヒスチジン(His)の含有率は数%と最も低く、いずれも細胞外領域に存在する。今回、各Hisをアラニンに置換したヒト変異体をHEK-293細胞に導入して、それらの役割を検討した。RAMP2の124番目のHis(His124)とHis127はAM受容体の細胞膜発現に不可欠であり、RAMP3のHis97はAMの結合と反応に重要である(RAMP2のHis124とRAMP3のHis97は同じ位置に存在)。このように、AM受容体におけるRAMP2とRAMP3の役割は異なる。
 リコンビナントのみならず血管内皮に内在するヒトAM受容体は、細胞内移行後にライソゾームに集積するため、細胞内シグナリングが断続的になる。各受容体のシグナリングを増強させ、細胞内移行とリサイクル(細胞膜への再分布)を促進させることにより、増幅したシグナリングの持続化が可能になる。従って、AM受容体に特異的な分解系のメカニズムを明らかにし、AM受容体を分解系に誘導せずに、速やかにリサイクルさせる手段の開発が必要である。それ故、本研究では、それらの細胞内シグナリングを特異的に増強かつ持続させる手段の確立を目指している。GPCRのC-tailは、細胞内移行やリサイクルに関わる責任領域が存在することが多い。実際、ヒトCRLRのC-tailを欠如させると、細胞内移行は全くみられなかった。本研究で、ヒトCRLRのC-tailの一部をCRLRと同じFamily Bに属するX受容体と組換えた遺伝子をヒトRAMP2の安定発現系に導入すると、CRLRのリサイクルが促進されることを見出した。この現象は、蛋白合成を阻害するcycloheximide の前処置で抑制されず、リサイクルに関与するエンドソームを阻害するmonensinとbafilomycin A1の前処置によりほぼ完全に抑制された。従って、この複合体のリサイクルは、小胞体での受容体合成の促進に依存せず、リサイクルに関わるエンドソームを経由している。一方、RAMPの細胞内C末端領域には、ユビキチン(分解系誘導蛋白)やN-ethylmaleimide-sensitive factor: NSF(リサイクル誘導蛋白)のためのbindingモチーフが存在するが、両者とも作用しないことを確認した。今後、この複合体のリサイクルに関わる蛋白を同定し、詳細な機序を明らかにしたい。

循環器病研究振興財団研究助成、一般住民の心血管疾患リスク評価における降圧因子アドレノメデュリン(AM)とその関連ペプチドの血中濃度測定の意義

 脳卒中や心疾患の発症を予防するためには、生活習慣への介入が必要である。その際、個々の心血管リスクを定量的に評価する必要がある。本研究では、地域住民の心血管疾患リスク評価における降圧因子アドレノメデュリン(AM)の血中濃度測定の有用性を検討した。基本健康診査を受診した正常血圧の清武町民220名を対象に、血中AM濃度を測定して、3年間の追跡調査を行なった。追跡し得た177名を解析対象とし(追跡率80.5%)、収縮期血圧140mmHg以上または収縮期血圧90 mmHg以上を認めた場合を高血圧発症とした。血中AM濃度の中央値により、高AM群と低AM群の2群に分けて解析したところ、3年間の追跡期間中、高AM群からの高血圧発症(27.8%)は、低AM群(11.5%)より有意に(P<0.01)高頻度であった。重回帰分析では、年齢、収縮期血圧、血中AM濃度が高血圧発症を規定する有意な因子として抽出された。一方、降圧因子のナトリウム利尿ペプチド(ANPおよびBNP)の血中濃度についても同様に解析したが、明らかな傾向は認められなかった。すなわち、高血圧発症に先行して血中AM濃度上昇が観察され、AMが血圧上昇に対して抑制的に機能しているという我々の仮説を支持している。本研究の結果は、血中AM濃度測定が心血管疾患のリスク評価のうえで有用である可能性を示唆している。

武田科学振興財団「報彰基金」研究奨励継続助成、高血圧性および虚血性心疾患におけるアドレノメデュリン
(AM)の病態生理学的役割の解明と実験的治療の試み
日本医師会医学研究助成、アドレノメデュリンとPAMPの機能解析と治療応用の可能性検索

 心筋梗塞ラットにおけるアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)とAMの併用効果:我々は、心筋梗塞ラットの急性期にAMを投与すると、慢性期の心筋リモデリングが抑制されて、心機能低下が抑制されることを報告した。本研究では、梗塞後リモデリング抑制の有用性が実証されているARBにAMを併用することにより、より有効なリモデリング抑制効果が得られるかを検討した。ラット心筋梗塞モデルの急性期より、AMを腹腔内に1週間、ARBカンデサルタンを経口にて9週間、それぞれ投与した。急性期のAM併用により、ARB単独投与に比較して、非梗塞左室心筋の線維化をさらに抑制され、血中ANP濃度も低下し、左室収縮能と拡張能は改善傾向を示した。すなわち、急性心筋梗塞後リモデリング抑制を目的とした、AMの併用治療薬としての有用性が示唆された。
 AMとPAMPの併用降圧効果:降圧ペプチドAMとPAMPが同一の前駆体から産生される意義を明確にするために、高血圧ラット(SHR)に、AMとPAMPを単独または併用投与して降圧効果を観察した。15週齢のSHRに、AMまたはPAMPを単独または併用にて4週間皮下投与し、血圧と心拍数を無麻酔無拘束下に持続的にモニターした。AMとPAMPの併用投与により、単独投与と比較して、昼間と夜間ともに、さらなる降圧作用が観察された。以上より、同一の前駆体から産生される異なった2種類のペプチドが血圧の上昇に拮抗すべく、協調して機能している可能性が示唆された。すなわち、AMのみでなくPAMPの降圧作用の臨床応用の可能性が示唆された。
 腹部大動脈瘤(AAA)の発症進展におけるAMの病態生理学的役割:AAA組織の肥満細胞に高いレベルのAM免疫活性が観察され、AAAを認めない大動脈と比較すると、AAAでは肥満細胞の数が増加していた。細胞培養実験では、肥満細胞からのAMの産生と分泌が観察され、AAA由来の線維芽細胞との共培養下において、AMはコラゲナーゼ感受性プロリン取り込みを抑制した。すなわち、AAA組織中の肥満細胞がAMを産生し、産生されたAMがAAA組織の線維化を抑制する可能性が判明した。今後、AMがAAA拡大抑制的に機能しているか否かを、動物モデルを用いて明確にする必要がある。
 大腸潰瘍の動物モデルにおけるAMの効果:炎症性腸疾患に対するAMの影響を明らかにする目的で、ラット酢酸誘発大腸潰瘍モデルに対してAMの注腸投与を行い、大腸潰瘍に対するAMの影響を検討した。AM注腸は、対照(生食注腸)群と比較して、濃度依存性に潰瘍面積を縮小させた。AM投与により、組織学的に、潰瘍辺縁の浮腫と炎症細胞浸潤が軽減し、潰瘍部組織重量が減少した。また、AM投与群では、対照群と比較して、大腸組織内IL-6含量が有意に低値であった。すなわち、AM注腸投与は、酢酸誘発大腸潰瘍の重症度を改善し、潰瘍改善効果にはTh2系サイトカインが関与している可能性が示唆された。炎症性腸疾患の治療薬としてのAMの可能性を示唆する結果と考えられた。

JSTシーズ発掘試験、プロアンジオテンシン-12の診断薬としての応用
目的:1)

 ヒトproang-12あるいは類似ペプチドの単離同定を試みて、それらのペプチドの測定系を作成する、2)動物実験によりproang-12の病態生理学的役割の解明する、そのうえで3)proang-12あるいは類似ペプチド測定系の組織RA系活性評価手段(診断薬)としての可能性を検索する。

成果:1)および3)

 Ang IIのN末側を特異的に認識するRIAにより、新たな分子型のヒトアンジオテンシンペプチドを検索したところ、複数のproang-12あるいは類似ペプチドが存在する可能性が示唆された。また、アンジオテンシノーゲンの構造よりヒトproang-12のアミノ酸配列を想定し、測定のための特異的かつ高感度RIAを確立した。現在、本RIAによるヒトサンプル中のproang-12様免疫活性の測定を進めている。2)ラットproang-12の発現を免疫組織染色にて検索したところ、心筋細胞および腎尿細管に比較的高いレベルのproang-12の発現が認められた。また、腎由来レニンが欠落した両側腎臓摘出ラットでは、コントロール群と比較して、血液中のproang-12、Ang IおよびAng II濃度は低値であったが、心室筋におけるこれらのペプチド濃度が逆に上昇していた。すなわち、心室筋には、血中RA系非依存性のアンジオテンシンペプチド産生系が存在している可能性が明らかになった。