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桂木教授の部屋

男性の産後うつを考える

男性の産後うつについて考えたことがありますか。近年女性の産後うつ、妊産婦・産褥婦の自殺の増加が大きな社会問題となっています。今回は妊産婦のみならず、男性の産後うつについて考えてみます。

私は現在17歳と14歳になる娘がいます。子育て中の思い出で、今でも1年に1,2度は思いかえされる、苦い苦い思い出があります。上の娘が3歳、下の娘が1歳の頃の出来事です。当時私は大阪の国立循環器病研究センターの宿舎に住んでいました。土曜日で妻は下の娘をつれてやや遠方に外出中でした。私は自宅に3歳の子供と自宅で二人で過ごしていました。緊急帝王切開をするので来てほしいという連絡があり、3歳の子供をどうするか迷いました。同じ宿舎に住んでいた産婦人科医師の奥様に少しの間見ててほしいと連絡したら、断られ、私は泣き叫ぶ我が子を家に閉じ込めて、帝王切開に行きました。ワーワー全力で泣いており、水分など十分に残していたかなど記憶も定かではなく、とても可哀そうでした。帝王切開後家に帰ると子供は元気にしておりました。今でもフラッシュバックされるのは、ワーワーと大声で泣き叫ぶ我が子をしり目にドアを閉める私の姿です。子供が指をはさまぬようにとか、最低限の事は気にしておりましたが、あまりにも残酷であった、と振り返ります。病院に連れて行けば、看護師などが、合間合間に見てくれたのに、何故か気が回らず自分らしくなかったと反省しました。熱射病や、脱水などどいった、病気にならなくて良かったという事では済まされません。泣き叫ぶ我が子を家に閉じ込めるという行為に及んだ事実が14年ほどたった今でも『自分の中にそのような自己中心的で親としての機転が利かない部分があるのか』と思うと自己否定的になる事もあります。

このことは妻にも、同僚にも話しました。多くの人の感想は『まあ、子供がかわいそう!』だけど、すぐには助けてくれる人はいなかったので、仕方ないといえば、仕方ないかなーという内容でした。病院の看護師達には、連れてくれば、誰かがみといたのに・・と言ってくれたので少し救われました。

その長女自身にも子供が中学生になったころにその話をしました。もちろん子供は『記憶にない。仕方なかったんじゃないの、私元気だからいいんじゃないの!』と言ってくれましたが、今でもひどい行為であったと何かにつけ年に何回か思い出され、自責の念にかられています。

子育ての中で男性は誰にも相談できずに、自身の考え、教養の範囲でベストアンサーを選択していくのでしょうが、積もり積もると、ストレスになって一部の方はうつになる可能性がある、という事が言われています。私はならない、と思っている人が一番危ないようですよ。私はいつもうつになりやすい状態10箇条を読んで、できるだけそうならないように自分を仕向けています。

現実令和7年度の現在のそのような現状に警鐘を鳴らす先生がいます。今週12月6日に行われる下記の催しはそのような勉強会です。

お申込みは12月3日(水)までです。どうぞよろしくお願いします。

演者の村上先生は「父親の産後うつ」という言葉は決して適切だと世間に承認された言葉ではないとして使用されているようです。

ですので、冒頭の私の言い回しも今後訂正が必要かと思います。なぜなら母親と父親では産前産後のホルモンの変化や産前産後における役割の違いを踏まえたメンタルヘルス不調に至るまでの「過程」が異なるからです。父親の産後うつという言葉は慎重であるべきで議論が必要な言葉ととらえておられます。そのうえで便宜上「父親の産後うつ」という言葉を使用されています。そもそも父親にEPDSを取る機会は確立されていない。カットオフ値も確立されていない。父親のメンタルヘルスに対する支援は遅れています。

ここからは私見です。

赤ちゃんが生まれた後の支援は父親と決めつけ「頑張ってください、赤ちゃんとお母さんをよろしくお願いしますね」と医療従事者はよく話します。その父親に対する育児や料理・洗濯・子どもの送り迎え・子どもの病院の受診方法・夜泣き・実際の産後の生活など、説明する機会はあったでしょうか?

学校でも習わないし、性行為などの情報は是非に関わらず友人やSNSで情報はあふれていますが、男性の育児参加についての情報は流れているでしょうか?まして友人同士で話す機会なんてなかったでしょうし、会社の話題にも上がらないのではないでしょうか?

そうこうするうち、家族が増え、大黒柱という意味さえも分からず「そうするもんだ」と妻から嫌われないように自分で考え、何が正解かさえも分からず毎日を過ごす。メンタルヘルスの不調さえも気づくこともなく頑張り続けているもしくは、無理だからそもそも関わらないと決めて、文句を言わないようにだけしている。等々、いろいろなご家庭のパターンがあると分娩後一か月健診を担当していて近日考えておりました。

臨床では母親が産後うつの状況になった→治療した→生活が元に戻った→夫がうつで受診を始めた。という流れをよく聞きます。

私も二人の子育てをしながら、産後から子供が中学生に入る位までは何かと大変でした。私が大変であったという事は妻ももっと大変であったかと思います。子育てをする夫婦間の心理的喜びと同時に夫婦であるが故の心理的葛藤、苦痛も並行してあったように記憶しています。

しかし世間的には母親の産後うつに比べ父親の産後うつは深刻な健康問題として認識されていない現状がある反面、父親の産後うつが母子の健康に悪影響をもたらすことが指摘されているようです。

分娩後の夫婦の在り方、お互いの支え方に関して、分娩に関わる医療者の良い学びの会となりそうです。会の参加者は分娩に関わる医療関係者に限られます。今回の学びを産婦人科診療に更に生かしていきたいと思います。