1)ネズミ類の進化(徳田, 1969)

図の説明 :ネズミ類諸亜科の起源・分布・繁栄の程度. 原始ハムスターは、現存のハムスター類(Cricetinae)・マダカスカル島のハムスター類 (Nesomyinae)・アメリカハムスター類(Hesperomyinae)につらなるほかに、より近代的なハタネズミ類(Microtinae)を 生み出す土台になった.真正ネズミ類(Murinae)の類縁は不詳としておく(徳田, 1969).図の中の各群に書き込んだ種類の概数から、現在の繁栄状態をほぼ推察できる.

徳田(1969)は現在のネズミ類の分布から、その進化をつぎのように推定した.
 化石から見ると現世のすべてのげっ歯類の祖先は、北米で発見されたリス型をしたパラミスParamys である.北米の第3紀はじめの暁新世に出現(6500万年前から5000万年前)し、その後ネズミ類が分化した.ハムスター類が漸新世(3000万年前) に現れ世界中に分布を広げた.次にハタネズミ類(ハタネズミやヤチネズミの仲間)が展開した後、アメリカとユーラシアが分離し、真正ネズミ類(マウスや ラット、アカネズミ類)がユーラシア大陸の熱帯・亜熱帯域に現れ、身体が小さくなり多産の方向に進化して現在に至った.真正ネズミ類の侵入しなかったアメ リカ大陸では、ハムスター類がアメリカハムスター類として適応放散し繁栄している.

引用文献: 徳田御稔, 1969.生物地理学(築地書館, 東京).

 

2)ネズミ類の分子進化(鈴木 仁, 1998)

北ユーラシア産のネズミ類の進化を分子系統学的データから推察すれば、そこに生息するネズミ亜科の主だった属は、進化的に短時間に放散した ようである(Suzuki et al., in press).この時期に生まれた日本固有種アマミトゲネズミの系統の古さは新第三紀(2400~180万年前)にさかのぼる.また、日本列島には、固有 種として、アカネズミ、ヒメネズミが生息する.これらの類縁性を大陸種と比較すると、日本にのみ生息する種の系列の分岐は、ラット・マウスの分岐が最低で も1200ー1400万年前と見積もられているが、それの50ー70%程度と推察される(Serizawa et al., in press ).したがって、アカネズミ、ヒメネズミにおいても、これらの分枝は新第三紀にさかのぼる.これまで、一般には日本の陸生哺乳類は第四紀の氷河期に陸橋形 成を通して大陸から渡来してきたと考えられた.しかし、日本列島はおよそ2000万年前には成立したと考えられ、種の分化・維持は日本列島で行われたと考 えるか、あるいは、実際の系統の樹立は大陸で行われ、最近(第四紀)日本に渡来したという2つの対立する立場をとることが可能である.後者の立場をとる と、大陸の祖先集団は第四紀中に絶滅しなければならない.しかし、この考えにはかなり無理がある.前者では、ニホンヤマネやトゲネズミのように遺伝子の種 内変異の度合いが第三紀にさかのぼるものが存在する。また、日本固有種のアカネズミ、ヒメネズミは大陸の優先種のセスジネズミ、ハントウアカネズミと対馬 を境に対峙しているが、これらの種内変異のレベルは同等でそれぞれ高く、アカネズミ、ヒメネズミが少なくとも第四紀の初期には大陸種の侵入を妨げるだけの 分化・適応をとげるだけの充分な時間がその前に必要であった.これらの推察は日本列島には新第三紀以降の古い森林が温存されているという事実とも折り合い がつく(北海道大学大学院地球環境科学研究科生態遺伝研究室 鈴木 仁).


 

3)分類

齧歯目 Order Rodentia(443属2,021種)

リス亜目 Suborder Sciurognathi(375属1,793種)
ヤマビーバー科 Family Aplodontidae(1属1種)
リス科 Sciuridae(50属73種):マーモット、プレーリードッグ、
ウッドチャック、シマリス、モモンガ、ムササビ
ビーバー科 Family Castoridae(1属2種)
ホリネズミ科 Family Geomyidae(5属35種)
ポケットマウス科 Family Heteromyidae(6属59種)
トビネズミ科 Family Dipodidae(15属51種)
ネズミ科 Family Muridae(281属1,326種)
ハタネズミ亜科 Subfamily Arvicolinae(26属143種):モリレミング、ステップレミング、スミスネズミ、エゾヤチネズミ、ハタネズミ、マスクラット    
カンガルーハムスター亜科 Subfamily Calomyscinae(1属6種)
キヌゲネズミ亜科 Subfamily Cricetinae(7属18種):チャイニーズハムスター、アルメニアンハムスター、ジャンガリアンハムスター、ロシアンハムスター、ロボロフスキーハムスター、シリアンハムスター、ブラントハムスター、トリトン(キヌゲネズミ)
アフリカオニネズミ亜科 Subfamily Cricetomyinae(3属6種)
キノボリマウス亜科 Subfamily Dendromurinae(8属23種)
アレチネズミ亜科 Subfamily Gerbillinae(14属110種):
スナネズミ、インドオオアレチネズミ
タテガミネズミ亜科 Subfamily Lophiomyinae(1属1種) 
ネズミ亜科 Subfamily Murinae(122属529種):マウス、ラット、カヤネズミ、ヨーロッパモリネズミ、セスジネズミ、アカネズミ、ヒメネズミ、ミラルディア、オキナワハツカネズミ、ヒラゲハツカネズミ、トゲマウス
モグラネズミ亜科 Subfamily Myospalacinae(1属7種)
オジロハムスターモドキ亜科 Subfamily Mystromyinae(1属1種)
アシナガマウス亜科 Subfamily Nesomyinae(7属14種)
カローネズミ亜科 Subfamily Otomyinae(2属14種)
イワマウス亜科 Subfamily Petromyscinae(2属5種)
トゲヤマネ亜科 Subfamily Platacanthomyinae(2属3種)
タケネズミ亜科 Subfamily Rhizomyinae(3属13種)
アメリカネズミ亜科 Subfamily Sigmodontinae(79属423種): シロアシマウス、コットンラット、カロミス(ヨルマウス)
メクラネズミ亜科 Spalacinae(2属8種)
ウロコオリス科 Family Anomaluridae(3属7種) 
トビウサギ科 Family Pedetidae(1属1種)
グンディ科 Ctenodactylidae(4属5種)
ヤマネ科 Myoxidae(8属26種):ヤマネ、アフリカヤマネ
ヤマアラシ亜目 Suborder Hystricognathi(68属229種)
デバネズミ科 Family Bathyergidae(5属12種)
ヤマアラシ科 Family Hystricidae(3属11種)
アフリカイワネズミ科 Family Petromuridae(1属1種)
ヨシネズミ科 Family Thryonomyidae(1属2種)
アメリカヤマアラシ科 Family Erethizontidae(4属12種)
チンチラ科      Family Chinchillidae(3属6種):ビスカーチャ、チンチラ 
パカラナ科      Family Dinomyidae(1属1種):パカラナ
テンジクネズミ科   Family Caviidae(4属14種):モルモット、マーラ
カピバラ科      Family Hydrochaeridae(1属1種):カピバラ
アグーチ科      Family Dasyproctidae(2属13種)
パカ科        Family Agoutidae(1属2種):パカ
ツコツコ科      Family Ctenomyidae(1属38種)
デグー科       Family Octodontidae(6属9種):デグー
チンチラネズミ科   Family Abrocomidae(1属3種)
アメリカトゲネズミ科 Family Echimyidae(20属78種)
フチア科       Family Capromyidae(8属20種)
ナナツノハ科     Family Heptaxodontidae(4属5種:絶滅種)
ヌートリア科     Family Myocastoridae(1属1種):ヌートリア 


文 献:

  1. Mammal species of the world, a taxonomic and geographic reference(second edition). Ed. by D.E.Wilson and D-A.M.Reeder, 7-8, SmithsonianInstitution Press, Washington and London. 1993.
  2. 白井祥平、1993.世界哺乳類名検索辞典、学名編.原書房, 東京.