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基礎と臨床研究研修案内

研究内容の紹介

卒業数年目までの若手の先生方におかれましては、日々の臨床研修に熱心に取り組まれ、充実した日々を送っていらっしゃることと思います。ある程度臨床を実践すると、この病気の正確な診断方法はなにか、本当の病態はなにか、治療法はないのか、などいろいろな疑問が湧いてくると思います。その疑問を少しずつ解明していく方法が、医学研究です。現在の臨床医としての研鑽の道の先にある選択肢、基礎・臨床の医学研究について、当分野の取り組みを紹介いたします。

基礎研究と臨床研究の違いは、一般的には前者は細胞やマウスを用いた研究室で行われる研究で、後者は実際の患者さんと対象とした研究とされています。内科学講座 呼吸器・膠原病・感染症・脳神経内科学分野では、両方の研究に積極的に取り組んでおります。臨床系の講座・分野においては、臨床との接点を生かした研究が絶対的なミッションかつアドバンテージとなります。そのため、臨床の要素を加えた基礎研究、基礎研究の内容を含んだ臨床研究が当講座では積極的に実施され、世界にその成果を発信しています。

呼吸器内科

1:難治性感染症の克服を目指した新規治療戦略の開発

侵襲性真菌感染症は早期診断が困難で治療薬も限られているため、病原真菌の病原因子や薬剤耐性機序を解明して、既存薬の有効利用や新しい治療薬の開発に繋げるための研究を行っています。
その他、市中発症肺炎の原因微生物やワクチン効果に関する疫学調査、診断や臨床経過の予測に有用なバイオマーカーの探索、各種感染症が健康関連QOLに及ぼす影響の評価、予後予測スコアの構築などによって、最適治療の提案を目指した多分野融合型の基礎研究および臨床研究を行っています。また、COVID-19や肺炎、真菌感染症などを対象に、医師主導治験や前向き介入試験などの多施設共同試験も積極的に行っています。

2:微小環境のロールプレイヤーに着目した肺がんと難治性呼吸器疾患の新規治療法の開発

肺がんを含むがんの発生は、正常な幹細胞と遺伝子変異を生じた幹細胞との競合に依存する確率的プロセスにより生じると考えられています。すなわち、変異した幹細胞が、がん化するためには、「周囲の手助け」が不可欠です。がん化の最重要イベントはこの「周囲の手助け」をつくることであり、有望ながん治療標的となると考えられます。当科では、最近私たちが確立した肺腺がん自然発症モデルマウスを用い、肺間葉細胞のシングルセルRNA解析を行うことで、発がん責任間葉サブクラスターを同定することに成功しています。現在長崎大学と、肺がん手術症例での発がん責任間葉サブクラスターマーカーの検証に関する共同研究を進めています。
また、慢性閉塞性肺疾患(COPD)と特発性肺線維症(IPF)の病態解明と新規治療法開発を目指し、Ptenや、RhoA、Ror2等の細胞極性や細胞運動の制御分子を2型肺胞上皮特異的に欠損するマウスを作製し、正常な肺胞組織が保たれるために不可欠である組織幹細胞ニッチ恒常性を制御する分子機構の解明に取り組んでいます。

3:内分泌的恒常性の破綻に着眼した呼吸器疾患への新しい治療法の開発

肥満は喘息や肺癌などの呼吸器疾患の発症や悪化に関連することが知られています。私たちは肥満がもたらす内分泌因子のレベルの変動が呼吸器疾患の重症度にどの程度影響するかを検討しています。内分泌因子の変動を抑えることで、難治性の呼吸器疾患の新たな治療法を開発したいと考えています。肥満動物モデルを用いた基礎研究、内分泌因子を調節する薬剤を用いた介入試験を行っています。
また、COPDや間質性肺炎や肺癌では体重の減少が進行し、悪液質を引き起こします。悪液質には有効な治療法がなく、肺癌の死亡の半数近くは悪液質が影響します。私たちは、グレリンという胃から分泌される内分泌因子に着目し、悪液質の治療法の開発を行っています。さらに、グレリンの幅広い生理活性作用を用いて、間質性肺炎や肺癌の新しい治療法を開発しています。

膠原病内科

1:HTLV-1感染と膠原病リウマチ疾患の病態解明

HTLV-1(ヒトT細胞白血病ウイルス1型)はATL(成人T細胞白血病)やHAM(HTLV-1関連脊髄炎)の原因となり、九州・沖縄地方に感染者が多いことで知られますが、近年では大都市圏でも感染者数が増加している可能性が報告されています。過去の私達の研究成果で、HTLV-1感染が関節リウマチの炎症病態を増悪させ治療抵抗性となることや、入院を要する感染症の合併を増加させる可能性を見出しました。しかし、その機序は未だに不明であり、抗リウマチ療法がHTLV-1感染に与える影響やATL発症リスクを増加させるのか、などの疑問も解明できていません。より多数の症例での解析を行うことを目的として、2020年からはAMEDが推進する難病プラットフォームに、2012年から運営してきたHTLV-1陽性関節リウマチコホート研究が連結され、九州を中心に全国の医療機関と連携した多施設共同レジストリ研究がスタートしています。レジストリへ登録された感染者の方の末梢血をフローサイトメーターで解析し、ウイルスの感染状況のモニタリングも行なっています。こうして得られたデータをもとに、HTLV-1感染と自己免疫の関連を明らかにし、多くの患者さんに貢献するため、基礎研究・臨床研究に取り組んでいます。また、「HTLV-1陽性関節リウマチ患者診療の手引き」の作成も行なっており、医療関係者や患者様がいつでも閲覧できるように公開しています。

2:自己免疫性炎症性筋疾患における自己抗体と臨床的特徴の解明

皮膚筋炎・多発性筋炎を含む自己免疫性炎症性筋疾患では、陽性となる疾患特異的自己抗体によって臨床的病型や予後が異なることが知られています。しかし、抗SRP抗体陽性壊死性筋症などの稀な疾患に関してはエビデンスが少なく、不明な点も多いため治療に難渋することもあります。本研究では、自己抗体の違いによる臨床像、画像検査・病理学的所見の特徴や、サイトカインプロファイルを解析しており、2024年には同じ自己免疫性炎症性筋疾患においてもARS抗体とSRP抗体では大腿部MRIの筋炎所見が異なることを報告しました。

3:膠原病関連間質性肺疾患における予後予測因子とバイオマーカーの探索

膠原病関連間質性肺疾患は、関節リウマチや全身性強皮症、多発性筋炎/皮膚筋炎などの各膠原病において頻度の高い臓器合併症であり、致死的で重要な合併症です。一方で、近年では強皮症関連間質性肺炎や進行性線維化を伴う間質性肺疾患に対する抗線維化薬の治療効果が示されており、膠原病関連間質性肺疾患に対する治療選択肢は増えつつありますが、実臨床において治療対象の症例の選択が難しいことも多く経験します。こういった背景から、膠原病関連間質性肺疾患の症例の情報を集積し、血液検体を用いて治療効果や予後を予測するバイオマーカーの探索を行なっています。

感染症内科

1:SFTSの病態解明、検査法の開発

SFTS(重症熱性血小板減少症候群)は、マダニによってSFTSウイルスが媒介されることで発症し、国内での患者報告数は宮崎県が最多となっています。SFTSは重症化の機序も不明な点が多く、致死率は20-30%と非常に高いため、病態を解明し適切かつ迅速な診断を行うことが重要であると考えています。これまでに簡易迅速診断検査法の開発を進め、特許申請を終えました。臨床研究にも力を入れており、同じくマダニ媒介感染症である日本紅斑熱との比較や死亡予測因子の検討、ステロイド投与の影響についての論文を発表しました。また、2023年からは全国規模の多施設共同レジストリを立ち上げており、ダニ媒介感染症の診断及び治療の標準化や、予後の改善に向けた治療法の確立を目指しています。

脳神経内科

研究とは自分が興味を持つことを自由に突き詰めることが大切です。しかし、規模の小さい地方大学では単独の診療科や講座で自分がやりたいテーマを深く追求することは現実的に困難です。我々は、自分たちの殻に閉じこもらず、基礎医学の研究室や他学部とも積極的に交流して共同研究の輪を広げていくことで、「自由に、自分のやりたいことを、深く追求する」という研究を行う上で基本的な姿勢を大切にして研究に取り組んでいます。

1:神経変性疾患に関する研究

神経変性疾患は未だに十分に病態が解明されておらず、根本的な治療法が確立されていないものばかりです。我々は、宮崎大学医学部機能生化学と共同研究を行い、小胞体関連分解に関わるDerlinファミリーが欠損することで神経細胞のコレステロール合成が低下して小脳を中心とした脳萎縮を引き起こすこと、ケミカルシャペロンとして臨床応用されている4フェニル酪酸がコレステロール合成低下と脳萎縮を抑制することを見出しました。最近ではALSモデルマウスを用いた実験に取り組んでいます。又、大学院生が宮崎大学医学部微生物学に所属してプリオン病に対する治療に対する基礎研究も行っております。

<代表的な業績>

1. Sugiyama T and Nishitoh, J Biochem. 2024

2. Sugiyama T et al., Sci Rep. 2022

3. Sugiyama T et al., iScience. 2021

4. Nakazato Y et al., J Neurol Sci. 2015

2:神経免疫に関する研究

近年の神経免疫分野における治療の発展は凄まじく、様々な分子標的薬を使うことができるようになって、10年前では考えられないほど疾患の活動性をコントロールできるようになっています。しかし、まだ多発性硬化症などの病態解明は十分ではありません。そこで我々の中から、国内における神経免疫学的研究の先端を走っている大阪大学分子神経科学に国内留学し、実験的に中枢神経に炎症を誘導するEAEマウスを用いた実験を学びに行きました。神経から分泌されるCCL2というサイトカインがリンパ球の誘導に関わるという新しい知見を報告し、現在はEAEマウスを用いて新たな治療法の探索に取り組んでいます。
<代表的な業績>
1. Nakazato et al., Sci Rep. 2020

3:臨床神経生理および神経症候の定量に関する研究

以前から宮崎では脳波や筋電図といった臨床神経生理の研究に取り組んでいましたが、瞬目反射を応用して側屈を伴ったパーキンソン病症例では脳幹機能が変化していることを見出しました。最近では、宮崎大学工学部と共同研究を行い、従来は定性的もしくは半定量的でしか評価ができなかった神経症候を定量化できるような装置やアプリケーションの開発を進めています。

<代表的な業績>

1. Ishii N et al., J Neurol Sci. 2020

2. Sugiyama T et al., J Clin Neurophysiol. 2018

3. Sakai K et al., Epileptic Disord. 2018

4. Hayashida T, Sugiyama T, Sakai K et al, Electronics. 2023

4:神経感染症に関する研究

細菌性髄膜炎を筆頭とした神経感染症は適切な治療を行うことができれば良好な予後が期待できるものが多いですが、一方で治療にたどり着かず、致命的になったり深刻な機能障害を残してしまったりするものも少なくありません。我々は、細菌性髄膜炎症例の脳脊髄液中でLEAP2という生理活性ペプチドが上昇することを見出し、細菌性髄膜炎の新たなバイオマーカーになりうることを報告しました。現在は神経感染症に関するレジストリ研究を立ち上げて予後に関わる因子の解析に取り組んでいます。

<代表的な業績>

1. Sakai K, et al., Brain Behav. 2021

5:臨床疫学に関する研究

慢性砒素中毒は、井戸水などを介して摂取することで現在でも問題になっている地域がありますが、宮崎県高千穂町の土呂久地区には、かつて砒素鉱山があり、1920年から40年間、亜砒酸ガスの飛散により慢性砒素中毒患者が生じました。宮崎大学脳神経内科は宮崎県と協力して1973年から50年以上に渡り、この地区の住民検診を継続して慢性砒素中毒後遺症の経過を追った研究を進めてきました。この研究の中で、最終暴露から40年経った現在においても中枢神経系のシグナル伝達に障害が存在することや神経線維の径により経過が異なることを報告しました。

<代表的な業績>

1. Sugiyama T et al., Int J Environ Res Public Health. 2021

2. Ishii N et al., J Neurol Sci. 2019

3. Mochizuki H., Int. J. Mol. Sci. 2019

4. Ishii N et al., Arch Environ Contam Toxicol. 2018