研究とは自分が興味を持つことを自由に突き詰めることが大切です。しかし、規模の小さい地方大学では単独の診療科や講座で自分がやりたいテーマを深く追求することは現実的に困難です。我々は、自分たちの殻に閉じこもらず、基礎医学の研究室や他学部とも積極的に交流して共同研究の輪を広げていくことで、「自由に、自分のやりたいことを、深く追求する」という研究を行う上で基本的な姿勢を大切にして研究に取り組んでいます。
神経変性疾患に関する研究
神経変性疾患は未だに十分に病態が解明されておらず、根本的な治療法が確立されていないものばかりです。我々は、宮崎大学医学部機能生化学と共同研究を行い、小胞体関連分解に関わるDerlinファミリーが欠損することで神経細胞のコレステロール合成が低下して小脳を中心とした脳萎縮を引き起こすこと、ケミカルシャペロンとして臨床応用されている4フェニル酪酸がコレステロール合成低下と脳萎縮を抑制することを見出しました。最近ではALSモデルマウスを用いた実験に取り組んでいます。又、大学院生が宮崎大学医学部微生物学に所属してプリオン病に対する治療に対する基礎研究も行っております。
<代表的な業績>
- Sugiyama T and Nishitoh, J Biochem. 2024
- Sugiyama T et al., Sci Rep. 2022
- Sugiyama T et al., iScience. 2021
- Nakazato Y et al., J Neurol Sci. 2015
神経免疫に関する研究
近年の神経免疫分野における治療の発展は凄まじく、様々な分子標的薬を使うことができるようになって、10年前では考えられないほど疾患の活動性をコントロールできるようになっています。しかし、まだ多発性硬化症などの病態解明は十分ではありません。そこで我々の中から、国内における神経免疫学的研究の先端を走っている大阪大学分子神経科学に国内留学し、実験的に中枢神経に炎症を誘導するEAEマウスを用いた実験を学びに行きました。神経から分泌されるCCL2というサイトカインがリンパ球の誘導に関わるという新しい知見を報告し、現在はEAEマウスを用いて新たな治療法の探索に取り組んでいます。
<代表的な業績>
1. Nakazato et al., Sci Rep. 2020
臨床神経生理および神経症候の定量に関する研究
以前から宮崎では脳波や筋電図といった臨床神経生理の研究に取り組んでいましたが、瞬目反射を応用して側屈を伴ったパーキンソン病症例では脳幹機能が変化していることを見出しました。最近では、宮崎大学工学部と共同研究を行い、従来は定性的もしくは半定量的でしか評価ができなかった神経症候を定量化できるような装置やアプリケーションの開発を進めています。
<代表的な業績>
- Ishii N et al., J Neurol Sci. 2020
- Sugiyama T et al., J Clin Neurophysiol. 2018
- Sakai K et al., Epileptic Disord. 2018
- Hayashida T, Sugiyama T, Sakai K et al, Electronics. 2023

(https://www.densan-soft.co.jp/work/ai-furue/)
神経感染症に関する研究
細菌性髄膜炎を筆頭とした神経感染症は適切な治療を行うことができれば良好な予後が期待できるものが多いですが、一方で治療にたどり着かず、致命的になったり深刻な機能障害を残してしまったりするものも少なくありません。我々は、細菌性髄膜炎症例の脳脊髄液中でLEAP2という生理活性ペプチドが上昇することを見出し、細菌性髄膜炎の新たなバイオマーカーになりうることを報告しました。現在は神経感染症に関するレジストリ研究を立ち上げて予後に関わる因子の解析に取り組んでいます。
<代表的な業績>
- Sakai K, et al., Brain Behav. 2021
- Sakai K, et al., Endocr J. 2025
臨床疫学に関する研究
慢性砒素中毒は、井戸水などを介して摂取することで現在でも問題になっている地域がありますが、宮崎県高千穂町の土呂久地区には、かつて砒素鉱山があり、1920年から40年間、亜砒酸ガスの飛散により慢性砒素中毒患者が生じました。宮崎大学脳神経内科は宮崎県と協力して1973年から50年以上に渡り、この地区の住民検診を継続して慢性砒素中毒後遺症の経過を追った研究を進めてきました。この研究の中で、最終暴露から40年経った現在においても中枢神経系のシグナル伝達に障害が存在することや神経線維の径により経過が異なることを報告しました。
<代表的な業績>
- Sugiyama T et al., Int J Environ Res Public Health. 2021
- Ishii N et al., J Neurol Sci. 2019
- Mochizuki H., Int. J. Mol. Sci. 2019
- Ishii N et al., Arch Environ Contam Toxicol. 2018
(https://www.pref.miyazaki.lg.jp/kankyokanri/kurashi/shizen/toroku.html)