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番外編 ~串間市民病院での内科研修を終えて~

医局員ブログ

厚生労働省が提唱する地域医療構想とは、「中長期的な人口構造や地域の医療ニーズの質・量の変化を見据え、医療機関の機能分化・連携を進め、良質かつ適切な医療を効率的に提供できる体制の確保を目的とするもの」とされています。私は卒後4年目の医師で、内科専攻医として宮崎県の南端である串間市民病院で半年間勤務をさせていただきました。地域医療の崩壊が危惧される現代において、ある意味、日本の最先端を進んでいる地域かもしれません(実際に、2025年3月に医師の大量退職の懸念で全国ニュースにもなりました)。以下は、私が実体験を通して得た地域医療についての一考察です。
地域の医療ニーズという観点で印象的だったのは、高齢化が進む地域においては先進的な医療や高度な技術よりも重要なことがあるということです。もちろん、それらが必要な症例もあります。しかし、地域医療において求められているのは、患者、家族がその地域で安心して生活を続けることです。それは、時に病気を治すことよりも優先されます。例えば「治療はしたくないけれど痛みはどうにかしてほしい」、「妻の介護があるから外来でできることをしてほしい」と希望されることは稀ではありませんでした。地域の医療資源を最大限活用して、柔軟に対応する力が求められていると感じました。
医療機関の機能分化・連携においては、地域のクリニックや施設と連携を深めることの重要性を痛感しました。この領域では、医療社会福祉士やケアマネジャーの役割が大きいですが、医師としても介護保険などの制度の理解を深めることや、クリニックの医師や施設の職員の方々と普段から交流を行い、情報を共有しておくことでよりスムーズな連携が可能となることを経験しました。
最後は、私の地域医療の経験で最も重要な学びです。それは、環境や制度の整備を行ったとしても、良質かつ適切な医療には、医療者と患者の継続した関係性が必要不可欠であるいうことです。私の半年間の勤務で果たすことができる役割も確かにあると感じましたが、一方で、その限界も感じました。短期間で頻回に主治医が交代する環境では、患者家族が本当の意味で安心して自分や家族の健康を預けるのは難しいと考えます。理想的には、その地域で生活を共にする医療者が、患者の病歴だけでなく、家族構成や家族関係、生活状況や性格まで共有して、医療を提供することが最善だと考えます。医師が不足している中で、そこに近づくにはどうすべきなのか、答えは出ませんが、今回の経験を糧に考察を続けていきたいと思います。

執筆 消化器内科 専攻医 (宮崎大学 / 2021年卒)