我が国の医学系研究において、基礎研究に関しては多くのノーベル賞受賞者を輩出しており高いレベルにありますが、臨床研究については手法や研究体制などの問題もあり、質の高い研究成果が現れにくい現状となっております。加えて、かつての臨床研究に関する相次ぐ不適切事案が明らかになったこともあり、これらの研究不正を防止し、また、臨床研究を適切に支援し、質の高い研究遂行を可能にする十分な体制作りが求められるようになりました。
そのような中で、我が国の臨床研究に関する規制の一つとして、平成29年4月に臨床研究法が制定され、平成30年3月末までの経過措置の後、本格的に実施されることとなりました。当臨床研究法は、臨床研究の実施の手続き、認定臨床研究審査委員会による審査業務の適切な実施のための措置、臨床研究に関する資金等に関する情報の公表の制度等を定める法律であり、これにより本邦でも臨床研究のグローバル化に向けた整備が進み始めることとなります。さらに、医学系研究における倫理指針として従来用いられてきました「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」と「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」が統合され、新たな指針として「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」が公布され、令和3年6月30日より施行されました。
宮崎大学医学部では、これら臨床研究法や新指針に先駆け、独創性があり質の高い研究成果を地域から世界へ発信すべく、平成26年4月に「宮崎大学医学部附属病院臨床研究支援センター」が設置されております。初代センター長は、片岡寛章教授(病理学講座腫瘍・再生病態学分野)であり、第2代センター長、竹島秀雄教授(臨床神経学講座脳神経外科学分野)へと引き継がれ、私は令和3年10月に第3代センター長を拝命致しました。
臨床研究や新薬の治験は,倫理性と科学性を担保した計画・プロトコル作り・データ管理とコーディネーション・統計解析・報告書作成、そして第三者の視点によるこれらの過程の適切な監査・モニタリングという、専門知識と経験を要する多くのプロセスからなります。宮崎大学医学部附属病院臨床研究支援センターには、これらのプロセスに対応し、適切で質の高い臨床研究と新薬の治験に対応するために、五つの部門(教育・研修部門、研究・倫理支援部門、データマネジメント部門、監査・モニタリング部門、治験部門)を設置しております。さらに、当センターの特色として、宮崎県の「食と健康のイノベーション創出協議会」の運営の下、宮崎県等から委託を受けた食品のヒト臨床試験等の実施を目的として、食品臨床試験部門も併設されています。
当センターの具体的職務としては、企業治験、医師主導治験や臨床研究法下の臨床試験、グローバル水準の医師主導型臨床研究などに対して、プロジェクト管理、データ管理、研究運営など様々な角度からの支援を行なっています。また臨床研究に関する教育も、当センターに与えられた大きな役割と考えます。特に研修医、専修医や若手医員等、早い段階での教育が重要であると考えています。臨床研究に携わる研究者は、医師、看護師、薬剤師、臨床検査技師、理学療法士など多職種で構成されており、それら全ての臨床研究スタッフに対する教育も行っていきたいと考えています。
当センターは、病に苦しんでいる多くの患者様へ安全で有効な最新の医薬と医療技術を、可及的速やかに発信するための良質な臨床研究と治験を支援致します。将来の医療に貢献できる研究成果を宮崎県から世界に発信すべく今後とも努力して参りますので、皆様のご支援を宜しくお願い致します。