式      辞


 本日ここに、宮崎医科大学第24回卒業証書・学位記授与式を挙行し、学部112名、大学院11名の卒業生を送り出すに当たりまして、一言ご挨拶を申し上げたいと存じます。
 大変ご多忙の中、ご臨席頂いたご来賓の方々、今日の日を待ちこがれていらっしゃったご父兄、ご家族の皆様方、教職員の方々、そして先輩の晴れの日を見送る在校生諸君のご列席の下、盛大にこの式典をお祝い頂けることは、まことによろこばしいことと、厚く御礼申し上げます。
 さて、卒業生の皆さん、永年にわたる苦労と様々な困難を乗り越え、勉学にいそしみ、あなた方は、本日、この輝かしい日を迎えられました。誠におめでとうございます。心からお祝い申し上げます。
 人の命を預かる医師になろうという目標のため、また更なる医学研究のため、研鑽・努力されたあなた方は当然ですが、あなた方を支え、励まし、暖かく、そして時には厳しく見守って下さったご両親、ご家族の方々のお喜びは如何ばかりかと拝察致します。
 医学部では6年間の、大学院ではさらに4年間の課程をおえて、医師として、また医学研究者として、皆さんは独り立ちしたプロフェッショナルの第一歩を踏み出そうとしているのであります。
 21世紀の幕開けとともに、私たちを取り巻く環境には、大きな変化が起こりつつあります。国際的な不安と緊張、うち続く経済不況、最近ではスペースシャトルの惨事など、暗いニュースが報道されるのと対照的に、サイエンスの世界では、ノーベル賞ダブル受賞の嬉しい話題のほかにも、永年の謎であったヒト・ゲノム解読計画がほぼ完了したことを告げる素晴らしい報道が伝えられました。生命科学の領域は勿論、21世紀の医学・医療の世界が大きく進歩し、私たちの健康と福祉に限りない夢と希望を与えてくれる新しい時代の到来を期待させる朗報であります。しかし、まさにこの時期に、医師として出発するあなた方は、患者さんに信頼される医師でありつづけるためには、卒業した後も、いえ、これからこそ本当の勉強が始まるのだと覚悟を新たにしなければならないのだと思います。
 サイエンスが発展するとともに、医学・医療の知識、技術はますます多様化し、複雑になります。それらを、これからは自分で勉強し、修得しなければならないのであります。また、生活習慣、生活環境はどんどん変化してゆき、疾病構造の変化は更に急速に進むでしょう。病気の特性も、種類も、そして人々の考え方さえも変わってきます。臓器移植、遺伝子治療や再生医学など先端医学の議論に見られるように、生命の尊厳、医の倫理が改めて問われる時代になっています。患者さんの痛みと苦しみを共感出来る豊かな人間性が強く求められます。今医師の卒後研修の重要性が強調されていますが、これからの毎日が医師として真の研鑽の日々である筈です。入学当時のあの新鮮な心を忘れず、いつまでも患者と共に生きる医師であって下さい。私ごとですが、14年前、心筋梗塞を患い、手術後、心停止を起こしましたが、まさに九死に一生を得ました。医学の進歩の恩恵をつくづく痛感すると同時に、面倒をかけた医師・看護師の皆さんの心温まる医療・看護のありがたみに感謝しております。私の経験ですが、患者は、医師にすべてを任せ、すべてをあずけ、それでいながら、きわめてわがままであります。それを常に受け止め、許容しながら、医療を的確に進めていく医師の苦労は並大抵のものではないと思います。その苦しみを超えて、素晴らしい医師に育って頂きたいと望みます。
 最後に、もう一つお話しなければならないことがあります。
 それは、この卒業式が宮崎医大単独で行う最後の卒業式であると言うことです。
ご存じのように、昭和49年に創設された我が宮崎医大は、この秋、その30年の歴史を一応閉じて、新しく創設される宮崎大学医学部として生まれ変わることになります。先ほども申し上げましたが、21世紀の医学は随分さま変わりします。21世紀の医学は、他の領域との緊密な相互作用なしでは推進出来ません。人々の健康と福祉、新しい医療のために、農学部、工学部、そして教育文化学部などの他学部と連繋しながらより素晴らしい21世紀の医学部を造り上げたいと努力をしています。4つの異なる学部が、生命科学というキーワードの下に、独自の特色ある新しい大学を創生したいというのが私たちの願いであります。この願いは既に着実に実現されつつあります。宮崎医大の大学院に、この春から、修士課程が増設され、4年制大学出身の人たちを医学・生命科学の領域に誘おうというものです。
 さらに、われわれを力づけてくれる嬉しいニュースは、昨年秋、文部科学省「21世紀COEプログラム」に宮崎医科大学が選ばれたことであります。COEとは優れた拠点(Centers of excellence)の頭文字を取ったもので、文部科学省は、世界的なレベルで最高水準の大学造りを目指して、重点的な研究支援を行う新しいシステムをスタートさせました。初年度のテーマの一つ、生命科学分野では全国国公私立大学から僅か28件が選ばれたのですが、宮崎医大が世界的な研究拠点の一つとして認められたことを大変誇りに思います。また、大学附属病院については、先日行われた財団法人日本医療機能評価機構による厳しい査察をうけ、最高ランクの病院として認定をうけました。これは、病院関係者皆さんの不断の努力によるもので心からその労をたたえるとともに、我ら一同の誇りとするものであります。宮崎医大の歴史は、短くても、先輩諸氏の活躍は目覚ましいものがあり、教育、診療、研究の3本柱を軸とする輝かしい歴史は、誇るべき伝統として、代々受け継がれ、その基盤の上に、新しい医学部が築かれるものであります。
 卒業生の皆さん。あなた方の母校宮崎医科大学は、統合・法人化の後も、あなた方の誇るべき輝かしい母校でありつづけ、更に大きく成長発展する母校でありたいと思っています。
 あとに残るわれわれの決意をここに述べて、今日巣立ってゆく皆さんに贈る言葉と致します。

                                      平成15年3月20日

                                                   宮崎医科大学長  
                                                       松 尾 壽 之 


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