医学科長に就任して
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医学科長 河 南 洋
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この度、思いもかけず、第3代目の医学科長に選任されました。この激動の時期にその大役を仰せつかりましたが、はたして努めることが出来るかどうか、今甚だ心もとない心境です。医学科長就任に際し、医学部医学科会議の主な審議事項である「卒前教育」と「人事」について少し述べさせていただきます。 今、日本の大学のありかたが根本的に問い直されております。日本の大学は如何に自らを活性化させ、輝きを放てるか試されています。まず活性化策の1つとしてボトムアップの視点から、学部生や院生の質を向上させる卒前教育システムの改善が考えられます。さらに国際競争力の視点から高度な研究人材の養成と研究レベルの向上のための人材の流動化や競争的資金の充実という活性化策が挙げられます。これら活性化のための改革の原動力となっているのは、基より平成16年度から実施される「国立大学の法人化」です。 「法人化」には、効率化優先による特定学問分野の切り捨てという負の側面と、各大学による個性を活かした取り組みの自由度の拡大という正の側面とが指摘されております。両側面はいずれも各大学の自己責任の範囲をより明確化することに他なりません。これまで文部科学省によって規制されていた部分が各大学の自由裁量となることで、その大学が何を目指すのかは各大学自身の責任になるわけです。教官人事、学部再編、教務関係などについても知恵を出し合って改革を進め、最高学府としての新生大学の在り方、生き残り方は大学人一人一人が真剣に考えなければならないと思います。 卒前教育のあり方については全国的な見直しが進んでおります。この見直しは卒前に学ぶべき医学知識量が指数関数的に増大しているため、従来の講義形式では対応出来ないことによります。そこで要求されるものは従来の講義形式ではなく、能動的な問題探索・解決方法の習得を主眼とした形式で、実行形態としてはチュートリアル形式、統合型カリキュラムまた共通CBTテストを念頭においたコアカリキュラム作成等が論議されています。本学に於いてもこれまでFD(教官の意識改革)で前向きに検討されてきています。これらの教育改革について「知識」と「知恵」というキーワードで少し考えてみたいと思います。 「知識」は外部から獲得するものであるのに対し、「知恵」は自らひねり出すものであると区別することが出来るかと思います。最近の医学関連の情報量は膨大で、限られた時間内で全ての「知識」を提示することは不可能です。そこで「知恵」育成を主眼としたチュートリアル教育等の有用性が言及されているのです。能動的で国際的な人材が要求される21世紀、ますますこの個性的な「知恵」が要求されるでしょう。 さて、この「知恵育成」に必要なもう1つ重要な要素として、教官、研究者の人事があげられます。大学がバイタリティーを維持し、教育・研究の質的向上を促す上で、研究者の知恵を活性化する人事が重要であることは明白です。近年、任期制が導入されたとはいえ、一人の任用はその後数年に渡り影響を及ぼすため、その選任は重要課題です。特にグローバルワイドな人的交流が必須の要件であります。それを裏付けるかのごとく、文科省の科学技術・学術審議会人材委員会の中で、世界レベルの研究者には多様性とインブリージング(純粋培養)の打破が必要だと述べられております。ここでの多様性とは人材そのものの多様性と人材の活躍する環境の多様性であります。人材の多様性を実現するためにも卒前教育の改善が必要不可欠です。また環境の多様性を実現するために、多様な人材の集まる環境作りを目指し、その手段の1つとして柔軟な人事の推進が必要です。その推進に欠かせないのがインブリージングの打破なのです。規制緩和の拡大により、これからは将に各大学が見識を問われる時代です。この時期を改革のいい機会と捉え、皆様とともに前向きに立ち向かい、大学としての価値・競争力の向上を目指していきたいと思います。大変大雑把な話となりましたが、これで挨拶とさせていただきます。 |
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