85回(1991年)〜第91回(1997年)の医師国家試験に出題された「医の倫理」に関連する問題例

             

 問1 インフォームドコンセントに含まれないのは、どれか。

     a. 病状の説明

      b. 検査法の選択

      c. 病名の決定

      d. 治療法の選択

      e. 予後の説明

 

 問2 医の倫理に関する記述で、正しいのはどれか。

(1)「ジュネーブ宣言」は、医師のあるべき姿を宣誓したものである。

(2)「ヘルシンキ宣言」は、人のbiomedical研究の基本原則を述べたものである。

(3)「医の倫理に関する国際規定」は、医師は患者の利益のために奉仕すべきことを述べている。

(4)informed consentとは、「十分な説明を受けた上での患者の同意・承諾」のことである。

 a. (1)、(3)、(4)のみ

    b. (1)、(2)のみ

    c. (2)、(3)のみ

    d. (4)のみ

    e. すべて

 

問3 ターミナルケアについて、正しいのはどれか。

(1)補液の中止

(2)鎮痛薬の中止

(3)抗不安薬の投与

(4)家族内葛藤の調整

(5)医療従事者間の相互理解

 

問4 末期癌患者の疼痛緩和に対するモルヒネの投与について、正しいのはどれか。

    a. 鎮痛薬として第一選択である。

    b. 原則として外来患者には投与しない。

    c. わが国の人口に対する消費量は、欧米先進国よりも多い。

    d. 近年、わが国では経口薬の投与量が著しく増大している。

     e. 経口投与では、水薬が主に使われている。


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クラークシップで実施するECC(エシックス・ケース・カンファレス)で用いる臨床ケースの一例



70歳前半の女性、Cさん。陳旧性肺結核と肺気腫があり肺の機能は正常の人の3分の1以下。在宅酸素療法を受けている。予後は明らかに米寿は迎えられそうにないが、ガンのような病気ではないのでうまくいけばあと7、8年は息切れしながらも生きられるかもしれない状態。これまでは比較的元気そうだったので、主治医や家族とは、特に延命治療に対する話し合いを事前にしたことは“縁起でもない”という理由で、なされたことはなかった。抑うつ傾向は全くみられない。

今回、広範な肺炎を発症し、救急車で搬送され入院。低酸素のため意識障害があり、通常の呼吸補助では酸素が全く不十分であったため、「もともと肺がかなり悪いのでひょっとしたら一生人工呼吸器が取れない可能性がある」と家族に説明した後、承諾を得て人工呼吸管理とした。その時、同僚の医師から「ああー、Cさんに呼吸器つけちゃったんだー。はずすの厳しいかもねー」と言われた。

 

その後、肺炎は治癒傾向となり、本人も意識は清明となった。人工呼吸器からの離脱を試みたが、二酸化炭素が体にたまってしまい離脱困難であったため、入院12日後に気管切開術を施行した。その後肺炎は治癒といっていい状態になったが、呼吸筋の疲労と急性期に起きた肺の新たな障害のため、人工呼吸器の離脱を試みるとすぐに状態が悪くなることを繰り返した。呼吸筋のリハビリを試みたが失敗。しかし「何とかまた話せるようになるからがんばりましょう」とCさんを励まし続けた。同時に、夜中に自分で呼吸器をはずさないように両手をベッドに拘束した。夜勤の看護師は、抑制はよくないことではないだろうか?とモヤモヤした疑問を感じながらも、「患者が夜中に自分で抜管して死んじゃったら、誰が責任取るの?安全性を優先すべきじゃないの?」という主治医の言葉に反論できず、医師との関係が悪化するのもまずいかな、と思い、それ以来、抑制のことは話題にはしないようにした。

 

入院30日が過ぎようとしたとき、Cさんが主治医を手招きし、ものが書きたいという意思表示をした(気管切開中なのでしゃべることはできない)。主治医が紙とペンを渡すと、Cさんは紙に「呼吸の機械をはずして」とかいた。慌てた主治医が「そんなことしたら死んじゃいますよ」というと、Cさんはまた紙に「死んでもいい」と書いた。主治医は長い入院と呼吸器治療のストレスによるうつ状態かもしれないと思い精神科にもみせたが、明らかなうつではないとの事であった。

 

その後もCさんは主治医に人工呼吸器をはずすことを身振りなどで毎日嘆願した。同僚からは「ほらね、あの時、呼吸器つけるべきじゃなかったんだよ。でももうしょうがないよね」といわれた。家族にこのことを話したところ「母には生きててほしいけれども、先生は母のことを丁寧にみてくださってますから、先生のご判断にお任せしようと思います」と涙を流しながら答えた。

 

結局主治医は呼吸器をはずすことはできなかった。一度医長に呼吸器をはずせないかどうか相談したところ「それは殺人だ!大変なことになるぞ」とたしなめられた。ベッドへの抑制もはずすことはできなかった。結局一番呼吸苦が出ないような設定でごく弱い補助とした。入院56日目にCさんはたんを詰まらせ急変、死亡した。

 

こうしたケースをベースに、「4トピックス・メソッド(4 topics method)」と呼ばれる臨床倫理学(Clinical Ethics)の手法を用いて、問題を整理し、倫理的な分析力と判断力を身につけてもらうことが、このクラークシップの目的です。



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