麻酔科 専攻医インタビュー

2022.02.09


押川先生インタービュー動画


押川 隆(おしかわ たかし)先生 プロフィール

宮崎県出身。2018年3月に宮崎大学卒業後、2018年4月から宮崎県の古賀総合病院で初期研修を行い、2020年4月から宮崎大学医学部附属病院麻酔科へ入局。

 医師を目指したきっかけをお聞かせ下さい。

私は宮崎県児湯郡川南町の出身で、地元のために働きたいと思い、宮崎県で就職して働いていたのですが、心身の不調から仕事の継続が困難となり、最終的に1年で辞職しました。その際に心療内科にお世話になり、私のように精神的な面でサポートを必要としている人が、実は私の周囲にも多くいたことに気づきました。私自身を含め、サポートが必要な方々に何かできることがないかと思い、医師、特に精神科医を目指して再度受験勉強を開始し、2年後に宮崎大学に入学することができました。

 初期研修はどちらで研修されたのでしょうか。また振り返ってみていかがでしたか。

古賀総合病院で初期研修をいたしました。地域医療を担う病院でありながら、専門の診療科も多く、当直で救急対応も経験でき、非常にバランスの取れた研修を行うことができました。医局も雰囲気が良く、医師だけでなく医療スタッフともコミュニケーションがとりやすく、非常に整った環境で医師としての心構えを学ばせていただきました。指導医の先生の「みんなに愛される研修医になりなさい」という言葉が今も心に残っています。

 専門研修で麻酔科を選んだ理由をお聞かせください。

直感です(笑)。実は初期研修で麻酔科はローテーションしていなくて、麻酔科という進路自体、初期研修医2年目になるまで全く進路の候補に考えていませんでした。
当初は精神科もしくは町医者を目指して総合診療科を選択するつもりでしたが、研修をしていく中で、患者に入れ込むあまり、患者に引っ張られて私自身が心身ともに不調となっていく傾向が強いことに気づきました。進路をどうしようかな、と考えていた時、外科研修中に、たまたま宮崎大学の麻酔科の先生とお話しする機会があり、麻酔科はどうか、と誘われました。元々、循環動態を考えたりするのは好きで、オンオフがしっかりした働き方も自分に合っており、そこで初めて麻酔科に興味を持ちました。また、現在は麻酔科医不足のため、手術ができず、救急の受け入れができない、手術が1年待ちなどの問題が生じていると聞き、適切な医療を提供し、地域医療を維持するうえで、麻酔科医は必要とされていると思い、麻酔科を選択するに至りました。

 専門研修先として宮崎大学医学部附属病院を選んだ一番の決め手は何ですか。

宮崎大学の先生に「何もできない状態からでもしっかり面倒みる」と確約をもらったことが一番の決め手です。生活環境が変わることで専攻医の研修に支障が出るのが嫌で、住み慣れた宮崎が良かったというのも大きいです。

 宮崎大学医学部附属病院の麻酔科の特徴を教えてください。

麻酔科には手術部、ICU、ペインクリニックの3つの分野があり、宮崎大学には現在30名程度が在籍しています。また、県立宮崎や市郡医師会病院などへ医師を常時派遣しており、県内の病院からの要請を受け、手術の際の麻酔をかけに行くことがあります。最初の2年間は手術部に在籍し、一通りの手術麻酔を経験したのち、大学以外の病院へ派遣されたり、ICUやペインといった分野を専攻していくことが多いです。研修1年目から1人で症例を受け持つこともあり、他の大学と比べ、独り立ちの時期が早いのが特徴です。
― 実際に独り立ちするときは緊張しましたか?
緊張しましたね。そもそも研修医で麻酔科をまわっていなかったので、初めに研修医みたいな期間が2ヶ月くらいありまして、しっかりサポートされているので安心して研修ができました。

 

 実際に宮崎大学医学部附属病院の研修はいかがですか。

もうすぐ研修を開始して2年が経とうとしていますが、だいぶ麻酔科医らしくなったな、と自身でも成長を感じます。初めは本当に大変でした。麻酔科ではルート確保、挿管、硬膜外麻酔、脊髄くも膜下麻酔、中心静脈カテーテル挿入など習得する手技が多く、元々不器用なこともあり、慣れるまでに時間はかかりましたが、指導医に見守られながら少しずつ手技を習得していきました。また、手技以外でも、個別の患者に対してどのように麻酔をかけるのが適切かを考え、指導医とディスカッションしながら知識を深めていきました。WEBではありますが、学会発表も3回ほど経験し、バランスよく研修を行えています。

 麻酔科でやりがいを感じるのはどういった点でしょうか。

手術の前にしっかり準備をして、麻酔をかけて大きな問題もなく手術を終えることができた時に、ほっとすると同時に、多くの医療スタッフの共同作業である手術の中で、自分の役割を果たせたことに対して、やりがいを感じます。また、術後診察の際に自分の施行した麻酔や鎮痛方法で、「気づいたら手術が終わっていた」「夜にゆっくり眠ることができた」といったお言葉をいただいた時にも、自身の行為が患者さんに貢献できた、とひそかにやりがいを感じています。

 専門研修で1番勉強になっているのはどんなことですか。

患者さんはそれぞれが異なる存在であり、オーダーメイドの対応が求められるため、症例ごとに何がbetterなのかを考えることが1番勉強になります。しっかり準備して症例に臨みますが、後で「こうすれば良かった」と思うことも多々あります。事前に想定していないことは、対応ができない、もしくは対応が遅れてしまうので、いかに前もって準備ができるか、想定外を想定内にできるかが麻酔科医の力量だと思っています。

 研修をされる中で、苦労された事、難しいと感じるところはどういったところでしょうか。

宮崎大学麻酔科は独り立ちが早く、1年目から一人で麻酔を任されることもあるのですが、執刀は医師の経験年数的にも、年齢的にもかなり上の先生方が行うことが多いので、そのような先生方に麻酔科医として責任をもって提案や発言をすることが、未だに難しいです。また、手術においては、医師、看護師、MEさんなど多職種間のコミュニケーション、手術機器の取扱い、物の配置など医学知識以外のスキルも要求されるため、手術室全体を俯瞰して的確に指示を出していくことが難しいと感じます。

 何か研修中に印象に残っているエピソードはありますか。

失敗談と成功談があります。まずは失敗談から。
初めて一人で全身麻酔をかけることになった際に、挿管前にマスク換気ができなくなり、SpO2が低下してきたため、緊急コールをかけました。初めて遭遇する事態であり、自分では対応が分からず動けませんでしたが、コールで来ていただいた先生方に助けられました。自分の行為によって容易に患者さんを危険にさらす可能性があるという麻酔の怖さと、緊急時に動けなかった自分の不甲斐なさを強く感じました。
もう一つは、つい先日のことですが、緊急でStanfordA型の大動脈解離の麻酔をかけることとなった際に、先輩医師の力を借りながらですが、無事に麻酔導入を行うことができました。麻酔導入時の血圧の上昇も降下も病状悪化の可能性がある難しい症例でしたが、落ち着いていつも通りのパフォーマンスを発揮することができました。特に心臓血管外科の手術においては、いつも血圧の変動がないように心がけて麻酔導入しており、日々の努力の積み重ねが実を結んだことを嬉しく感じました。

 指導医の先生方のご指導はいかがですか。

非常に親身になって指導をしていただいています。一人では難易度が高いと思われる手技や症例の際は、気づいたら誰かが後ろで見て、いざという時にアドバイスや助け舟を出してくれます。バックアップがしっかりしているので、安心して研修ができますね。

 

 麻酔科のカンファレンスについて教えてください。

毎朝手術開始前にカンファレンスがあります。カンファレンスでは当直、ICU、ペインからの申し送り後に、当日の手術症例のプレゼンが各麻酔科医からあります。プレゼンで指摘を受けることもあり、自身の麻酔計画で問題ないかを麻酔科医全員で確認する最終チェックの場となっています。また、プレゼンを通じて、他の麻酔科医の症例を把握することができます。
さらに、毎週金曜日の朝のカンファレンスでは抄読会も行っており、自分の興味のある直近の麻酔関連の英語論文を読んで内容をまとめ、発表を行います。4ヵ月に1回程度担当が回ってきます。プレゼンの練習に加え、自分以外の発表を聞くことで幅広い知見が得られます。

― 発表するときは緊張しますか?
緊張しますね。緊張して声が小さくなるとツッコまれやすいので、堂々としています。堂々としていればだいたい大丈夫です(笑)。

 今後のキャリアについて、どのような方向性でキャリアを積んでいきたいですか。

まだはっきりとは決めていません。悠長かもしれませんが、ICUやペイン、大学以外の病院への派遣を経て、考えていけば良いと思っています。また、この2年間は手術麻酔の手技を習得することで手いっぱいでしたが、前に比べると少し余裕がでてきたので、臨床研究などの分野にも手を出したいと思っています。

 専門研修病院を選ぶポイントを初期研修医に向けてお願いします。

コロナ禍の今、病院見学に行くのも難しい状況なのですが、自分をよく知ったうえで科と病院を選ぶことが一番ではないかと思います。
何が好きか、嫌いか、どんな時に力を発揮できるのか、どんな状況が耐えられないのか、譲れないものがあるか、環境の変化に強いか、家庭を持ちたいか、チームプレイができるか、持久力があるか、将来的にどうなりたいか、などのような質問に対して、初期研修で感じたことをもって、自分に正直に、具体性を持って考えてみることをおすすめします。そして、希望する病院や科と照らし合わせた時に合わないというものでないなら、とりあえず選択して悪くないと思います。

 最後に宮崎大学医学部附属病院のPRをお願い致します。

宮崎の医療を支えるうえで大学附属病院の存在は大きく、経験できる症例も豊富で、臨床研究や最新の医療などできることは多いです。また、宮崎という地域柄なのか、宮崎大学附属病院の先生方は、どの科の先生も、後進の育成に熱心で、親身になって色々と教えてくださる先生が多いように感じます。最近だとサーフィンがしたいから宮崎に来たという先生もちらほら見かけます。食事も美味しく、自然も豊かでアクティビティには事欠きません。もし興味がわいた方は、ぜひ一度見学に来てみてください。

(左:指導医 石山先生、右:専攻医 押川先生)