エピソード  Episode

解剖学研究と教育の道へ
Anatomist

宮崎大学医学部解剖学講座 超微形態科学分野
Department of Anatomy, Ultrastructural Cell Biology
Faculty of Medicine, University of Miyazaki

医師を志した一番の動機は定かではありませんが、団地住まいの幼少時に、友達の家で本棚に並ぶ「ブラック・ジャック」(手塚治虫・著)に熱中していたことを思い出します。百科事典から手にとるのは「からだのしくみ」で、「のりもの」や「うちゅう」には手が伸びませんでした。また、新聞のTV番組欄に「救命救急24時」を見つけると、朝からテンションがあがる少年時代でした。

ブラック・ジャックに憧れ、医学部に合格したときに廻った思いは「これで医者になれる!」ではなく、「これで医学を学べる!」でした。解剖学や生理学、病理学などの基礎医学の講義・実習が始まると、最前列中央を陣取って受講を重ねる充実した日々を過ごしました。

4年生に進級し、ラグビー部キャプテンや大学祭医学展実行委員長を務めていた矢先、臨床実習で眼科をラウンドした際、眼底検査実習の指導医から「ちょっと待て!君の網膜は剥離する一歩手前で、今すぐ処置が必要だよ」と告げられ、ラグビーを続けることにドクターストップが下りました。

ポッカリと空いてしまった放課後の過ごし方を考えながら、当時の解剖学第二講座・菅沼龍夫教授を訪ねたところ、「面白いモノクロナール抗体があるから研究してみたら?そこの空いているデスクを使っていいよ。」とお誘いをいただきました。


医学科5年:菅沼龍夫教授(右)や同期の仲間たちと

医学を「学ぶ」以上の「研究」のチャンスをいただいて、研究室から講義・実習に向かう新たな日常が始まりました。「ラット網膜におけるポリシアル酸の発現と免疫組織化学的局在解析」と題して、日本解剖学会で成果を発表する機会にも恵まれ、充実した学究生活を送りました。



卒業後は順天堂大学の内科研修を選択し、内科医として一歩を踏み出しましたが、間もなくして不治の病と闘う患者と向き合う日々に「研究」への使命が再燃し、宮崎医科大学に戻り博士課程に進学を決めました。



先駆的な高圧凍結技法の応用研究に取り組み、学位取得後はカリフォルニア大学バークレー校に留学する機会を得て、帰国後は覚悟を決めて解剖学の道を進むことになりました。



John G. Forte 教授と



電子顕微鏡を主体とする研究は「時代遅れで古典的. 稲が刈り取られた田んぼで落ち穂拾いするようなもの」と揶揄されることもありました。



しかし、あらゆる細胞へ分化する能力をもつiPS細胞が開発され、分化誘導された細胞や組織の微細構造を検証する巨大なニーズが創出されました。



新たに干拓された水田で、新種の稲(iPS細胞)がたわわに実った穂(分化誘導された細胞)を垂らし、刈り取り(電顕解析)を迎える今、新たなミッションの遂行と次世代の人材育成に尽くす決意をもって臨んでおります。