「解剖学実習」が、医学・歯学教育のなかで、もっとも大切な基礎となる課程といわれながら、実際にはこの実習に必要なご遺体が極端に不足した時代がありました。

 特に昭和30年、40年代には医学教育の危機とさえいわれておりました。当時から医学系の大学では学生2名に1体、歯学系の大学では学生4名に1体のご遺体を一つの基準にしておりましたが、全国的に大部分の大学がその基準を満たすことができず、極端な場合は基準の5分の1にも満たない大学もありました。

 こうした医学教育の危機的状況を憂えた方々が、少しでもお役に立つことができるならば、と献体を思い立ち、大学に申し出られたことがきっかけとなって献体運動が始まりました。しかし、献体運動は単に教育用ご遺体の不足解消に役立ったというだけでなく、前述のように、医師や歯科医師となる者に必要な心構えを教えるという点でも重要な意味をもっています。こうして、献体運動はより多くの人々に支えられ、献体の輪がしだいに拡がり、現在の発展をみるに至りました。