7 中 央 診 療 施 設 等

病理部

【過去5年間の実績等】
1. 施設の特色等
(1) 教育の特色等
 病理学第1・2講座に協力して、 3年生での病理学総論・各論の系統講義と5年生での病材示説講義 (CPC) の一部を担当している。 系統講義では、 まず病的変化の全体像や疾患概念を把握させて、 個々の病変の位置付けを明確にさせることに重点を置いている。 また、 形態学的所見も病因と対比して理解できるよう工夫している。 病材示説講義では、 剖検症例を通して臨床所見と対比させつつ、 疾患は同じでも1例1例その死に至る pathogenesis は異なっていること、 そしてその過程の病態把握が重要であることを理解してもらえるよう努めている。
 H11年度より、 病理部への研修医ローテートが始まったが、 病理学第1・2講座と共に、 研修医の病理診断・解剖の教育にあたっている。 3ヶ月間と短期なので、 標本の見方の基本と将来専攻したい希望領域の組織診断を主に習得してもらえるよう努めている。
 認定病理医の育成も大切な仕事で、 現在医員3名が病理診断・解剖に従事しつつ研修を行っている。
(2) 研究の特色等
 癌の浸潤転移機構に関する基礎的研究と細胞診を主とする外科病理学的研究とに2分できる。 前者も日々の病理形態学的観察を基礎に置いたアプローチを心がけている。

1) 癌細胞の集団移動様式 (cohort migration) の提唱と機序の解析:従来、 癌細胞の遊走は in vitro では single cell locomotion (SCL) として検討されてきたが、 病理組織標本 (in vivo) では細胞間接着を保って、 癌胞巣あるいは腺管を形成しつつ浸潤する像を高頻度に認める。 この集団での移動様式を cohort migration (CM) として提唱し、 その in vitro model を作成して移動機序の解明に取り組んできた。 CM は肝細胞増殖因子 (HGF/SF) によって惹起され、 細胞間接着の部分的解離によって集団としての移動が可能になっている点、 細胞の浸潤に必要な MMP (matrix metalloproteinases) の局在が遊走細胞間接着によって制御される点で SCL とは異なる移動様式であることを明らかにした。

2) 腫瘍における EMMPRIN 発現の解析と制御:癌浸潤を促進する MMP の発現は癌細胞よりもむしろ宿主線維芽細胞に認められる。 EMMPRIN は腫瘍細胞上に発現して線維芽細胞からの MMP 発現を誘導する。 この EMMPRIN の発現が膀胱癌、 脳腫瘍、 T 細胞リンパ腫で増強し、 浸潤に関与することを示した。 現在は EMMPRIN の活性部位由来のペプチドを用いて、 MMP 産生刺激および浸潤促進能の阻害に取り組んでいる。

3) 細胞診による診断学的研究:呼吸器、 乳腺、 脳腫瘍において診断上重要な細胞診所見の検討を行い、 病理検査研究班全国研修会にて講演した。 平成9年より整形外科と協力して骨軟部腫瘍の穿刺吸引細胞診による術前診断を行っており (現在まで47例)、 また平成1年より脳神経外科と協力して細胞診による術中迅速診断を行っている (現在まで278例)。 診断上有利な細胞材料の標本作成法と染色法の検討および診断上重要な細胞診所見の検討を行い発表している。
2. 共同研究
(1) 学内 (他の講座等)
病理学第2講座:癌細胞の移動・増殖と fibronectin splicing の調節
脳神経外科学講座:脳腫瘍における EMMPRIN の発現とその活性制御
(2) 学外 (外国、 他の大学等)
Tufts Univ. School of Medicine, Dept. Anat. Cell Bio.:EMMPRIN 分子の作用機序と機能の解明
慶応大学医学部病理学:Cohort migration と EMMPRIN 作用における MMP (matrix metalloproteinases) の関与
東海大学工学部工業化学科:糖付加 EMMPRIN 合成ペプチドによる機能発現
福岡大学第1内科、 第1病理:T-cell leukemia/lymphoma における EMMPRIN 発現とその役割
3. 地域との連携
 病理学第1・2講座と共に、 宮崎県内の病医院から病理組織診断及び解剖の依頼を受けている。 また、 県立宮崎病院や宮崎地区での臨床と病理によるカンファレンス・研究会への参加、 検査技師会 (細胞診) での発表、 講演を通して地域医療に貢献し、 その活性化に努めている。

4. 国際交流
 Tufts Univ. School of Medicine, Dept. of Anatomy&Cell Biol.の Bryan P. Toole 教授と 「EMMPRIN 分子の作用機序と機能」 に関して共同研究を継続中で、 特に後者について分担している。 技術、 意見の交換を行い、 共同で学会発表、 論文発表をしている。 他に、 国際学会発表6件、 招聘講演2件。

5. 外部資金の導入状況
資金名  平成10年度  平成11年度
科学研究費 1 件 1 件
1,300千円 800千円

【点検評価】 (取組・成果 (達成度) ・課題・反省・問題点)
 系統講義での目標と工夫にもかかわらず、 学生による疾病の位置付けの把握は不十分に思える。 限られた時間と増大する情報を考慮すると、 教育内容の取捨選択も重要と考えられる。 病理医、 研修医の研修にあたっては、 日々の業務を通しての取り組みが主で、 到達目標を設定した教育が少なかったと反省している。 ただ、 それを行うマンパワー (ポスト) の不足も指摘できる。
 研究では癌細胞の新たな移動様式の提唱と特徴づけができ、 一定の評価ができる。 今後はより人体材料における診断への応用が求められる。 細胞診は個々の症例の集積に留まらず、 それらを解析して診断、 予後判断に有用な所見を提供すべきである。

【今後の改善方策、 将来構想、 展望等】
 講義を担当する2つの講座および病理部間での、 共通教育到達目標の設定とその達成の為に最善の教育内容の取捨選択、 病材示説講義でのスモールグループ化などが望まれる。 病理医、 研修医の研修では、 臓器ごとの teaching file をより充実させ、 それを活用することによって、 ある期間内に研修到達目標をクリアできるようにしていきたい。
 また既に脳外科領域疾患で開催したが、 teaching file を利用した鏡検会等によって、 学内、 地域医師の病理に関する再研修の要望にも答えたい。 院外病理組織診断のみならず、 地域医師会レベルでの CPC を介して、 地域医師との交流、 相互の活性化に微力ながら役に立てればと考えている。
 これらの取り組みを可能にするマンパワー (ポスト) の充実にも、 各臨床科の理解、 協力を得て、 取り組みたい。
 研究面では、 新たに提唱した癌細胞の移動様式が癌に留まらず、 発生などより広い生物現象に敷衍化され得るかを解析し、 一方ではその遊走調節因子の発現や EMMPRIN の発現が予後因子となり得る可能性、 それらの制御による治療への応用の可能性について検討したい。 さらに外科および剖検材料を用いて、 実験的に得られた知見が、 実際人体においてどのような意味をもつかを検証していきたい。 細胞診では集積した材料の解析を通して有益な所見を発信していきたい。

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