4 臨 床 医 学 講 座

外科学第二講座

【過去5年間の実績等】
1. 講座の特色等
(1) 教育の特色等
 外科学は手術を主たる治療手段として疾患の治療にあたる臨床医学の一分野であるから、 身体の正常な形態と機能に関する知識を基礎に各疾患の病態をよく把握した上で、 その手術適応や外科治療法を理解するとともに、 手術に伴う合併症や予後に関する知識をも習得することを目標としている。
 外科学第二講座における教育内容は臨床医学の基礎となる総論と胸部外科学を中心にした各論を学生に分かりやすく教育している。
 また、 外科医は医の倫理の基本精神にもとづいた医療を行わなければならないこと、 手術は安全・確実・迅速でなければならないことなどの基本的態度を認識するよう教育している。
(2) 研究の特色等
 循環器外科領域の基礎的研究は補助循環に関する研究、 心臓および肺移植に関する研究および心筋保護に関する研究を積極的に行ってきた。 補助循環に関してはまず左心補助の研究を進め、 その後、 経皮的右心補助法を開発した。 さらに左右両心室を同時に補助する経皮的両心補助法と、 体内植え込み型の人工心として軸流ポンプを開発した。 心移植に関する研究は免疫寛容導入およびミクロキメラ細胞の起源、 分布およびその機能に関する研究などを行ってきた。
 呼吸器外科領域では肺癌および肺移植に関する研究を中心に行ってきた。 特に癌性胸膜炎に対する温熱化学療法は当講座の基礎的研究に基づく独創的治療法として開発し、 臨床上の有用性を認めている。 その際、 新知見として癌細胞に apoptosis が誘導される事実が判明した。 肺移植における肺保存に関する実験的研究として、 肺の虚血再灌流障害に対する障害改善薬剤に関する研究を行い、 PGE1、 線溶活性抑制剤等の有効性を証明した。
 消化器外科領域では小腸、 大腸の杯細胞に特異的に発現するペプチドである Intestinal Trefoil Factor の大腸癌増殖抑制作用とそのメカニズムの研究を行ってきた。 臨床研究としては、 早期胃癌の予後を規定する病理学的因子の検討、 大腸癌、 胃癌に対する鏡視下手術や機能温存手術を初めとする縮小手術の手技および適応の確立、 肝臓癌に対するマイクロ波凝固治療の手技および適応の確立等を行ってきた。
2. 共同研究
(1) 学内 (他の講座等)
 平成7年度〜平成11年度の5年間に以下のような内容で共同研究を行った。
(1) Intestinal Trefoil Factor (ITF) の生物学的意義の解明 (共同研究:寄生虫学、 病理学第二)
(2) 低体温、 低血圧状態における聴性脳幹反応及び蝸牛電位に関する臨床的研究
  (共同研究:耳鼻咽喉科学、 集中治療部)
(3) 家兎心筋ミクロゾーム画分における再灌流障害 (共同研究:衛生学)
(4) ラット急性動脈閉塞モデルにおける骨格筋虚血再灌流障害の基礎的研究-骨格筋ミトコンドリア呼吸能を中心に− (共同研究:衛生学)
(5) ヒトアデニル酸キナーゼ酵素の分子生態的意義に関する研究 (共同研究:衛生学)
(6) リンスによる保存肺の再灌流障害予防効果についての研究 (共同研究:衛生学)
(7) 臓器虚血ー再灌流障害の発生機序における凝固線溶系酵素の役割
   (共同研究:生理学第二、 生理学第一)
(8) フィブリノーゲンのレセプターとしてのインテグリンα5β1の役割 (共同研究:輸血部、 産婦人科)
(9) 線溶活性抑制による肺の虚血−再灌流障害の軽減 (共同研究:第二生理)
(10) ヒト大腸癌における Intestinal Trefoil Factor (ITF) の発現と作用に関する研究
   (共同研究:第二病理)
(11) 癌細胞浸潤による線維芽細胞の尿中トリプシンインヒビター発現への影響
   (共同研究:生理学第二、 解剖学第二)
(12) 肺再灌流障害に対する尿中トリプシンインヒビターdomain2の効果に関する実験的検討
   (共同研究:生理学第二、 衛生学)
(13) 線溶活性抑制による肺の虚血-再灌流障害の軽減 (共同研究:第二生理)
(2) 学外 (外国、 他の大学等)
(1) 平成7年度, 8年度, 9年度:国立小児病院医療研究センター実験外科生体工学教室と移植免疫についての共同研究を行った
(2) 平成9年度, 10年度, 11年度:大分医科大学心臓血管外科との共同研究として 「全心機能置換型ターボ式人工心臓における制御と生理に関する研究」 を行った
3. 地域との連携
 学内において開催しているカンファランスを自由に参加できるようにしている (症例検討会;毎週水曜日17:00第2外科医局、 胸部画像カンファランス;月曜日の16:20第2外科外来、 心臓カテーテルカンファランス;月曜日17:00第2外科医局、 消化器内分泌カンファランス;月曜日18:00第2外科外来)。 また、 学外で開催し、 地域医師会員が自由に参加できる研究会として宮崎循環器疾患研究会 (6月、 11月)、 血液と血管を考える会 (11月)、 宮崎肺癌研究会 (9月)、 宮崎胸部疾患検討会 (3カ月毎)、 宮崎呼吸器懇話会 (隔月) を開催している。 さらに、 各種の研修会への講師も積極的に派遣し、 知識の普及に努めている。

4. 国際交流
 平成8年度から3年間移植免疫学に関する研究のために英国、 Oxford大学へ Research Fellow を派遣した。 国際舞台で活躍できる医師の養成のために、 積極的に国際学会に参加し、 発表および討論を行うようにしている。 また、 英文誌への投稿を積極的に勧めている。

5. 外部資金の導入状況
資金名 平成7年度 平成8年度  平成9年度  平成10年度  平成11年度
科学研究費 1 件 1 件 2 件 1 件
500千円 1,900千円 500千円 400千円
奨学寄附金 55 件 48 件 50 件 46 件 45 件
 28,090千円  22,240千円  27,570千円  24,820千円  22,670千円
受託研究費 3 件 5 件 3 件 3 件 2 件
950千円 754千円 5,277千円 2,452千円 443千円

【点検評価】 (取組・成果 (達成度) ・課題・反省・問題点)
 循環器外科領域では経皮的右心補助に関する研究はほぼ達成されたものと考えるが、 臨床応用や商品化には限界がある。 心移植の研究は心保護法、 免疫寛容において成果がみられた。 心筋の虚血再灌流障害に関する研究では、 虚血再灌流において変化する蛋白は同定できたが、 その解釈が不十分である。
 呼吸器外科領域では癌性胸膜炎に対する温熱化学療法は当講座の基礎的研究に基づく独創的治療法として評価を得ている。 癌に関する遺伝子学的および分子生物学的手法を取り入れた最新の研究に取り組み始めているが、 方法論において解決すべき問題点がある。
 消化器外科領域では腸の杯細胞に特異的に発現する Intestinal Trefoil Factor が大腸癌の増殖を抑制し、 その機序の一つとして EGF のシグナル伝達経路である MAP キナーゼのリン酸化を抑制する可能性を示唆した。 大腸癌、 胃癌、 肝臓癌の臨床病理学的検討により、 予後規定因子を明らかにした。

【今後の改善方策、 将来構想、 展望等】
 循環器外科領域では現在開発中の補助心臓をさらに改良し、 臨床的に使用可能なまでに開発したい。 両心補助下の NO の右心機能に対する役割を解明したい。 また、 脳分離体外循環下の灌流圧や低侵襲手術の有効性を科学的に明らかにしたい。 今後は他施設との共同研究をさらに進めたい。
 呼吸器外科領域では新知見である温熱化学療法による apoptosis の誘導の解明を目指したい。 癌に関する腫瘍免疫を含めた分子生物学的手法による最新の研究を積極的にすすめ、 国際的に議論できるレベルを目指したい。
 消化器外科領域では Intestinal Trefoil Factor が大腸癌の増殖を抑制し、 消化管の潰瘍や炎症の治癒を促進的に作用する機序の解明をさらに進める。 家族性大腸腺腫症症例等の遺伝疾患の遺伝子解析を行いたい。 企業との提携による研究も必要と考えている。

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