4 臨 床 医 学 講 座

内科学第三講座

【過去5年間の実績等】
1. 講座の特色等
(1) 教育の特色等
 内科学第三講座が担当している内分泌・代謝学、 神経内科学および呼吸器内科学の基本事項を3年次および4年次の概説講義でまず学んでもらう。 次いで4年生後半から始まる病棟実習で、 これらの領域の疾患々者を主治医、 指導教官とともに担当してもらい、 患者の病状、 問診、 身体所見などを的確にとることを学習する。 患者との良いコミュニケーションを確立するためには、 医師の豊かな人間性、 高い感性が必要とされる。 従って、 当科での病棟実習中には人文科学、 文学あるいは芸術にも興味を持つような広い視野と包容力のある医師になるよう指導している。
(2) 研究の特色等
 大井は末梢神経の再生と修復に関する神経栄養因子の研究、 および副腎白質ジストロフィーの臨床的および分子生物学的研究を行っている。
 片上は分子生物学的手法と発生工学を用いて、 ヒトのホルモン遺伝子を導入した疾患モデルラットを開発した。 また、 視床下部ホルモン、 成長ホルモン分泌促進因子や ACTH 分泌促進因子の超高感度測定法を第1生化学と共同で開発した。 一方、 家族性尿崩症、 多発性内分泌腺腫症 MEN、 von Hippel Lindau 病、 家族性下垂体ホルモン複合欠損症 (Prop−1変異症) などの遺伝性内分泌疾患の新しい遺伝子変異を同定した。 大学院生の米川は GH 完全欠損に基づく遺伝性侏儒症ラットにヒト GH を遺伝子導入し、 正常な成長を回復させた。
 中里は14件の文部省科学研究費、 11件の厚生省科学研究費、 5件の公的研究財団、 16件の民間研究財団からの研究助成を受け、 下記の研究を行った。
1) 遺伝性アミロイドーシスの遺伝子診断と肝移植後の治療効果判定に関する国内ネットワークの構築2) 厚生省の定める特定疾患の診断基準と遺伝子診断の指針作成、 3) 中枢性摂食調節とエネルギー代謝調節の分子機構の解析、 4) 新規生理活性ペプチド グレリンの分子生理、 形態学的研究
 大学院生の平塚は、 抗菌ペプチド デフェンシンの呼吸器感染症における臨床的意義を明らかにして学位を取得するとともに、 日本内科学会研究奨励賞を受賞した。 山口はグアニリンファミリーペプチドの水・電解質代謝調節における病態生理学的意義を明らかにし、 日本心血管内分泌学会若手奨励賞を受賞した。 宮里はグアニリンファミリーペプチドの遺伝子発現調節機構を解析し、 日本内科学会研究奨励賞を受賞した。
 杉本は独自に開発した F 波誘発最小神経伝導速度 (FMCV) 測定法を用いて、 各種神経疾患や糖尿病性神経障害の早期発見と治療を行っている。
 迎は呼吸器疾患に抗菌ペプチドであるデフェンシンの各種呼吸器疾患における臨床的意義の研究。 大気汚染による呼吸器障害と骨髄 (特に好中球系細胞) との関係についての検討、 および肺寄生虫疾患の病態におけるサイトカインの関与についての研究を行った。 加藤はアレルギー性呼吸器疾患を中心に研究しており、 肺好酸球症において肺局所における IL−5の産生および好酸球における CD44の発現について検討した。
 糖尿病・代謝分野では基礎研究として1995年よりインスリン受容体の結合部位に関する機能解析を分子生物学的手法を用いて行っている (黒瀬、 シカゴ大学との共同研究)。 また膵β細胞からのインスリン分泌〜開口放出のカルシウムセンサーの候補としてシナプトタグミン III の分子クローニングに世界に先駆けて成功した (水田、 千葉大学との共同研究)。 インスリン抵抗性における TNF αの役割について肥満糖尿病モデル動物を用いて検討するとともに、 ニコチン摂取のインスリン抵抗性に及ぼす影響について研究中である (国費留学生 劉、 水田、 黒瀬)。 1995年より糖尿病患者における心臓交感神経障害の評価法としての123I−MIBG の有用性について報告した (中津留、 椎屋、 上野、 宮薗、 当大学放射線科との共同研究)。
2. 共同研究
(1) 学内 (他の講座等)
 大井は、 第2生化学教室と共同で副腎白質ジストロフィーの臨床表現型を決定する機構についての分子生物学的研究を行っている。 片上は、 遺伝性内分泌疾患の病態と家系解析のため、 第1外科、 第2外科、 泌尿器、 脳神経外科ならびに眼科学教室と共同研究を行い、 家族性尿崩症、 多発性内分泌腺腫症 MEN、 von Hippel Lindau 病の病因・病態を明らかにした。 また、 本学で独自に開発したヒトのホルモン遺伝子導入ラットの飲水・摂食行動の病態生理学的解析のため、 第1生理学教室と共同研究をおこなった。 中里は第1生理学教室と神経ペプチドの自律神経作用について、 生物学研究と神経ペプチドによる遺伝子発現を、 また微生物教室と抗菌ペプチド デフェンシンの抗菌活性に関する共同研究を行った。 加藤は肺吸虫症における免疫学的病態について寄生虫学教室と検討した。 糖尿病・代謝分野では I123-MIBG 心筋シンチグラフィを用いた糖尿病性心臓交感神経障害の評価に関する共同研究を放射線科と行った。
(2) 学外 (外国、 他の大学等)
 大井は、 副腎白質ジストロフィーの臨床的および治療についての研究を米国 Johns Hopkins University の Kennedy Krieger Institute の神経内科の Moser 教授と共同してすすめている。 片上は、 国内では下垂体腺腫の病理・病態の解明のため、 東海大学医学部病理学教室、 帝京大学医学部脳神経外科教室、 日本医科大学脳神経外科教室と共同で GH 産生腺腫発生における視床下部 GHRH の役割を明らかにした。
 また、 本邦における異所性 GHRH 産生腫瘍に基づく先端巨大症の発症頻度を明らかにするため、 国内の主要な内分泌内科、 脳神経外科教室と共同で患者血中 GRF 濃度を測定した。
 中里は文部省科学研究費国際学術研究のため米国テキサス大学生理学教室でグアニリン受容体ノックアウトマウスの機能解析に関する共同研究を行った。 中里はまた、 テキサス大学遺伝分子学教室とオレキシンの遺伝子操作マウスを用いたナルコレプシーの分子レベルでの成因解析に関し、 さらに宮崎大学農獣医学科教室と中枢性摂食調節エネルギー代謝調節に関する共同研究を行った。 迎はデフェンシンについての研究では長崎大学第2内科と共同研究を行った。
 また、 大気汚染における呼吸器障害ではブリティッシュ・コロンビア大学と共同研究を行った。 加藤は肺好酸球症マウスモデルを作成し、 その免疫学的機序について解析した (東京大学医科学研究所免疫学研究部)。 肺の免疫におけるマクロファージの役割を解明する目的でヒト単球系細胞における接着分子 CD44のリガンド結合性の調節機構を検討した (オクラホマ医学研究所)。
糖尿病・代謝分野ではインスリン受容体の新たなインスリン結合ドメインに関する研究 (シカゴ大学 DF Steiner 研究室との共同研究)、 および膵β細胞における分泌小胞カルシウムセンサー、 シナプトタグミン3の単離と機能解析 (千葉大学清野進研究室との共同研究) がある。
3. 地域との連携
 県内の多くの各医師会で講演会を行い、 第三内科学が分担している領域について最近の医療・医学の進歩を紹介した。 その他、 医家を対象とした各種の学術講演会、 糖尿病パラメデイカルへの教育 (糖尿病教育セミナーなど)、 患者教育 (小児糖尿病サマーキャンプ、 はまゆう会宿泊講習会、 定例の院内糖尿病教室) も積極的に行い、 地域医療に貢献している。

4. 国際交流
 杉本は平成8年10月〜11月 短期在外研究員として英国 National Hospital for Neurology and Neurosurgery に滞在し、 神経生理学の研究を行った。 迎は平成9年8月〜平成11年7月までカナダのブリティッシュコロンビア大学に留学した。 現在、 国費留学生として中華人民共和国とバングラディシュからそれぞれ1名、 私費留学生として中華人民共和国より1名の研究指導を行っている。 山口は転写調節因子の研究のため、 米国ベイラー医科大学に留学中である。

5. 外部資金の導入状況
資金名 平成7年度 平成8年度  平成9年度  平成10年度  平成11年度
科学研究費 2 件 3 件 3 件 5 件 6 件
6,800千円 3,400千円 14,700千円 14,100千円 9,000千円
42 件 43 件 46 件 41 件 49 件
 31,265千円  31,651千円  29,745千円  30,108千円  30,509千円
受託研究費 15 件 16 件 14 件 12 件 18 件
3,809千円 3,040千円 10,784千円 7,419千円 11,593千円

【点検評価】 (取組・成果 (達成度) ・課題・反省・問題点)
 内科学第三講座が担当している内分泌・代謝学、 神経内科学および呼吸器内科学の領域では教育、 研究の分野とも教室員の努力により一応の実績は残してきた。 ただ教育面については本学のこれまでの教育カリキュラムに従っているが、 病棟実習前に当然実施すべき患者面接法 (病歴の取り方などを含む) や身体所見の取り方 (これには当科の担当領域である神経学的所見の取り方を含む) の指導 (講義および実習とも) が不十分であった。 一方、 研究面においては研究のための研究となり、 必ずしも研究の成果を患者の診療に最終的にはフィードバックすると考える臨床教室での研究目標の基盤が必ずしも十分徹底していなかった面もある。

【今後の改善方策、 将来構想、 展望等】
 従って今後は、 教育面については本学全体の教育カリキュラムの再検討に伴い、 病棟実習前に患者面接や身体所見の取り方など、 診断学の講義や実習をより充実させることが必要である。 このためには本学でも OSCE の導入を早急に検討すべきである。 また病棟実習もわが国でもいくつかの大学で実施され始めているようにクリニカルクラークシップ制を導入し、 学生を患者の診療にもっと能動的に参加させ、 学生に自発的な勉学意欲を喚起させるようにすべきである。 研究面においては診療の現場からもち上がった研究テーマを最新の研究テクニックで追求するという臨床教室の研究のあり方の原点を忘れないことも含めて、 基礎研究であれ、 動物実験であれ、 その成果を最終的には患者の診療にフィードバックするという patient-oriented な心構えをもって研究を進めるようにしていきたい。

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