4 臨 床 医 学 講 座

内科学第二講座

【過去5年間の実績等】
1. 講座の特色等
(1) 教育の特色等
 概説講義 (3年後半から4年前半) では、 これまでの学生への一方通行の講義を平成11年度より全面的に改めた。 講義の1週間前に、 講義内容を学生に配付し、 予習できるようにした。 同時に講義は、 小グループにあらかじめテーマを与え発表させ、 その後全体討論の時間を設けたり、 臨床診断学を重視した内容に変更した。 講義に出席者全員が参加できるよう努力している。 臨床実習では、 将来の客観的臨床能力評価試験 (OSCE) の導入を考え、 問診や診察の能力を向上させるため診察実習の時間を大幅に増やした。 診察実習はポリクリ (1) で8時間、 ポリクリ (2) で4時間とし、 さらにポリクリ終了時点で教官による問診、 診察の試験を実施し、 学生の到達度を評価している。
(2) 研究の特色等
1) 消化器では、 肝細胞増殖因子 (HGF)、 劇症肝炎、 肝臓癌の発症機序と遺伝子治療、 炎症性腸疾患の発症機序の各テーマについて研究を進めた。 HGF に関しては転写調節因子について主に研究を進めた。 細胞内シグナル伝達では、 HGF が MAP キナーぜ、 サイクリン D1におよぼす影響、 HGF の関連蛋白 HAI-1が肝癌特異的に発現することを明らかにした。 劇症肝炎については、 非A非B非C型肝炎と考えられていた劇症肝炎の大部分に HBV が関与していることを突き止めた。 また、 劇症肝炎の肝細胞障害抑制に VP-16が有効なことを見い出した。 また、 慢性肝炎の治療について、 アシアロ化したインターフェロンが肝細胞に取り込まれ、 抗ウィルス作用 (抗 HCV 作用) を示すこと明らかにし、 新しい抗ウィルス療法の可能性を示した。 肝癌に関しては、 遺伝子治療に向けての基礎研究として、 肝癌細胞の選択的除去のための特異的プロモーターの開発を行い、 アデノウィルス/レトロウィルス二重感染法を確立した。 また、 ラットの肝発癌モデルを用いて発癌の際に発現する遺伝子を突き止め、 現在解析中である。 さらにポルフィリア、 ウィルソン病といった代謝性疾患の遺伝子学的研究も開始した。 炎症性腸疾患では、 ラットやマウスモデルを用いての研究を開始した。

2) 血液では、 HGF と血球系の関連、 成人 T 細胞白血病 (ATL) について研究を進めた。 HGF と血球系の研究では、 G-CSF が HGF 産生を誘導すること、 逆に HGF が血小板増殖因子の産生を促進させることを見い出した。 ATL 関連では新しい治療法開発にむけての基礎研究を進めた。 また、 インターフェロンとヒト免疫グロブリン Fc 領域を融合させた蛋白を合成する技術を導入した。 この蛋白を用いて白血病細胞表面のインターフェロン受容体を測定し、 インターフェロン感受性の検討を行っている。 また、 ATL 細胞表面の CD45RO 発現と予後について明らかにした。 ATL 細胞の増殖とテロメアの関連についても解析した。

3) 感染、 免疫領域の研究としては、 1984年より米国ハーバード大学疫学教室との共同研究であるヒト T リンパ向性ウイルス1型 (HTLV-1) と C 型肝炎ウイルス (HCV) についてのコホート研究を継続している。 HTLV-1については、 感染初期のウイルス及び免疫の変化、 夫婦間感染の分子疫学を明らかにし、 また血中のウイルス量や感染細胞のクローナリティは長期にわたり変化しないことを示した。 その他に ATL の発症のリスクについての検討も行なった。 HTLV-1のマウス感染モデルの作製にも成功した。 HCV 感染については、 無症候性キャリアーにおけるウイルス量や免疫反応の変化を経時的に検討し、 HTLV-1との重感染では肝癌の発症が高頻度であることも示した。 また国立感染症研究所との共同研究として、 ヒト免疫不全ウイルス (HIV) プロテアーゼ活性の測定系開発にも携わっている。 膠原病領域の研究としては、 シェーグレン症候群の肺病変と HTLV-1感染との関連について検討を行い、 最近自己免疫との関連が注目されているマイクロキメリズムについて病因論的研究を進めている。 全身性エリテマトーデスにおけるヒストン抗体の意義についても検討した。 また膠原病の間質性肺炎との関連において、 マウスのブレオマイシン誘導肺病変についての基礎的研究を行なった。 恙虫病の研究では、 PCR 法を用いた病原診断および感染リケッチアの遺伝子型別を確立した。
2. 共同研究
(1) 学外 (外国、 他の大学等)
 米国ハーバード大学疫学教室 「ヒトTリンパ向性ウイルス1型 (HTLV-1) とC型肝炎ウイルス (HCV) についてのコホート研究」
3. 外部資金の導入状況
資金名 平成7年度 平成8年度  平成9年度  平成10年度  平成11年度
科学研究費 3 件 4 件 3(※1)件 3(※1)件 4(※1)件
3,830千円 9,600千円 4,258
 (※1,058)千円
6,610
 (※910)千円
9,790
 (※990)千円
奨学寄附金 43 件 52 件 54 件 42 件 31 件
 63,562千円  63,290千円  69,114千円 71,628千円 38,675千円
受託研究費 18 件 20 件 22 件 20 件 16 件
15,798千円 15,585千円 27,834千円 18,156千円 24,175千円
※内分担者

【点検評価】 (取組・成果 (達成度) ・課題・反省・問題点)
(1) 教育:臨床実習での問診、 診察実習については時間数を大幅に増やし、 集中的に訓練することで学生の内科的な診察技術は以前より明らかに向上しており、 学生からの評価も高い。 今後は身に付けた技術をいかにして、 臨床実習期間にさらに向上させるかが課題である。 概説講義については、 新しい試みを始めたばかりで今後の学生の反応、 成績を慎重に見きわめ、 改善していきたい。

(2) 研究:メインテーマである HGF に関しては調節機構や肝細胞以外への各種作用を臨床応用にむけてかなり明らかにできたと考えられる。 また、 劇症肝炎の原因としての HBV の重要性を明らかにしたが、 その発症機序についてはまだ解明できていない。 HTLV-1キャリアーから ATL の発症への一連の経過に関する研究では感染機序、 キャリアーのウィルスの動態、 ATL 細胞の細胞学的特性についてかなり解明できたと考える。 また、 これまで報告されてきた HTLV-1関連脊髄症の他に、 膠原病の肺病変にも HTLV-1が関連している可能性を示唆できた。 HTLV/1感染がどのような機序で ATL の発症や膠原病の肺病変形成に関与しているかを明らかにする必要がある。 恙虫病に関する研究では、 病原診断法、 遺伝子型別を確立し、 疫学研究や感染免疫の研究に寄与できたと考える。

【今後の改善方策、 将来構想、 展望等】
 教育については今後 OSCE の完全導入にむけてさらに実習内容を充実させたい。 講義についても学生が自主的に学習するように導くような内容に改善していきたい。 研究面では、 将来的に臨床に直接応用できるような研究に現在のテーマを発展させていきたい。 具体的には、 1) HGF の臨床応用の研究、 2) 肝癌における遺伝子異常の解明と遺伝子治療の導入に向けての研究、 3) ATL の発病機構の解明とその抑制の研究、 を中心に研究をすすめていきたい。 また、 ゲノムプロジェクトの進行をにらみながら、 これらの疾患の遺伝子レベルでの解析を第一生化学教室と共同ですすめていきたい。

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