4 臨 床 医 学 講 座

歯科口腔外科学講座

【過去5年間の実績等】
1. 講座の特色等
(1) 教育の特色等
 口や歯は人体の一部分であるにもかかわらず、 口の中を見ようともしない医師が多い。 反対に、 歯ばかりを見て、 患者全体いや口腔粘膜をすら見ていない歯科医師も少なくない。 当教室では、 この両者の桟的役割を担うべく、 講義と臨床実習を通じて口腔諸器官の正常と異常を認識させた。 臨床実習では各種口腔疾患を呈示するとともに、 各種全身性疾患の口腔内諸症状を理解させることに努めた。
 口腔・顎・顔面の諸疾患は直接目で視たり手で触れたりできるものが多いので、 学生にはできるだけ多くの症例に接する機会を作り、 五感を通して病気の実体を認識させた。
 学生には種々の疾患とその症状を単に記憶させるのではなく、 それぞれの疾患についてよく理解させるよう努めた。
 卒後教育:歯学部出身者はもとより、 医学部出身者へも門戸を開いて卒後初期臨床研修を行うことにしているが、 今までは歯学部出身者のみが研修を行った。
(2) 研究の特色等
a. 口腔前癌病変の癌化における遺伝子発現の変化:芝が平成9、 10、 11年度に文部省科学研究費を得て、 口腔粘膜上皮における c−fos および c−jun 遺伝子発現の変化を臨床症例を中心に調査し、 癌化しやすい前癌病変の遺伝子発現の特徴を示した。
b. 顎変形症の手術的顎矯正法における術後の後戻り防止に関する研究:迫田が多くの手術症例のデータを集計し、 手術を成功させるための要因を分析し、 手術方法の改善を図った。
c. 顎関節症発症メカニズムに関する咀嚼筋の電気生理学的研究:鹿嶋は、 咀嚼筋に生ずる筋筋膜痛のメカニズムを電気生理学的に解析し、 筋機能の評価法として極性変換点および振幅分析法を確立した。 そしてこの方法による自動デコンポジション法を用いて顎関節症患者における筋筋膜痛の病態の一部を明らかにした。
d. 口蓋裂手術後患者における鼻咽腔周囲構造の成長に伴う変化:佐藤は、 大阪大学歯学部顎口腔機能治療部で収集したデータをもとに上記の調査を行った。 その結果、 正しい発音機能を獲得している口蓋裂術後患者の鼻咽腔周囲構造は、 健常者とは異なるものの、 調和のとれた成長発育を示すことを明らかにした。 特に、 口蓋裂術後患者が正しい発音機能を得るためには、 軟口蓋長と鼻咽腔深度の比が重要であることを示した。 そして、 鼻咽腔閉鎖機能を形態学的に評価する一つの有用な方法としてこの方法を確立した。
2. 共同研究
(1) 学内 (他の講座等)
 疼痛刺激と中枢神経系における遺伝子発現について生物学教室と共同研究を行い、 2人の大学院生の学位論文を完成させるとともにいま1人が研究を続けている。
(2) 学外 (外国、 他の大学等)
a.「口蓋裂術後患者の鼻咽腔周囲構造の成長に伴う変化」 について、 大阪大学歯学部顎口腔機能治療部と共同研究
b. 「顎変形症における骨延長法を用いた手術的顎矯正」 について鹿児島大学歯学部矯正学講座と共同研究
3. 地域との連携
(1) 非常勤講師派遣
 国立療養所宮崎病院附属看護学校 (芝)、 宮崎歯科技術専門学校 (迫田)、 宮崎県消防学校 (芝)、 宮崎医療管理専門学校 (芝)

(2) 宮崎県内の医師または歯科医師への啓蒙
 芝が、 10回、 迫田が11回、 佐藤が3回、 山形が2回、 永田が1回、 それぞれ医師または歯科医師を対象に啓蒙的講演を行った (各年度の本学年報を参照)。

(3) 地域住民への啓蒙
 芝および佐藤が、 唇裂・口蓋裂患児を持つ家族を対象に都城保健所 (平成10年12月9日)、 延岡保健所 (平成11年2月3日)、 宮崎中央保健所 (平成11年2月12日) および宮崎市保健所 (平成11年8月30日) で唇裂・口蓋裂患児の家庭内看護について講演を行った。 永田順子は南九州ホーム安全大会 (平成11年3月6日) で日常の健康管理について 「口は健康の窓」 と題して講演を行った。

(4) その他
 a. 鹿嶋は、 宮崎県福祉保健部が発行した 「宮崎県民の健康と食生活の現状―平成10年度県民健康・栄養調査の結果」 の作成に、 県民健康・栄養調査解析検討会のメンバーとして協力した。
b. 迫田は、 宮崎県社会保険診療報酬支払基金審査委員を務めている。
c. 宮崎県歯科医師会が発行する月刊誌 「宮崎歯界」 に毎月当科の患者の中から興味深い症例を紹介し、 県内の歯科医師に対する啓蒙を行っている。
4. 国際交流
 文部省長期在外研究員として、 鹿嶋が米国カリフォルニア大学ロスアンゼルス校 (UCLA) 歯学研究所 (Prof. Clark) へ 「顎関節症発症メカニズムの解明」 のため留学した (1996.4.1.〜1997.2.31.)。
 文部省外国人留学生として1995年よりバングラデシュ人1人を受け入れた。
 芝は、 1997年度以来日本口唇口蓋裂協会の NGO 活動 (一部外務省の援助) に協力して、 バングラデシュ医療援助活動の隊長として、 九州大学歯学部口腔外科第一および北海道大学歯学部口腔外科第二とチームを組んで、 Dhaka Dental College and Hospital および国立の Shaheed Suhrawardy Hospital に赴き、 唇裂口蓋裂治療の技術指導と医療活動を行ってきた。

5. 外部資金の導入状況
資金名 平成7年度 平成8年度  平成9年度  平成10年度  平成11年度
科学研究費 1 件 1 件 4 件 3 件
800千円  2,200千円  6,500千円  1,600千円
奨学寄附金 5 件 5 件 3 件 4 件 7 件
 2,310千円  1,130千円 900千円 1,200千円 2,600千円

【点検評価】 (取組・成果 (達成度) ・課題・反省・問題点)
 学生教育に関しては、 できるだけ多くの実際の症例を見せる努力をしたので、 口腔の諸疾患を実体とし理解できたと考える。 本学の卒業生から多くの患者が紹介されてくる点からもそのことが推察される。 医師国家試験の対象でない歯科口腔外科学に関する学生の興味を卒業後もある程度つなぎ止めることができたのはそれなりに成功していると考える。 しかし、 症例数には限りがあり、 臨床実習のグループ毎に均質な症例をいつも提示することは困難で、 グループによりまた個々の学生により理解度に差が生じた。
 研究に関しては、 鹿嶋は顎関節症の発症メカニズムについて咀嚼筋の筋電図的解析を試み、 佐藤は正常発音を獲得した口蓋裂術後患者の顎発育について一定の方向性を見出し、 それぞれ論文にまとめることができた。 しかし、 教室員が少ないにもかかわらず、 種々の研究に手を拡げ過ぎた感がある。 そのため、 論文数もあまり多くなく、 質の上でも学会賞その他の賞を受賞するほどの成果を上げることができなかった。 特に、 芝が行っている前癌病変の癌化と遺伝子発現の変化に関する研究では、 免疫組織化学を担当していた寺山が留学のため渡米し、 後継者が育っていなかったので研究が中断した。

【今後の改善方策、 将来構想、 展望等】
 学生教育では、 あまりあれもこれもと盛り沢山示すのではなく、 精選された症例を深く観察させ、 口腔の疾患をどのように見てゆけばよいかを体得させることに重点を移し、 少人数のスタッフでもある程度の効果が挙がる方法を講ずる必要がある。

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