4 臨 床 医 学 講 座

脳神経外科学講座

【過去5年間の実績等】
1. 講座の特色等
(1) 教育の特色等
 第4学年で行う系統講義では、 単なる知識の詰め込みではなく、 神経系疾患や神経系症状の発生するメカニズムの解説を中心に講義し、 これまで学習してきた解剖、 生理などの知識を基にして、 脳神経外科で取り扱う疾患の病態を理解させると共に、 臨床実習 (BSL) で要求される最低限度の知識を身に付けさせる。 第4学年の11月から始まる臨床実習は当科の臨床教育の中心をなすものであり、 問診、 神経学的診察法などの基本的技術を習熟し、 それらに引き続く診断、 鑑別診断、 手術などの治療法の適応や選択、 術後ケアなどの、 診療上の一連の思考過程を実践的に身に付けさせる。 指導側の人的態勢の許す限り、 出来るだけ見学型ではなく体験型の臨床実習を目指す。 また患者、 家族との接し方、 マナーを身に付け、 医の倫理を理解し、 インフォームドコンセントの場に立ち会ってその基本的理念を理解し、 他医師やコメディカルとの協力関係の基本的認識を養うことを目標としている。 第5・6学年の臨床講義においては、 平成9年度より北里大学の藤井清孝教授、 平成11年度より誠和会和田病院の三倉剛院長を非常勤講師として新たに迎え、 脳血管障害およびプライマリ・ケアの臨床講義の充実を図った。
(2) 研究の特色等
 脳腫瘍研究は当講座の研究の主体をなすものでこのグループには最も研究者が多い。 本学病理学第二講座との共同研究や大学院生派遣のみならず、 国外研究施設にも積極的に留学生を派遣している。 平成7年に上原久生助手が米国 Memorial Sloan Kettering Cancer Center での脳腫瘍の遺伝子解析ならびに脳腫瘍代謝の PET イメージに関する研究を終えて帰学すると、 奥隆充助手が交代で同研究所に留学し平成9年まで脳腫瘍の血管成長因子遺伝子発現と腫瘍の成長制御について研究を行った。 一方横上聖貴助手は平成9年から11年にかけて米国 Harvard 大学分子神経腫瘍学研究室に留学し、 脳腫瘍の遺伝子治療に向けた分子生物学的研究を行った。 病理学第二講座に大学院生として派遣されていた森山拓造は、 神経膠腫細胞の動きに対する HGF の作用についての研究を終えて平成8年に大学院を卒業し、 代わって濱砂亮一が同講座に大学院生として派遣され目下研究中である。 上原久生助手は関連施設に出向するまでに神経膠腫の p53遺伝子変異検索の研究、 森山助手は各種脳腫瘍における EGF (血管成長因子) の研究、 鮫島哲朗助手は脳腫瘍における MMP 産生誘導因子 EMMPRIN 発現の研究を行っている。
 神経生理グループでは、 呉屋朝和助教授および伊勢田努力助手が脊髄・脊椎手術時の脊髄誘発電位モニタリングなど、 臨床神経電気生理の手法を用いた臨床研究を行っている。 基礎神経科学グループでは、 生理学第一講座との共同研究により、 宮原郷士講師と小濱祐博助手は視床・視床下部細胞の電気生理学的、 形態学的研究を行い、 平成9年、 10年の米国における国際神経科学学会年次総会で演題発表した。 研究者が学外関連施設に出向して学内では一時研究を中断していた脳血管障害・脳循環代謝グループは、 中野真一講師が平成11年に帰学し研究を再開した。
 平成7年度には森山拓造、 平成8年度には上原久生、 平成9年度には横上聖貴がそれぞれ学位を受領した。 また平成10年度と11年度の学内優秀論文の一つに、 森山拓造助手と上原久生助手の論文が選ばれ、 学長裁量経費からそれぞれ150万円、 100万円が研究費として支給された。
2. 共同研究
(1) 学内 (他の講座等)
 上述の如く病理学第二講座、 生理学第一講座、 放射線医学講座と共同研究を行っている。
(2) 学外 (外国、 他の大学等)
 上述の如く過去5年間には、 米国 New York の Memorial Sloan Ketering Cancer Center ならびに米国 Boston の Harvard 大学に留学生を派遣した。 また平成11年度から大田元を大阪の国立循環器病センター脳血管外科に派遣している。
3. 地域との連携
 当講座構成員が医師会や一般向けに行った講演は、 平成7年に2題、 平成8年に1題、 平成9年に7題、 平成10年に7題、 平成11年に12題と年々増加している。 地域の医療関係者を対象とする各種研究会の中で当教室に事務局を置くものは、 宮崎脳血管障害懇話会、 宮崎脳腫瘍研究会、 宮崎脳神経外科手術研究会、 宮崎神経放射線カンファレンスがあり、 これらの他にも世話人に参加している研究会は多数ある。

4. 国際交流
 平成11年12月に第6回韓国南部・九州脳神経外科合同会議を当教室が宮崎で主催したほか、 平成7年に北九州で開催された第4回同会議、 ならびに平成9年に韓国慶州で開催された第5回同会議では教室から多くの参加があり、 演題発表や各セッションの司会を行った。 国際学会に演者として発表を行ったのは平成7年に8題、 平成9年に7題、 平成10年に1題、 平成11年に10題となっており、 この中には上記の韓国との合同会議の他に、 平成7年には第6回国際脊髄モニタリングシンポジウム (呉屋朝和、 New York)、 第17回国際脳循環代謝シンポジウム (上原久生、 Cologne)、 第9回アジア・オーストラリア脳神経外科会議 (脇坂信一郎、 台湾)、 平成9年には第88回北米癌研究学会年次総会 (奥隆充、 San Diego)、 第1回日韓脊髄外科カンファレンス (呉屋朝和、 名古屋)、 第27回北米神経科学学会 (宮原郷士、 New Orleans)、 平成10年には第28回北米神経科学学会 (宮原郷士、 Los Angeles) がある。 平成11年には宮原郷士がタイの Songkla 大学に招かれて特別講演を行った。 平成8年11月には米国 Virginia 大学脳神経外科の Steiner 教授の来訪を受け、 ガンマナイフに関する講演を行って貰った。

5. 外部資金の導入状況
資金名 平成7年度 平成8年度  平成9年度  平成10年度  平成11年度
科学研究費 1 件 1 件 1 件 2 件
900千円 700千円 700千円 1,200千円
奨学寄附金 7 件 7 件 6 件 10 件 7 件
3,235千円 2,271千円 2,900千円 5,540千円 3,806千円
受託研究費 1 件 1 件
751千円 2,521千円

【点検評価】 (取組・成果 (達成度) ・課題・反省・問題点)
 学部学生の教育に関しては、 平成11年の後期より非常勤講師による講義も含めて全講義に学生からの評価を受ける方式を取り入れ、 授業担当者にフィードバックして授業効果を上げている。 当科の臨床教育の根幹をなす臨床実習は、 脳神経外科には第4〜5学年における計2週間の臨床実習 (I) しか割り当てられておらず、 クリニカルクラークシップを取り入れた高度な臨床教育を行おうとしても、 第4学年で初期に廻ってくるグループには無理がある。 臨床もそうだが、 教育や研究にも充実したシステムを作るには教室のマンパワーが必要である。 当大学では卒業生が母校に残る率が低く当教室の入局者も例年少ない。 関連教育病院 (専門医訓練施設) の人的配置を確保しながら、 教室の activity を保つために研究者を国内外に留学させるのは時にジレンマに陥るものである。

【今後の改善方策、 将来構想、 展望等】
 先ず教室のマンパワーを増やし活力を付けるために入局者の確保に全力を注ぎたい。 そのためには魅力ある脳神経外科の学部教育をやりたい。 実践的な臨床能力をつけるクリニカルクラークシップや OSCE を取り入れた教育を高学年の臨床実習で行いたい。 これらのことが将来の臨床教育プログラム改編の際に実現できるよう強く望むものである。

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