4 臨 床 医 学 講 座

麻酔学講座

【過去5年間の実績等】
1. 講座の特色等
(1) 教育の特色等
 医学部へ入学した直後の第1学年の学生に、 救急蘇生法の講義と実習を行っている。 医学部学生としての最低限度の知識と技術を早期に身に付けて緊急時に活用してもらうことと、 医学を学ぶ楽しさを教えている。
 第4学年の学生に9回の系統講義を行い、 生理学、 薬理学の不足している知識を補充し、 その後に周術期管理、 蘇生法、 急性痛と慢性痛の治療法、 集中治療医学について学ばせている。 第5学年と第6学年の学生に対する臨床講義では、 疼痛治療医学と集中治療医学を主体に教授しているが、 エホバの証人信者の輸血拒否、 脳死判定と臓器移植、 臨床研究と倫理など、 ほかの講座との狭間にある問題についても積極的に取り上げている。
 講義終了時に数分間の簡単なテストを行うとともに、 学生に授業ならびに教官の評価を行わせている。
 第5学年から第6学年にかけての学生1人当たり10日間の臨床実習があるが、 ベッドサイドラーニングを基本としている。 学生1人に教員1人を配置して、 午前中は担当の患者で、 麻酔器の使い方、 気道確保の方法、 静脈ルートの確保、 動脈血採血法、 動脈血ガス分析法、 血圧測定法などを修得させ、 患者で実習できないところはモデルを用いて練習させ、 技術を獲得させている。 さらに、 それぞれの学生に臨床問題を割り当て、 解決策を発表させている。
 卒前教育とは別に、 5年間で7人の大学院学生を引き受けた。 この間に5人が修了して、 また助手の1人が論文を提出して博士 (医学) の学位を受けた。
(2) 研究の特色等
 麻酔学と関係する neuroscience を主体にした基礎研究と臨床研究を行っている。 基礎研究としては、 局所麻酔薬、 痛み、 それに呼吸細胞の研究を行っている。
 局所麻酔薬の研究では、 神経軸索内の局所麻酔薬濃度測定法の開発、 神経毒性発現のメカニズムの追求、 光学異性体間の効果の違いの解明、 および長時間作用性局所麻酔薬の開発などを手掛けている。 中でも神経細胞内局所麻酔薬濃度の測定は、 評価が高い。 長時間作用性局所麻酔薬の開発では、 新しいものを作製し、 特許出願している。
 痛みの研究では、 神経伝達物質の相互作用、 アロデイニア発生のメカニズムの追求、 先制鎮痛の証明、 および各種オピオイド鎮痛薬の鎮痛効果の比較などを行っている。
 呼吸細胞の研究では、 水棲かたつむりの神経細胞の中の呼吸細胞を用いて、 侵害刺激に対する反応や、 神経栄養因子の役割解明などを行っている。 水棲かたつむりの呼吸細胞は、 顕微鏡下に容易に分離、 培養できる。 神経可塑性の研究に有用と考えている。
 臨床研究も、 基礎研究につながる局所麻酔の研究を積極的に実施している。 特に硬膜外麻酔の研究を押し進めている。 この麻酔の、 臓器への影響を検討するとともに、 安全に施行する方法を探求している。 これに絡んで全国規模の研究会を発足させ、 運営している。
2. 共同研究
(1) 学内 (他の講座等)
 痛みの研究で、 免疫組織化学的研究は、 生物学との共同研究である。 硬膜外麻酔の研究で、 交感神経活動に関する研究は生理学第一講座と、 局所麻酔薬の研究で、 ナトリウムチャネルに関する研究は薬理学講座との共同研究である。
(2) 学外 (外国、 他の大学等)
 局所麻酔薬の研究では、 アメリカ、 ボストン、 Brigham and Women's Hospital ペイン研究センター、 GR Strichartz 教授、 ならびにアメリカ、 カリフォルニア、 カリフォルニア大学サンフランシスコ校麻酔学講座、 K Drasner 教授と共同研究を行っている。 また呼吸細胞の研究では、 カナダ、 カルガリー、 カルガリー大学解剖生理学講座、 NI Syed 助教授と共同研究を続けている。
 国内では、 大学院生1人を岡崎国立共同研究機構生理学研究所へ派遣して、 乳酸アシドーシスと塩素イオンチャネルに関する共同研究を実施している。
3. 地域との連携
 宮崎大学農学部獣医学科から聴講生を受け入れ、 その後共同研究を続けている。
 各地医師会での講演はもとより、 宮崎県消防学校の救急蘇生の講義、 宮崎看護専門学校の麻酔の講義、 宮崎県教育委員会ならびに日本体育学校保健センター主催の心肺蘇生法実技講習会、 日本交通福祉協会の交通事故救命救急法教育講習会などに講師を派遣した。
 宮崎地方裁判所、 日本各地の裁判所からの鑑定依頼も引き受けている。 さらに、 宮崎地区で、 毎年痛みの研究会を開催し、 これに関する地域医療レベルの向上に努めている。

4. 国際交流
 最近5年間、 外国からの留学生は受け入れていないが、 講座から長期にわたり (2年前後) 海外留学したものは7人に及ぶ。

5. 外部資金の導入状況
資金名 平成7年度 平成8年度  平成9年度  平成10年度  平成11年度
科学研究費 3 件 7 件 5 件 4 件 5 件
 3,600千円  6,800千円  5,700千円  5,900千円  7,100千円
奨学寄附金 3 件 5 件 4 件 5 件 2 件
2,850千円 3,050千円 1,800千円 2,700千円 1,600千円
受託研究費 5 件 7 件 5 件 2 件
681千円 1,125千円 7,676千円 4,796千円

【点検評価】 (取組・成果 (達成度) ・課題・反省・問題点)
 第1学年の学生を対象に救急蘇生法を教えてきたが、 平成11年度をもって中止した。 学生は興味を持って受講したが、 中学校、 高等学校での蘇生教育が行きわたり、 目新しさに欠けるようになった。 また、 救急医学講座が同様の活動を始めたので必要性を認めなくなった。 宮崎県の学校職員を対象にした蘇生法講習会は、 重要な仕事であると感じている。
 卒前教育の臨床実習では、 学生と教員が1対1で対応している。 意欲のある学生には好評で、 満たされた実習になっているが、 学習意欲の少ない学生は放置されがちで、 実りは少ない。 臨床問題を与えての課題討論に、 学生は意欲的積極的で、 教員も触発される。 講義では、 学生に授業ならびに教員の評価を命じているが、 学生の反応は十分でない。 予習してくる学生が少ないことが原因かもしれない。 教員の教える技術の向上にもつながることから、 今後も継続する予定である。
 研究面では、 ほとんどの教員が科学研究費の補助を受けて独創的な研究を続けているので、 この体制を維持したい。 ただ、 教員の診療業務が多忙になりつつあり、 十分な研究時間がとれなくなってきている。

【今後の改善方策、 将来構想、 展望等】
 卒前教育は、 系統講義を少なくして、 問題解決式ないし討論しながら学ぶ方法を取り入れていきたい。 テーマとして、 講座の狭間にある問題、 例えば、 緩和医療、 輸血拒否、 説明と同意、 消毒および滅菌、 医療倫理などを積極的に組み入れていきたい。 なお、 卒前教育にかなりの時間が必要なこと、 病院診療が多忙になってきていることから、 地域との連携は重要なものを除いて縮小する予定である。 すでに宮崎県消防学校や看護専門学校等への講師の派遣は取りやめた。
 研究テーマは、 局所麻酔薬と局所麻酔、 痛み、 および呼吸細胞の研究で、 焦点は絞られている。 研究組織が小さいので、 研究テーマを拡大することなく、 このまま継続したい。 外国留学の経験者が多数になり、 研究テーマの独創性も認められ、 科学研究費の補助も受けているので、 今後の飛躍的な発展が期待できる。 特許出願などは、 その前触れと考える。 これまで、 新規の大学院学生の受け入れは、 年に平均1.4人であったが、 年に2人程度に増やして、 研究を進展させたいと考える。

[ 戻 る ]