4 臨 床 医 学 講 座

放射線医学講座

【過去5年間の実績等】
1. 講座の特色等
 放射線医学は、 単純および造影X線検査、 コンピューター断層撮影から MRI、 超音波検査など、 様々な方法を用いた全身に渡る画像診断および悪性腫瘍の放射線治療を専門領域としており、 卒前および卒後教育もかなり広い領域を網羅する必要がある。 そこで当講座では放射線医学の領域を放射線治療、 放射性同位元素、 神経放射線、 胸部・消化管放射線、 腹部放射線の5グループに分け診療、 教育および研究を行っている。
(1) 教育の特色等
 卒前教育では、 放射線の生物作用 (放射線治療、 放射線障害、 放射線防護) の知識を得る、 各種画像診断の基本原理を理解する、 基本的な疾患について画像診断の適応、 方法、 所見について習得することを目的としており、 4年次の概説講義で基本的理念の習得をめざし、 5・6年次の臨床・特別講義、 臨床実習で診断、 治療について実際の臨床レベルに近づくように、 さらに詳細な教育を行っている。 特に、 ポリクリでは2週間という限られた期間ではあるが放射線科の分野別に小グループに講義および見学・体験の集中講義を行っている。 また、 院内、 院外におけるカンファランスには出席を奨励している。 卒後教育では、 放射線科の5グループを3ヶ月毎にローテートしながら放射線科全般における知識、 技術を修得し、 日本医学放射線学会入会後5年目に行われる日本医学放射線学会専門医取得を一般研修終了の目安としている。 2年の間にはスーパーローテートとして自由な選択で他科の研修プログラムに参加する。 研修終了後も、 それぞれの専門分野にて研究を深め、 それぞれの分野の最先端の診療が出来るレベルを目指す。
(2) 研究の特色等
 放射線治療、 放射性同位元素、 神経放射線、 胸部・消化管放射線、 腹部放射線の5グループ別の研究状況について述べる。

放射線治療グループ:放射線治療では、 1987年に他大学に先駆けライナック治療装置を用いた深部頭蓋内病変を対象に定位放射線照射の臨床応用を開始したが、 1999年末までに本治療を実施した症例数が約100例に達した。 現在このすべての症例の追跡調査・データ解析を行っている。 転移性脳腫瘍や髄膜腫などの生命予後、 QOL の改善に大きな福音となったと考えられるデータが出つつある。 また、 先進的なものとしては、 原体照射と電磁波温熱併用療法の臨床応用を進めている。 両者の長所を生かすことを目的とした本法にも、 またいくつかの短所が見つかり、 現在その解決方法にを検討中である。 なお、 いずれも随時各種学会で報告し、 "より良い放射線治療" を目指した研究活動を行っている。

放射性同位元素グループ:脳血流 SPECT を用いた痴呆の早期診断や鑑別診断に関する研究 (平成10年度から3年間の科学研究費) は、 解剖学的標準化を利用した統計的画像解析法である SPM と3DSSP を応用したもので、 アルツハイマー病の早期診断や治療薬の適応判定に役立つものと期待される。 同じ方法を利用し、 術後甲状腺機能低下症における鬱状態の脳血流に関する研究 (平成12年度から3年間の科学研究費) を開始した。 腫瘍領域では、 脳腫瘍、 頭頚部腫瘍、 肺癌に対しタリウムや MIBI-SPECT を行い、 腫瘍の悪性度、 増殖能、 悪性転化能との関連に関する研究を継続している。 また、 実験実習機器センターの川井助教授と種々の共同研究 (脳神経伝達関連放射性医薬品、 腫瘍用放射性医薬品、 他) を継続している。

胸部・消化管放射線グループ:このグループでは胸部腫瘍殊に肺癌の診断と治療の研究を手がけている。 内容としては、 免疫組織学的手法を用いた肺癌細胞の増殖能分布マッピングとこれに対応させた肺癌の辺縁形態の解析。 CTガイド下肺生検の臨床的研究等が挙げられる。 現在、 胸膜生検は Cope 針を用いた blind biopsy が主流であるが、 我々は血管造影用の sheeth と気管支内視鏡検査用の生検鉗子を用いた胸膜生検法を考案した。 この方法は比較的安全で、 しかも確実な胸膜採取が可能な点で従来法に比べ有用である。 現在症例の蓄積と評価を行っている所である。 腫瘍の他にはCTを用いた画像解析による閉塞性肺疾患患者の生理学的重症度の評価について検討している。 消化管関係では、 内視鏡的粘膜切除術 (早期癌だけでなく, 粘膜下腫瘍, カルチノイドなど)、 消化管の3次元 CT の臨床応用があげられる。

腹部放射線グループ
このグループには腹部領域の画像診断の他に interventional Radiology も含まれる。
・ 動脈硬化における病理組織と画像所見との比較検討。
・ 肝細胞ガンにおけるリザーバーによる肝動注療法の有用性の検討。
・ MDCT (Multi Detector-row CT) を用いた3D-CT angiography の有用性の検討
・ 当科で考按した B−RTO 用ロングシースの有用性の検討。
・ 当科で考按した肺動脈用ロングシースの有用性の検討。
・ 各種ステント (気管・気管支, 上部消化管, 下部消化管, 大動脈, 末梢動脈, 静脈) の有用性と合併症の検討。
・ Metallic Stent に代わりうる吸収性素材を用いた stent の発案
・ MRCP や MRA を含む MR 診断における高速撮像法の有用性の検討
2. 共同研究
(1) 学内
 第一病理学講座と動脈硬化の画像診断について共同研究をしており、 現在血管内超音波像について病理所見との対比を行っている。
 実験実習機器センターの川井助教授と種々の共同研究 (脳神経伝達関連放射性医薬品、 腫瘍用放射性医薬品、 他) を継続している。
3. 地域との連携
 医師会関係の講演会、 各種研究会への講師の派遣。 研究会・講演会の開催、 その他、 県内の看護学校における講義等を担当している。

4. 外部資金の導入状況
資金名 平成7年度 平成8年度  平成9年度  平成10年度  平成11年度
科学研究費 2 件 1 件 1 件 2 件
2,600千円 900千円 700千円 2,500千円
奨学寄附金 8 件 16 件 13 件 17 件 19 件
5,050千円 8,286円 8,100千円 8,650千円 9,350千円
受託研究費 1 件 1 件 1 件 2 件 3 件
393千円 256千円 43千円 1,001千円 1,716千円

【点検評価】 (取組・成果 (達成度) ・課題・反省・問題点)
取組:卒前教育に関しては、 最新の情報を学生に講義できるよう各専門分野の講師を選出し、 学外からも招聘するよう務めている。 また、 ポリクリでは少人数のグループに対して専門の講師が診療の合間を縫って熱心に教育にあたっている。 卒後教育では、 目標としている日本医学放射線学会の専門医取得はほぼ100%である。 研究に関しては、 臨床研究が主体で有るが、 多忙な診療と両立させるべく努力している。
成果:充実した講師陣の熱心な取り組みにより、 内容のある教育ができている。 研究面でも文部省科学研究費の取得状況も改善しており、 良い方向にあると考えられる。
 課題・反省・問題点:現在は、 卒前教育に関しては講義が中心になっていて、 知識の伝達に力点が置かれている。 学生の学ぶ意欲を高め、 自ら疑問点を調べ自学する方向性が乏しい。 研究面では、 診療における画像診断の需要増に伴って、 放射線医は人手不足気味になっており、 研究は全ての診療が終了した後にならざるをえない。  研究に十分な時間とマンパワーを投入しがたい現状である

【今後の改善方策、 将来構想、 展望等】
 卒前教育に関しては、 学生の問題意識と自主性の向上をめざしてクリニカルクラークシップを導入する方向で検討したい。 卒後教育においては、 大学での研修が短くなっていることから、 医員研修医の研究への意欲が低下する傾向がある。 定期的にリサーチカンファレンスを開催する等の他、 人事上の配慮も必要である。 研究面ではコンピューターや MDCT 等の画像診断技術の進歩はまだ続くと思われるが、 画像と病理組織との対比は地道にやって行く必要がある。 また、 MRI や RI の領域では、 画像による機能検査の方向性がさらに大きくなると思われる。 当科では、 両分野のこの面での研究実績もあり重視して行きたい。 放射線治療分野ではコンピューターを利用した正確な照射野の設定、 局所への集中的照射方法が可能になっており、 当科の研究で温熱療法との組合せで抗腫瘍作用が高くなることも明らかになった。 さらに放射線治療の適応の拡大が期待される。

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