耳鼻咽喉科学講座
【過去5年間の実績等】
1. 講座の特色等
(1) 教育の特色等
クリニカルクラークシップに準じた実践的な臨床実習に力を入れている。 外来実習では、 1対1で割り当てられた新患の予診から各種検査およびそれらのカルテ記載を担当させ、 教授・助教授が評価を行う。 この際、 医学生としての患者への応対、 気遣いなど、 医師をめざすものとして責任ある行動がとれるかが評価の対象となる。 また、 病棟実習に関しては、 実習期間中の受け持ち患者について手術前後のサマリーなどのカルテ記載を通して、 診療チームの一員として意識を持たせるよう配慮している。 |
(2) 研究の特色等
耳科学を中心に基礎的、 臨床的研究を進めている。 過去5年間の研究課題の柱は、 1) 内耳性難聴の病態解明と治療法、 2) 真珠腫性中耳炎、 癒着性中耳炎の病態解明と手術的治療、 に関する研究である。
1) 内耳の基礎的研究に関しては、 電気生理学的、 免疫組織学的手法を用いて、 血管条機能やイオンチャンネルの生後発達、 難聴モデルでの蝸牛電位の変化、 血流調節機構、 血管条血管の特異性等、 が継続されている。 平成7年度からはラセン神経節細胞の細胞内カルシウム、 内耳グルタミン酸 (Glu) や Glu トランスポーターの定量をはじめ種々の生理活性物質の蝸牛内発現等、 分子生物学的手法を加わえた幅広いアプローチで内耳性難聴の基礎的研究を進めている。 臨床的には蝸電図、 電気聴覚検査、 3次元MRIによる難聴病態の解明、 突発性難聴に対するアミドトリゾアート療法、 人工内耳による高度難聴の外科治療を推進している。
2) 実験的滲出性中耳炎モデルや慢性中耳炎手術例における中耳粘膜の変化やムチンの発現、 癒着鼓膜や真珠腫上皮における肥満細胞の役割、 等基礎的研究を進めるとともに、 多数の当科手術例の蓄積から真珠腫性中耳炎や癒着性中耳炎の病態別手術法の確立を目指している。 |
2. 共同研究
(1) 学内 (他の講座等)
以下のテーマで学内共同研究を行った。
1) ラット脳底動脈平滑筋細胞のシグナル伝達機構の解析−Whole-cell patch clamp recordings と細胞内カルシウム濃度測定による研究:脳外科 (平成7年度教育研究学内特別経費)
2) 脳血流シンチ SPECT による人工内耳・音刺激の大脳優位性の検討:放射線科
(平成7年度教育研究学内特別経費)
3) 低体温、 低血圧状態における聴性脳幹反応及び蝸牛電位に関する臨床的研究:2外科、 麻酔科
(平成7年度教育研究学内特別経費)
4) 微少透析法を用いた内耳グルタミン酸濃度解析による内耳循環の研究:精神科
(平成8年度教育研究学内特別経費)
5) 側頭骨MRIの診断的意義:放射線科 (平成7−12年)
6) 真珠腫上皮における肥満細胞の役割:第2病理、 寄生虫 (平成8〜9年)
7) adrenomedullin の蝸牛における発現と局在:第1病理、 第1内科 (平成11−12年)
8) 蝸牛電気刺激客観的診断法への脳血流 SPECT の応用:放射線科 (平成11−12年度科研費) |
(2) 学外 (外国、 他の大学等)
以下のテーマで学外施設との共同研究を行った。
1) 急性高度難聴:厚生省特定疾患調査研究班 (平成7年〜)
2) 実験的中耳炎モデルの粘膜病態と側頭骨病理:ミネソタ大学耳鼻咽喉科 (平成7年〜)
3) ミトコンドリア遺伝子異常に基づく感音性難聴の臨床的研究:弘前大学耳鼻咽喉科 (平成9〜11年)
4) PACAP の蝸牛内発現と局在:国立循環器病センター (平成10年〜) |
3. 地域との連携
宮崎県耳鼻咽喉科専門医会とは年1回の学術講演会と月1回程度の研究会の開催により地域医療の向上に努めている。 平成11年度からは年1回の会誌を刊行、 3月3日の 「耳の日」 無料健康相談を共同主催し密な情報交換を行っている。
宮崎県土呂久地区砒素中毒公害調査には毎年参加し、 砒素中毒の診断、 住民の健康管理を担当している。
4. 国際交流
平成7〜10年度に中国大連医科大学より留学生1名の受け入れ、 平成11年にはタイソンクラ大学から医師1名を受け入れ、 人工内耳及びリハビリテーションについての研修を行った。
5. 外部資金の導入状況
資金名 |
平成7年度 |
平成8年度 |
平成9年度 |
平成10年度 |
平成11年度 |
科学研究費 |
6 件 |
2 件 |
4 件 |
2 件 |
3 件 |
|
6,900千円 |
1,400千円 |
5,500千円 |
1,100千円 |
6,100千円 |
奨学寄付金 |
4 件 |
8 件 |
16 件 |
19 件 |
24 件 |
|
2,950千円 |
3,800千円 |
7,800千円 |
7,900千円 |
8,713千円 |
厚生科学研究費 |
1 件 |
1 件 |
2 件 |
1 件 |
1 件 |
|
860千円 |
2,000千円 |
4,500千円 |
2,000千円 |
2,000千円 |
受託研究費 |
5 件 |
1 件 |
1 件 |
|
1 件 |
|
1,051千円 |
75千円 |
1,544千円 |
|
286千円 |
【点検評価】 (取組・成果 (達成度) ・課題・反省・問題点)
この5年間は学長就任に伴う森満前教授の退任、 1年間 (平成8年度) の教授不在期間を経て平成9年度に小宗教授の着任という教室の大変革が行われた期間であった。 教授不在の平成8年度には奨学寄付金などの外部資金の獲得が困難な状況があったが、 平成9年度からは著しく増加している。 また、 学生教育のシステムや耳科学に焦点を絞った研究の展開において、 基本的な流れは受け継がれ、 無駄のない移行が行われたと云える。
【今後の改善方策、 将来構想、 展望等】
小宗教授就任以後は入局者の数も安定し、 新しい教室作りの基礎が着実にできつつある。 本学の他の講座や他の研究施設との共同研究をさらに充実させ、 耳科学の基礎研究と臨床研究の統合を目指す。 学生教育においてはクリニカルクラークシップの導入を目指し、 診療における何らかの役割を分担させる。 |