病理学第二講座
【過去5年間の実績等】
1. 講座の特色等 (1) 教育の特色等
| 病理学系統講義 (総論・各論) 及び病理組織実習 (三年次)、 病材示説講義 (五年次) を病理学第一講座と互いに協力し行ってきた。 系統講義では臨床医学の基礎たるべき病理学総論を重視し、 同時に可能な限り最新の知見・研究成果を取り入れ紹介することにより、 ダイナミックに変動する現在の基礎医学の流れを感じ取ってもらい、 生命現象に対する感動と、 疾患に対する真摯な興味・疑問をもつ医学生を育てることに努めている。 また、 最先端で研究をすすめてきた研究者による特別講義を計画し、 特別講師として招聘した。 病材示説講義では、 病理解剖症例を用い、 臨床経過・治療と対比しながら、 疾病における生体反応を学ぶとともに、 その死因、 臨床診断の妥当性、 治療の効果と妥当性について実際の病変部の形態変化と対比検討し、 確固たる根拠に基づいた医療の重要性を理解することを目標としてきた。 また、 積極的に大学院生・研究生をうけいれ、 学位取得後、 病理分野のみならず臨床各科に送りだしてきた。 助手を含め病理学を志す大学院生には、 病理認定医試験に必要な資格取得も目標の一つとして教育を行い、 成果をあげてきた。 |
(2) 研究の特色等
当教室では開講以来これまで、 癌細胞の増殖や浸潤・転移に影響を及ぼす因子について解析を行ってきた。 過去5年間における主たる研究成果は以下の3項目に要約できる。 いずれも既成の先入観にとらわれない研究を遂行することを心掛けてきた。 また、 各研究者が独自の自由な発想にもとづく研究が展開できるよう配慮してきた。
1) 癌細胞および間質細胞の産生するプロテアーゼとインヒビターの癌細胞増殖、 浸潤・転移における意義:癌細胞の浸潤・転移におけるマトリックスメタロプロテアーゼ (MMP) の意義と、 その発現制御に関する研究を行い成果を得た。 また、 癌細胞の産生するセリンプロテアーゼインヒビターについて、 その癌進展における予想外の新たな意義を見出し報告した。 特に、 MMP によってセリンプロテアーゼインヒビターが分解され生じるペプチドの癌進展における重要な生理活性を見出した。
2) 肝細胞再生因子/細胞分散因子 (HGF/SF) の活性化機構と、 その腫瘍、 消化管粘膜再生における意義:多機能増殖因子であり、 種々の組織再生や癌の進展において重要な役割をもつ HGF/SF であるが、 機能発揮には活性化されることが必須である。 しかし、 この活性化機構とその制御に関しては極めて知見が少ない。 HGF/SF 活性化に関る酵素 (HGF activator) とそのインヒビター (HAI) の病態に伴う発現動態と意義の解明、 遺伝子構造解析を行い報告し、 現在これらの遺伝子を破壊したノックアウトマウスを作製中である。 また、 神経膠芽腫の進展における HGF/SF の意義を初めて報告した。
3) 高分化癌細胞の集団遊走機構の解析:高分化ないし中分化型の癌は細胞間の接着を保ちながら浸潤する。 この浸潤機構の解明を進めてきた。 特に、 集団遊走における HGF/SF の意義、 細胞外基質であるフィブロネクチンの意義について解析した。
基礎研究とは別に、 病院病理部、 病理学第一講座と協力して大学付属病院の生検・手術材料の診断業務を行い、 また病理解剖とその検討会を通じて臨床各科の臨床教育と医療の質向上に寄与してきた。 |
2. 共同研究
(1) 学内 (他の講座等)
1) 病院病理部:高分化癌細胞の集団遊走機構の解析。
2) 脳神経外科学講座:HGF とその活性化機構の脳腫瘍進展における意義。
3) 内科学第二講座:HGF とその活性化機構の腫瘍における意義。
4) 解剖学第二講座:新規膜結合型プロテアーゼインヒビター"HAI"の生体内発現分布。 |
(2) 学外 (外国、 他の大学等)
1) 東京工業大学大学院:HGF/SF の活性化機構と、 その腫瘍進展と消化管粘膜再生における意義。
2) 東京大学医科学研究所:マトリックスメタロプロテアーゼの癌進展における意義。
3) 熊本大学医学部遺伝発生研:HGF activatorHAI type 1ノックアウトマウスの作製。
4) 米国ハーバード大学:Intestinal trefoil factor の生物学的意義。
5) 米国タフツ大学解剖生物学教室:EMMPRIN の機能解析 |
3. 地域との連携
附属病院以外の病院・診療所から依頼された生検・手術組織標本の病理診断を第一病理学教室と共同で行ってきた。 過去5年間で外部より本学病理学教室に委託された組織診断件数は3万6906件であった。 また、 専属病理医が在籍しない地域中核病院での病理解剖とその検討会も要請により行ってきた。
4. 国際交流
(1) 国費留学生の受け入れ、 1名 (中華人民共和国)。
(2) 海外研究者の招聘と特別講演会の開催、 2件。
(3) 国際学会での演題発表、 16件。
(4) 海外での招聘講演、 2件。
5. 外部資金の導入状況
| 資金名 |
平成7年度 |
平成8年度 |
平成9年度 |
平成10年度 |
平成11年度 |
| 科学研究費 |
|
|
1 件 |
|
1 件 |
|
|
|
1,000千円 |
|
1,500千円 |
| 奨学寄附金 |
|
|
2 件 |
5 件 |
6 件 |
|
|
|
2,700千円 |
9,700千円 |
10,200千円 |
| 受託研究費 |
3,262件 |
3,327件 |
2,783件 |
3,041件 |
6,042件 |
|
19,094千円 |
13,470千円 |
12,485千円 |
15,689千円 |
22,166千円 |
【点検評価】 (取組・成果 (達成度) ・課題・反省・問題点)
病理学系統講義では、 学生が初めて膨大な数の疾患と遭遇する。 従来型のすべてを網羅する系統講義は多くの学生にとっては消化不良をきたすのみならず、 学習意欲すら奪い取ってしまいかねない事を痛感してきた。 一方で、 臨床医学の土台として、 病理学を系統的に講義することの重要性も痛感している。 学生の理解を助けるために出来うるかぎりの資料作製・配布も行ってきたが、 学生から真摯な興味と学習意欲をひきだすためには、 これまでの教育方法はとうてい十分な成果をあげてきたとはいいがたい。 病材示説講義はスモールグループを対象にチュートリアル形式に近い形で行ってきた。 意欲のある学生にとっては有意義であったと考えている。 問題点としては、 近年の病理解剖体数の減少に伴い、 興味ある症例数を準備することが困難なこと、 学習意欲が乏しい学生は手抜きしがちであること、 学生が症例の病態解析に際し指導する教員の不足があげられる。 基礎研究については、 各自の研究課題がここ5年間で完全に軌道にのってきた。 新規な知見も多く得られている。 今後いかにして研究成果を社会 (臨床現場を含め) に還元していくか、 またそうした目的意識をもった研究を行っていくことが課題であろう。 最後に、 病理組織検査件数は年々増加しており、 臨床各科と地域の病理診断のニーズに応えながら教育・研究体制を維持していくことは、 現在の人員数では限界に近いと感じている。
【今後の改善方策、 将来構想、 展望等】
系統講義では知識の詰め込み的教育ではなく、 疾病に対する基本的かつ普遍的な考え方を身につけさせることこそが重要である。 そのためには、 病理学総論の講義は重要であり、 より一層重視したい。 また極めて限られた教員数で困難を感じている組織実習には、 大学院生を含め出来るだけ多くの教室員が参加し学生と接することが重要であると考えている。 病材示説講義では現在より更に小人数のグループに分けて症例を与え、 これまでより長い時間をかけて検討させる方がよいのではないかと考えている。 病理学第一講座と分担しあい、 効果的な教育を行っていきたい。 研究面においては、 これまでの研究成果をふまえ更に発展させていきたい。 マンパワーの問題は深刻ではあるが、 今後も病理診断と病理解剖を通して臨床各科に積極的に協力し、 付属病院の機能、 地域の医療に貢献していきたいと考えている。 |