3 基 礎 医 学 講 座

病理学第一講座

【過去5年間の実績等】
1. 講座の特色等
(1) 教育の特色等
 3年次に病理学総論・各論の系統講義と病理組織実習、 5年次に病材示説講義を病理学第二講座と分担して行っている。 系統講義では、 「病気の成り立ち」 を理解し、 それが病態・臨床症状にいかに反映されるかを理解することを目標としている。 特に、 個々の事象が、 病気全体の中でどこに位置づけられるのか、 を明確にするよう心がけている。 出来る限り最新の基礎知識を伝達できるように努めており、 その一環として、 血液病理、 骨軟部腫瘍病理、 小児病理、 脳神経病理、 乳腺病理では、 それぞれ専門の講師を招き特別講義を行っている。 病理組織実習は、 系統講義に引き続いて同じ日に行っており、 学生が病理組織像を一連のものとして理解しやすいように努めている。 一方、 病材示説講義は、 本学付属病院で行われた病理解剖症例を通じて、 臨床所見と病理解剖所見を対比することにより、 学生が疾病を総合的に理解出来ることを目標にしている。 本講義では、 学生自らが疾病の病因・病態・経過・死因ならびに、 臨床診断の当否や治療の妥当性・効果・副作用等を検討して発表する形式で、 疾病を細胞・組織レベルのみならず個体レベルで捉えることに重点をおいている。 また、 年度末には、 学生に対して講義のアンケートを行い、 向後の教育改善の参考にしてきた。
 卒後教育としては、 H11年度より、 研修医の病院病理部へのローテートが始まり、 本講座も病院病理部をサポートする形で、 研修医の受入と病理診断・解剖の教育に力を注いでいる。 また研究者及び病理医の育成を目指しており、 過去5年間に新たに2名が病理認定医の資格を取得した。
(2) 研究の特色等
 人体病理を基礎とした、 動脈硬化・血栓症の発生機序の解明が主な研究テーマである。 最近は、 血液凝固系因子、 特に凝固反応の開始因子である組織因子の研究を中心に進めてきた。 急性心筋梗塞に代表される虚血性疾患は、 動脈硬化巣を基盤として血栓が形成され、 血管が閉塞することにより発症する。 動脈硬化巣に血栓ができやすい原因の一つとして、 動脈硬化巣には組織因子が発現しており、 これが硬化巣の破綻に伴う血栓形成に大きく関与していることを明らかにした。 さらに、 組織因子が血管平滑筋細胞の遊走を促進し動脈硬化を進展させることも見出し、 組織因子の阻害因子が血栓形成とともに動脈硬化の抑制にも有効であることを確認した。 現在は遺伝子治療への応用実験を進めている。 さらに、 微小循環血栓症においても、 播種性血管内凝固症候群 (DIC) の発症に、 単球の組織因子の増加が深く関与することを見出した。 これらの組織因子関連の仕事は、 国内外で高く評価され多くの学会シンポジウムで発表する機会に恵まれた。 また、 厚生省循環器病研究班の班員として日本人若年者の粥状動脈硬化症の実態調査 (H7〜9年度) に加わり、 九州の若年者剖検症例の病理学的解析を行い、 日本人の動脈硬化症の実態解明に貢献した。 現在は、 科研費特定領域研究 (H10年度〜) の研究班員として、 降圧ペプチドであるアドレノメデュリン及び関連ペプチドの生体内局在を明らかにし、 新たな生理作用の解明を進めている。
 学内外の共同研究は積極的に進めてきた。 本学と姉妹校であるタイ国プリンスオブソンクラ大学とは、 サラセミア患者に発生する肺多発血栓症の病態解明に取り組み、 肺多発血栓症動物モデルの作製に成功し、 病態解明への基礎を築いた。 米国南イリノイ大学および本学薬理学講座、 九州福祉保健大学との共同研究では、 血管弛緩物質である一酸化窒素 (NO) が、 交感神経末端からのカテコラミン遊離を促進し血管収縮に作用していることを見出し、 NO の循環調節における新たな作用機序を明らかにした。 米国バーモント大学との共同研究では、 糖尿病患者の冠動脈硬化巣では血液線溶系の阻害因子が発現し、 血栓が形成されやすいことを明らかにした。
2. 共同研究
(1) 学内 (他の講座等)
内科学第一講座:アドレノメデュリン及び関連ペプチドの生体内での役割と病態生理の解明
薬 理 学 講 座:一酸化窒素 (NO) の循環調節における新たな作用機序の解明
病理学第二講座:大腸癌細胞の浸潤・転移における接着因子・凝固因子の関与
(2) 学外 (外国、 他の大学等)
プリンスオブソンクラ大学医学部病理学講座:サラセミア患者における肺多発血栓症の病態解明
タイ国マヒドン大学シリライ病院臨床病理学講座:サラセミア患者の治療に関する共同研究
南イリノイ大学医学部血管薬理学講座:一酸化窒素 (NO) の循環調節における新たな作用機序の解明
バーモント大学医学部内科学講座:冠動脈硬化巣での線溶系因子の関与
九州大学医学部循環器内科学講座:病変血管への遺伝子導入
九州福祉保健大学保健科学部視機能療法学科:一酸化窒素 (NO) の循環調節における新たな作用機序の解明
3. 地域との連携
 宮崎県内の多数の病院の病理組織診断を行い、 また教育関連病院へ病理医を派遣し、 公・私立病院の病理診断・解剖業務を通して地域医療に貢献している。 県内の主に教育関連病院と連携し、 臨床と病理のカンファレンス・研究会を行っており、 さらに医師会や検査技師会 (細胞診) の講演や講義を通して地域医療の向上・活性化に努めている。

4. 国際交流
 日本学術振興会学術交流の一環として、 毎年 (H2年度〜) タイ・インドネシアへ赴き、 現地の医師・研究者と貧血・血栓症の病態解明と治療についてミーティング並びに共同研究を行っている。 特にマヒドン大学臨床病理学および病理学講座と本学の姉妹校であるプリンスオブソンクラ大学病理学講座との交流は活発で、 共同研究を通じて肺多発血栓症動物モデルの作製に成功し、 サラセミア患者に多く発生する肺多発血栓症の病態解明と治療に貢献し、 高い評価を受けている。

5. 外部資金の導入状況
資金名 平成7年度 平成8年度  平成9年度  平成10年度  平成11年度
科学研究費 2 件 1 件 3 件 4 件
2,100千円 2,000千円 11,500千円 11,600千円
奨学寄附金 3 件 2 件 8 件 4 件
2,100千円 1,800千円 11,800千円 2,800千円
受託研究費 3,262件 3,328件 2,784件 3,041件 6,042件
 15,283千円  14,570千円  13,585千円  15,689千円  22,165千円

【点検評価】 (取組・成果 (達成度) ・課題・反省・問題点)
 教育では、 系統講義でのプリント配付と典型的な症例の肉眼・組織像を提示し、 学生が理解しやすいように努め、 適宜の小テスト並びに病理組織実習レポートによる講義内容の理解度をチェックしている。 しかし、 学生の多くは、 個々の病気の断片的な情報の収受に終わり、 疾病全体像の把握・理解ができていないように思われる。 近年の分子生物学の進歩により、 病理学で修得すべき情報も増える一方で、 限られた時間内で講義することは非常に難しくなっている。 病材示説講義は、 チュートリアル教育と同一の手法による教育で、 学生が興味を持って取り組んでいるが、 最近の病理解剖率の低下から、 講義症例の選択に苦慮している。
 研究では、 動脈硬化・血栓症の研究を進め、 血液凝固系特に組織因子の領域では活発な研究活動ができたと思っている。 研究テーマも広がりつつあり、 また学内外の講座との共同研究も継続しており、 人的な補強が必要と考えている。
 病院病理業務として、 病院病理部・病理学第二講座と協力して病理診断・解剖も行っている。 病理解剖率は低下してきているが、 病理診断件数は年々増加しており、 現員では教育・研究との時間配分が難しくなってきている。

【今後の改善方策、 将来構想、 展望等】
 教育では、 今後とも病理学第二講座と協力して行っていく。 系統講義では、 病理学総論の講義に重点を置き、 医学用語の正確な理解、 疾病全体像の把握と個々の事象の位置付けが明確になるように講義を進めたい。 病材示説講義では、 講義症例を絞り、 より少人数のグループ単位で行えるように考えている。 病理解剖に関しては、 医師・学生の教育を含めた医療の質の向上に必須であることをさらにアピールして行く必要があると考えている。 卒後教育としては、 病院病理部、 病理学第二講座と共同して研修医を積極的に受入れ、 病理学的視点から患者・疾病にアプローチできる医師の育成に貢献したい。
 研究では、 大学院生等のマンパワーを確保しつつ、 引き続き血管病変における血栓形成機序の解明を進めたい。 血管病変の病理学的解析を進め、 遺伝子導入などの新しい手法を取り入れ、 未だ作用機序が明らかでない血栓関連分子の作用機序の解明とともに、 血栓性疾患の治療・予防方針の確立に貢献したい。 また、 教室の個性を発揮しつつ国内外との共同研究を積極的に進めたい。
 病院病理業務では、 学内外の講座や教育関連病院との連携をさらに深め、 増加する病理診断と臨床各科のニーズに応えたい。

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