3 基 礎 医 学 講 座

薬理学講座

【過去5年間の実績等】
1. 講座の特色等
(1) 教育の特色等
 講義 (132時間) は、 Goodman and Gilman's The Pharmacological Basis of Therapeutics (Pergamon Press)、 細胞の分子生物学 (教育社) などに基づいて作成したプリントを配布し、 臨床医学と関連づけながら行う。 多くの部分はカラーチョークで板書・図示し、 生体のカスケード反応を、 一コマ、 一コマ、 解析を進めていく過程を理解させる。 系統講義のほとんどは教授が行い、 重要な事項は、 関連する項目のところで、 学生に対する質問をまじえながら、 新たな観点から理解させる。 特別講義も、 薬理学、 臨床薬理学、 内科学、 麻酔学の各教授に依頼し、 インフォームド・コンセントなど臨床現場にも対応しうるよう、 学生によるロール・プレイも取り入れている。 実習 (20時間) では、 実習講義を行い、 心筋、 骨格筋、 平滑筋の収縮機序の相違点や動物個体と摘出器官の実験系の有用性と限界など、 実習結果から考察させる。 最後に、 薬理学総論では一年間学習した事柄を整理しながら総括する。 講義・実習の学習到達度は、 年間4〜5回のペーパーテストにより評価する。 答案を添削して学生に返却することもある。 学生の薬理学教室での研究活動を奨励しており、 1〜2名/年が参加している。
(2) 研究の特色等
 培養神経細胞、 種々の平滑筋、 脳微小血管などを用いて、 抗痙攣薬、 神経保護薬、 環状 AMP 依存性プロテイン・カイネース、 プロテイン・カイネースC-αおよび-εによる Na+チャネル、 インスリン受容体の細胞膜発現調節機構と神経細胞機能の修飾、 NO、 カルシトニン遺伝子関連ペプチド、 ノルアドレナリンなどによる血管トーヌスの調節機構、 アドレノメデュリン関連ペプチドの貯蔵・分泌様式、 新規の生理作用などを報告してきた。 とりわけ、 アドレノメデュリンが、 子宮の自発性収縮、 ブラジキニン誘発収縮を抑制するが、 分娩時に作用するオキシトシン、 プロスタグランディンによる収縮を阻害しないことを他に先駆けて発見し、 流・早産、 陣痛予防薬としてのアドレノメデュリンの臨床応用を特許申請中である。 その後、 アドレノメデュリンが膀胱平滑筋細胞の機械的伸展を増強すること、 アドレノメデュリンが前立腺に高濃度存在すること、 脳微小血管にアドレノメデュリンとアドレノメデュリン受容体が存在することを見出した。
2. 共同研究
(1) 学内 (他の講座等)
 文部省科学研究費補助金 特定領域研究 (B) 「アドレノメデュリン及び関連ペプチドの生体内での役割と病態生理の分子機構」 (平成10年度発足) に関して第一内科学講座、 第一病理学講座と共同研究を進めている。 プロテイン・カイネース C による Na+チャネル down-regulaiton の一部は、 第二生化学講座、 第二病理学講座との共同研究である。
(2) 学外 (外国、 他の大学等)
「高圧下における脳の情報伝達機構の研究」 (平成8-10年度) は、 海洋科学技術センターからの受託研究である。 「アドレノメデュリン関連ペプチドの生理作用に関する研究」 (平成10年度発足) は、 塩野義製薬 (株) との共同研究である。 産業医科大学医学部薬理学講座、 生理学講座、 九州保健福祉大学薬理とイオン・チャネル、 生理活性ペプチドに関して、 共同研究をおこなった。
3. 地域との連携
 和田は、 宮崎県薬事審議会委員、 宮崎県環境審議会委員を委託されている。

4. 国際交流
・フランス国立保健衛生研究所所長 Dominique Aunis 博士の大学院セミナー 「Molecular mechanisms of exocytosis in chromaffin cells: role of heterotrimeric G proteins」、 米国 Wayne State University, Aran R. Wakade 教授の薬理学教室セミナー 「Cholinergic and peptidergic control of adrenal chromaffin cell functions」 を開催した。

・宮崎県公費留学生 (ブラジル) 中村つぐみクララ (平成7年9月〜平成8年3月) 高野さおり (平成8年4月〜平成9年3月) が薬理学教室において研修した。
 和田は、 Journal of Neurochemistry, Clinical and Experimental Pharmacology and Physiology, Epilepsia などから査読を依頼されている。

5. 外部資金の導入状況
資金名 平成7年度 平成8年度  平成9年度  平成10年度  平成11年度
科学研究費 2 件 2 件 1 件 3 件 3 件
 3,900千円  4,300千円  2,400千円  14,200千円  15,400千円
奨学寄附金 1 件 1 件
2,000千円 1,000千円
受託研究費 1 件 1 件 1 件 1 件
3,000千円 3,000千円 3,000千円 1,000千円

【点検評価】 (取組・成果 (達成度) ・課題・反省・問題点)
 平成7−11年度には、 助手が他大学教授として昇任し、 大学院生2名が学位取得後助手、 ポストドクとして薬理学教室にとどまった。 教官、 技官、 大学院生、 研究生約10名が、 協力しながら独自のテーマで、 活動した。 培養副腎髄質クロマフィン細胞の Na+チャネル細胞膜発現調節機構、 生理活性ペプチドの分泌・生合成・受容体など (Journal of Neurochemistry など、 インパクト・ファクター合計42.351)、 平滑筋収縮・弛緩機構など (Circulation Research など、 インパクト・ファクター合計28.942) の成果を報告した。 Review の執筆6編 (Elsevier, Hokkaido University Press など)、 国際学会招待講演2題である。 アドレノメデュリンの臨床応用を特許申請中である。 文部省科学研究費 「特定領域研究 (B)」 (平成10年度発足)、 「一般研究 C (7件)」 「奨励研究 (2件)」 を獲得した。 学部学生の講義は出席率も高く、 講義プリント集を成書として出版できる段階になった。 研究に貢献した学部学生を、 論文共著者とした。
 論文インパクト・ファクター合計の平均 (14.259/年) であり、 20以上に引き上げたい。 後継者を育てながら成果を挙げていくのが大学の使命であるが、 自他のデーターを解析し、 その意義を構築していくという論文作成作業は、 教授に依存している部分が多い。

【今後の改善方策、 将来構想、 展望等】
 モーニング・セミナー (週1回) でのデーター解釈、 今後の研究の方向づけなどに関する討議内容が、 研究者、 とりわけ、 若手研究者の個人レベルにまで浸透し、 活用されねばならない。 研究計画の立案、 あるいは、 遂行の初期の段階で、 研究成果を論文として発表するには、 どのような実験がさらに必要か、 当該研究の end point を予め暫定的に設定する必要がある。 この作業が、 後継者の思考過程の育成、 論文作成の迅速化、 研究費の節約に役立つ。
 今後も、 細胞間および細胞内情報伝達機構の研究を継続していく。 特許出願中であるアドレノメデュリンの流・早産予防薬、 陣痛抑制薬としての臨床応用、 膀胱弛緩作用は、 創薬の観点からも重要である。 日本薬理学会年会では、 シンポジウム 「アドレノメデュリン研究の新展開ー循環から生殖までー」 をオーガナイズした。 教室員のイオン・チャネル、 受容体、 生理活性物質に関する原著論文が互いにそれぞれの分野で関連し合い story を構成しうるよう努力してきたが、 纏まった成果は review の形で発表する。 将来、 原著論文数の増加、 大学院生の確保なども見込むことができ、 研究費獲得に奔走すれば、 研究成果を期待しうる。

[ 戻 る ]