3 基 礎 医 学 講 座

生化学第二講座

【過去5年間の実績等】
1. 講座の特色等
(1) 教育の特色等
 次の3点が主な教育目標である。
1) 生物の最も重要な属性である遺伝現象と形質発現の機構を分子レベルで理解すること。
2) 生体内諸反応に直接関与する蛋白質や核酸などの構造と機能を理解すること。
3) これらの生体微量物質の精製方法を理解すること。
(2) 研究の特色等
 転写制御機構の分子的基盤を明らかにするために、 真核細胞におけるクロマチンの構造変化を介した転写制御に焦点を絞って研究を行っている。 相同組換えに基づくターゲット・インテグレーションを高頻度に起すニワトリ B リンパ細胞 DT40株を用いて、 種々のクロマチンタンパク質の遺伝子群を系統的にノックアウトし、 欠失変異株を解析し、 これらの核機能への関与を明らかにすることを行っている。
特に、 クロマチン構造変化に大きく寄与するコアヒストンの脱アセチル化を触媒するヒスンデアセチラーゼなどの欠失変異株の作製を試みている。 6種のヒストンデアセチラーゼのうち、 4つの欠失変異株を作製し、 その1つが B 細胞に特異的な IgM H 鎖遺伝子の発現制御に係わっていること、 他の1つが細胞増殖に必須であることなどの重要な事実を明らかにした。 さらに、 クロマチンアセンブリーに関与するクロマチンアセンブリーファクターの1つのサブユニット (CAF−1p48) が細胞増殖に必須であり、 その tet-responsive, conditional, homozygous 変異株を作製した。
 その解析結果から、 CAF-1p48の消失は DNA 合成能の低下、 新たに複製された DNA 鎖上のクロマチン構造の不安定さや様々な染色体異常を伴って、 死に至ることなどを明らかにした。 また、 日本学術振興会の未来開拓学術研究推進事業のプロジェクトである 「モデル生物のゲノムサイエンス」 のコアメンバーとしてもサポートを受け、 ゲノムサイエンス発展の一端を担うべく研究を行ってきた。
2. 共同研究
(1) 学内 (他の講座等)
 クロマチンの構造変化を介した転写制御の機構に関して解剖学第一講座と共同研究を行い、 現在も継続中である。 さらに、 昆虫ゴルジタンパク質の一次構造解析に関して解剖学第二講座と、 副腎髄質細胞における電位依存性 Na チャネル遺伝子の発現制御機構に関して薬理学講座と、 Y 染色体上 STR 多型遺伝子のハプロイドタイプ解析に関して法医学講座と、 家族性筋萎縮症などの神経内科疾患の遺伝子診断に関して内科学第三講座と、 それぞれ共同研究を行った。
(2) 学外 (外国、 他の大学等)
 クロマチンの構造変化を介した転写制御の機構に関してスイスのバーゼル免疫研究所 (現ドイツのハンブルグ大学) の Jean-Marie Buerstedde 教授、 米国のハーバード大学の中谷喜洋教授および京都大学の武田俊一教授と共同研究を行い、 現在も継続中である。 硫酸転移酵素の多様性に関して宮崎大学の水光正仁教授、 榊原陽一博士と、 トランスポゾンのクローニングに関して京都工繊大学の山本雅敏教授と、 枯草菌スポアタンパク質に関して摂南大学の渡部一仁教授と、 核移行に関与するインポーテンに関して大阪大学の米田悦啓教授と、 イオンチャネル型グルタミン酸受容体に関して京都大学の中西重忠教授と、 それぞれ共同研究を行った。
3. 地域との連携
 宮崎焼酎酵母を特徴づける遺伝子配列検索の研究に関して宮崎県食品開発センター研究員の技術相談などを引き受けている。

4. 国際交流
 科学研究費のサポートを受けて、 クロマチンの構造変化を介した転写制御の機構に関して、 スイスのバーゼル免疫研究所 (現ドイツのハンブルグ大学) の Jean-Marie Buerstedde 教授および米国のハーバード大学の中谷喜洋教授と共同研究を行い、 現在も継続中である。 当講座の教官のスイスおよびドイツ訪問の他、 両教授の来日で共同研究の進展のみならず国際交流の増進を計ってきた。

5. 外部資金の導入状況
資金名 平成7年度 平成8年度  平成9年度  平成10年度  平成11年度
科学研究費 4(※1)件 5 件 4 件 5 件 4 件
9,500
 (※3,000)千円
 11,400千円  14,500千円  12,900千円  11,800千円 
受託研究費 1 件 1 件 1 件 1 件
17,850千円 18,306千円 17,875千円 17,974千円
※内分担者

【点検評価】 (取組・成果 (達成度) ・課題・反省・問題点)
 生化学、 分子生物学の領域の情報量は飛躍的に増加しており、 限られた講義時間内でその全てをカバーすることは極めて困難である。 また、 多くの学生は本学入学までの生物に関する知識量が極端に少ない。 したがって、 重要だと考えられる幾つかの分野に的を絞って、 知的好奇心を喚起するように、 講義ではプリント配付、 小試験による講義内容の理解度チェックなど幾つかの方法を試みたが、 成果はあまり芳しくなかった。 実習に関しても、 実験手法の急速な進展に即応した内容に変更を計画しながら予算的裏付けなどがなく、 旧態依然の内容を続けざるを得なかった。
 クロマチン構造変化に基づく転写制御機構を、 主に1) コアヒストンのアセチル基による化学修飾、 2) クロマチンアセンブリーの2つに焦点を絞って、 分子レベルで明らかにするため、 ジーン・ノックアウト法を用いて、 1) アセチル化および脱アセチル化に関与する HAT および HDAC,2) クロマチンアセンブリーファクター (CAF−1p48) などの欠失 DT40変異株を系統的に作製した。 すでに、 HDAC−2の欠失変異株を解析し、 これが IgM H−chain 量を転写とその pre−mRNA の alternative processing の2つのステップでコントロールしていることを明らかにした。 さらに、 細胞増殖に必須なタンパク質 (HDAC−3、 CAF− 1p48) に関しては、 tet-responsive, conditional, homozygous DT40 mutants を作製済であり、 例えば、 p48の消失は M 期異常や様々なクロマチン異常を伴い、 細胞死に至ることを明らかにした。 しかし、 これらのほとんどは1人のスタッフの成果であり、 さらに成果が得られるような効率よい研究システムに改善する必要がある。

【今後の改善方策、 将来構想、 展望等】
 飛躍的に増加している生化学、 分子生物学の知識の中で、 重要だと考えられる幾つかの分野に焦点を絞って、 生化学第一講座と講義内容を分担して行う予定である。 さらに、 臨床、 基礎のあらゆる分野において、 組換え DNA 実験を含めたバイオテクノロジー手技が繁用されており、 2つの生化学講座が共同して生化学実習の内容を改善してこの問題に対応したい。
 欠失変異株を詳細かつ網羅的に解析し、 クロマチン構造変化と細胞増殖との相関関係を明らかにしたい。 さらに、 欠失変異、 点突然変異、 キメラ変異タンパク質などを導入後、 complementation assay によって、 細胞増殖に必須な領域 (アミノ酸残基) の同定を行うと共に、 複数種存在する HDAC それぞれが、 どのコアヒストンの Lys 残基を脱アセチル化するかなどの基質特異性も明らかにしたい。 本アプローチによって、 真核細胞のクロマチン構造の形成、 維持および変化に係わる核タンパク質の構造・機能相関が、 いまだほとんどブラックボックスであるクロマチン構造の状態のままで in vivo で詳細に解析することが可能になると考えられる。 全スタッフの総力をあげて、 転写制御の分子的基盤を明らかにしたい。

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