3 基 礎 医 学 講 座

生化学第一講座

【過去5年間の実績等】
1. 講座の特色等
(1) 教育の特色等
 多くの学生は、 高校卒業まで与えられた課題を与えられた方法で解決することに慣れ、 自力で工夫して物事を解決しようとする習慣に乏しい。 したがって、 学生の心の底には、 教えて貰うという考えが深く根を下している。 また、 高校卒業まで、 家族と先生以外の人に接する機会が少なく、 極めて限られた視点しかもたない。 先生、 先輩等に盲従する、 ことなかれ主義に徹し、 物事をクリティカルにみる目をもたない。 あるいは、 クリティカルにみたとしても、 周囲の反対を気にしてそれを発言しない。 講義中に配布される多数のプリント、 コピーに埋もれ、 試験前の短期間多量の知識を暗記して、 次から次へと忘れてゆく。 これを繰り返す。 一事を深く追求することはない。 一人一人が自らの論理であらゆる視点からクリティカルに物事を考え、 自由に発言し討論しなければ、 高度技術社会の先駆的発展はありえない。 医学においても同じである。 こうした視点から、 次のような教育形式をとっている。 学生が自らの興味と関心に従って、 テーマを選び、 資料を集め、 深く考えたうえで、 発表し討論する。 運動部をはじめとして、 先輩後輩による縦の系列化などグループ化による弊害の大きいことを踏まえ、 学生一人一人が個人で学習し、 他の学生に教えず、 他の学生から教えて貰わないこととし、 講義時間中に充分討論する。
(2) 研究の特色等
 我々が開発した新しい超高感度免疫測定法(免疫複合体転移測定法)によるHIV-1感染の早期診断に重点を置いて研究を行い、 以下のような結果を得た。 1) 抗HIV-1抗体を検出して、 血清ばかりでなく、 尿、 唾液によるHIV-1感染の診断を可能とした。 殊に唾液は、 特殊な器具を必要とせず僅か1μlの唾液で診断が可能となったばかりか、 濾紙上に乾燥させた唾液によっても感染の診断が可能となった。 また、 本法はウエスタンブロット法に代わる有用な確認試験であることも確かめられた。 2) HIV-1感染後、 抗HIV-1抗体よりも早期にHIV-1抗原が血中に現れることは広く知られているが、 短期間に減少していくため、 HIV-1感染の診断には使われていなかった。 我々は、 抗体より早期に血中に出現するHIV-1p24抗原とその後の感染の期間中高濃度に血中に存在する抗体(抗逆転写酵素抗体、 抗p17抗体)を同時に検出する方法(免疫複合体転移測定法)を開発し、 従来の抗体だけを検出するELISAより約2週間早期に、 HIV-1感染の診断を可能とした。 3) HIV-1逆転写酵素(RT)の組換えRT(RT51)を調製し、 このRT51を用いた免疫複合体転移測定法を開発し、 さらに高感度の抗HIV-1RT抗体の検出を可能とした。 4)HIV-2gp36の合成ペプチドを抗原とする免疫複合体転移測定法を確立し、 抗HIV-2env抗体の検出を可能とした。 5) HIV-1p24抗原の免疫複合体転移測定法をさらに高感度化し、 HIV-1seroconversion serum panelsをテストしたところ、 RT-PCRによるHIV−1RNAの検出とほぼ同時期か、 若干早期にHIV-1p24抗原が検出され、 超高感度 HIV-1p24抗原測定の有効性が実証された。 また、 このことは、 ウイルス粒子内に存在するp24抗原の量からも確かめられている。 6)抗HIV-1p17 lgGおよびlgMの免疫複合体転移測定法もさらに高感度化し、 同様にserum panelsをテストしたところ、 RT-PCRによるHIV-1RNAの検出より早期に抗HIV-1p17 lgGおよびlgMの検出される例があることが分かり、 より早期のHIV-1感染診断の可能性を示した。
 以上、 我々が開発した新しい超高感度免疫測定法を用いることにより、 早期のHIV-1感染の診断が可能となり、 輸血によるHIV-1感染を一層減少させることが期待できる。
2. 共同研究
(1) 学内 (他の講座等)
 内科学第三講座、 小児科学講座、 外科学第一講座、 整形外科学講座、 法医学講座
(2) 学外 (外国、 他の大学等)
 矢野昭起 (北海道立衛生研究所疫学部)、 斉藤敦 (海洋バイオテクノロジー研究所・釜石研究所)、 佐藤成大 (岩手医科大学医学部細菌学)、 加藤進昌 (東京大学医学部附属病院精神神経科)、 岡慎一 (国立国際医療センター・エイズ治療研究開発センター)、 広田晃一 (国立健康・栄養研究所)、 品川日出夫 (大阪大学微生物病研究所・遺伝子生物学分野)、 河野武幸 (摂南大学薬学部免疫化学)、 足立昭夫 (徳島大学医学部ウイルス学)、 木戸博 (徳島大学分子酵素学研究センター)、 藤本和輝 (熊本大学医学部循環器内科)、 佐伯武頼 (鹿児島大学医学部生化学)、 大工原恭 (鹿児島大学歯学部口腔生化学)、 Professor Mario Serio (Clinical Physiopatology Dept.、 University of Florence, Italy)、 Professor Rolf Ekman (Department of Psychiatry and Neurochemistry, University of Goteborg, Sweden)
3. 地域との連携
 Professor Mario Pazzagli (Universita' Degli Studi di Firenze, Dipartimento di Fisiopatologia Clinica, Italy)、 Professor Roy H. Doi (Department of Biochemistry and Biophysics、 University of California, USA)、 Dr. C′esar Yoiti Hayashida (Faculdade de Medicina da Universidade de S^ao Paulo, Brazil)

4. 国際交流

5. 外部資金の導入状況
資金名 平成7年度 平成8年度  平成9年度 平成10年度 平成11年度
文部科学研究費 1 件 3 件 2 件
 1,000千円  11,700千円  3,900千円
厚生科学研究費 1 件 1 件 1 件 1 件
4,000千円 3,500千円 5,000千円  6,000千円
奨学寄附金 2 件 2 件 1 件 3 件
1,500千円 1,500千円 1,000千円  1,800千円
その他(分担)研究費 1 件 1 件 1 件
7,600千円 4,017千円 8,500千円

【点検評価】 (取組・成果 (達成度) ・課題・反省・問題点)
教育;上記の理念の基、 講義では、 できる限り多くの発表の機会を与え、 夏期休暇中には自己テーマによるレポートの作成、 実習では、 学生一人一人が選択した酵素を用い、 自ら実験系を作成し、 実験により実証させた。 これらの過程の中で、 驚くほど問題を掘り下げ、 学習、 調査を行った学生がいる反面、 全く従来の一通りの回答で満足している学生も見られ、 いかに全体の質を上げていくかが問題であった。 また、 学生間同士の討論も十分踏み込んだものではなく、 お互いの甘い評価が多く見られた。 しかし、 この一人一人の発表やレポートは、 物事の真実を論理的に考えるよい機会であることは、 毎回のアンケートからも窺えた。 また、 学生はそのような機会を受け身的ではあるが、 期待しているようであった。 発表については時間の問題で、 全ての学生にその機会を与えることができず、 一講座の問題ではないと感じた。

研究;我々の開発した免疫複合体転移測定法により、 抗原や抗体の飛躍的な超高感度測定が可能となった。 この超高感度免疫複合体転移測定法を用い、 HIV-1感染の早期診断の可能性を検討した結果、 p24抗原の検出系では、 一般に最高感度と思われている PCR 法による RNA の検出と同程度に早期診断が可能であった。 また、 抗体の検出系では、 PCR 法による RNA の検出以前に抗体が検出されるものもあり、 我々の免疫複合体転移測定法は HIV-1感染の早期診断に有効であることが示された。 しかし、 血清阻害などさらに高感度化のための問題は残されている。 また、 一般に使われるためには、 測定の短時間化、 自動化など解決されなければならない。

【今後の改善方策、 将来構想、 展望等】
教育;学生一人一人が物事の真実を論理的に見極めようとする姿勢を身につけることに、 どのような教育が有効であろうか。 個人発表、 レポートなどが、 有効なことは分かっているが、 全ての学生にその学生の程度にあった指導を行うことは、 一講座では容易なことではない。 1) 多講座、 できれば、 基礎講座全体で個人発表を分担するような総合的な教育システムが必要だと思う。 また、 個人的に質問に来る学生は、 総じて、 学習意欲が高い。 また、 この時の論理的な討論は、 後の発表からも有効であることが分かる。 しかし、 このように積極的な学生は、 あまり多くない。 そこで、 2) そのような機会を強制的に増やす。 たとえば、 講座・教官単位の討論・発表の場を企画し、 討議させる。 次は、 3) このようなことを行える時間含めた、 総合的なカリキュラムの再編成が必要となってくる。 最後に、 4) 高いレベルの学生評価システムが重要であろう。 あるレベルの学生しか単位を与えないという毅然とした統一ルールが必要と考える。

研究;免疫複合体転移測定法の高感度化、 簡便化、 自動化の研究を続けていきたい。 我々は、 この免疫複合体転移測定法を HIV-1感染の早期診断に用い、 その有用性について実証した。 しかし、 この方法は多くの抗原や抗体への応用範囲が広いにも関わらず、 一般に使われる機会が少ない。 そこで、 今後は、 多くの分野の研究者と積極的に共同研究を進めていきたい。 殊に、 学内では、 これらの高感度免疫測定法のセミナー・講習会を定期的に行い、 免疫測定法の普及をはかると共に共同研究を積極的に進めていきたい。

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