生理学第一講座
【過去5年間の実績等】
1. 講座の特色等 (1) 教育の特色等
生体機能のうち主に神経・筋肉 (興奮性細胞) が関わった分野の講義を担当した。 生理学は基礎医学のクロスロードに位置しており、 近年周辺基礎医学分野 (生化学、 薬理学、 形態学、 免疫学、 遺伝学や分子生物学など) の情報量の爆発的増加に伴い、 如何にそれらの基礎知識を整理し、 理解させてゆくかが教育上大きな問題である。 ややもすれば学生は最新の微視的知識には長けているが、 基本的レベルでの理解力の不足が目立つ場合が多い。 将来未知の問題に遭遇したときの解決策を見出し得、 また新規な問題点を構築しうる能力の育成を目標として教育を行ってきた。 まず学生が生体の示す巧妙な調節メカニズムに興味を持つことを念頭に、 講義項目の順序や実習内容に工夫をこらした。 また高校時代、 生物学や物理学を全く履修していない学生が増加しており、 学力に大きなばらつきが見られる現状から、 出来る限り基礎的レベルから話を進めボトムアップ形式の講義を心がけた。 教室員数の制約から小人数形式のディスカッションはまだ実施していない。 |
(2) 研究の特色等
近年、 主に in vitro 標本を用いた分子生物学的研究が隆盛であるが、 生体の持つ巧妙な適応調節機構の解明にはあくまで生体全体を捉えた 「統合生理学」 的アプローチも重要であるとの認識で研究を行っている。 主な研究テーマは 「水・ナトリウム代謝の中枢性調節メカニズム」 と 「味覚生理学」 である。 生体の内部環境の恒常性維持に関わる自律神経系と内分泌系が如何に脳、 特に視床下部レベルで統御されているかについて電気生理学を主とし、 免疫組織化学や神経化学的手法も併用して調べている。 その調節に関与する神経伝達/修飾物質としての新規ペプチドやサイトカインの役割、 物理・化学的因子としての浸透圧・ナトリウムイオンの視床下部での受容機構について調べた。 腎臓の排泄機能の調節に関わる腎交感神経活動が中枢内新規ペプチド (アドレノメデュリン、 ノシセプチン、 オレキシン) により影響されること、 中枢内食塩水投与により腎交感神経活動が低下すること、 そして食塩負荷による脳内活性部位を免疫組織化学的 (Fos 蛋白) マーカーで同定した。 脳内でのナトリウム受容に視床下部室傍核の興奮性アミノ酸であるグルタミン酸が関与しており、 NMDA レセプターを介して心血管系反応を起こすことを明らかにした。
また感染・炎症ストレスや環境ストレス(振動・空気暴露)により、 自律神経・内分泌系の高次中枢である視床下部室傍核においてノルアドレナリン系と一酸化窒素系が活性化されること、 そしてこれらの変化に腹部迷走神経が関与していることを明らかにした。 さらに咽・喉頭領域からの機械・化学的情報による自律神経・心血管反応の発現並びに味覚・自律系の高次中枢である大脳島皮質へのそれらの情報の伝達様式を明らかにした。 このように内・外部環境変化に対する生体適応反応をもたらす脳内メカニズムの解明を目指している。 |
2. 共同研究
新規ペプチドの中枢作用、 並びに食塩負荷に対する中枢性適応メカニズムについて、 次の講座等と共同研究を行っている。
(1) 学内 (他の講座等)
生物学、 第一内科、 第三内科、 精神科、 麻酔科 |
(2) 学外 (外国、 他の大学等)
産業医科大学第一生理学教室・第一内科学教室、 自治医科大学第二生理学教室、 名古屋大学医学部内科学第一教室、 ペプチド研究所 |
3. 地域との連携
次の様な講演を行った。
1)循環系関連ペプチド並びにサイトカインの体液調節における役割。 宮崎県病院薬剤師会冬季大会、 平成8年1月28日、 (宮崎) (河南洋)。
2) 「脳と摂食・飲水行動」 −頭で食事をするメカニズム−。 平成8年度公開講座 「食と健康」、 平成8年7月6日、 (延岡)、 平成8年7月19日、 (宮崎) (河南洋)。
3)健康保持増進に関わるエネルギー並びに水・ナトリウム代謝−脳による調節に関連した最近の話題。 宮崎市郡産業医部会研修会、 平成12年3月18日、 (宮崎) (河南洋)。
学会活動として河南は日本生理学会雑誌編集委員(九州地区)、 日本生理学会教育委員 (副委員長)、 日本病態生理学会幹事・常任理事などを務めている。
また査読を行った学術雑誌には Journal of the Autonomic Nervous System、Neuroscience Letters、 Neuroscience、 Brain Research、 American Journal of Physiology などがある。 |
4. 国際交流
・Dr. John Ciriello (Canada, Department of Physiology, Faculty of Medicine, Health Science Centre, University of Western Ontario)、 (日本学術振興会外国人招へい研究者) セミナー開催、 1997.2.16.−2.17.
・Dr. Andrej Marian Trzebski (Poland, Department of Physiology, Warsaw Medical Academy)、 (日本学術振興会とポーランド科学アカデミー間の研究者交流事業による来日研究者の受け入れ)セミナー開催、 1997.3.24.−3.25.、 1997.8.8.−10.10.
・小泉喜代美先生 (U.S.A., Department of Physiology, Health Science Center, State University of New York) 来宮崎、 セミナー開催、 1997.7.29.−8.1.
・Dr. Michael G. Ross (U.S.A., Department of Obstetrics and Gynecology, Harbor−UCLA Medical Center)、 (平成9年度 NIH (米国国立保健研究所) 短期招へいプログラムによる招へい研究者の受入れ・日本学術振興会) セミナー開催、 1998.4.1.−4.3. |
5. 外部資金の導入状況
資金名 |
平成7年度 |
平成8年度 |
平成9年度 |
平成10年度 |
平成11年度 |
科学研究費 |
4(※2)件 |
4(※2)件 |
4(※1)件 |
5 件 |
4 件 |
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5,460
(※3,060)千円 |
2,550
(※950)千円 |
6,400
(※700)千円 |
7,200千円 |
11,800千円 |
奨学寄附金 |
2 件 |
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1 件 |
1 件 |
2 件 |
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3,120千円 |
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500千円 |
1,500千円 |
1,500千円 |
受託研究費 |
1 件 |
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1,700千円 |
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※内分担者 |
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【点検評価】 (取組・成果 (達成度) ・課題・反省・問題点)
研究面では電気生理学的研究法として自由行動・意識下ラットから自律神経・内分泌系調節に関連した視床下部単一ニューロン活動の記録法の改良に取り組みやっと完成に近づいた。 また新たな研究手法として神経化学的アプローチ:in vivo microdialysis 法、 免疫組織化学的アプローチ:c-Fos 蛋白染色法、 電気生理学的アプローチ:脳スライス標本実験システムを導入し、 ようやく各々の手法での研究成果が出るようになった。 しかし研究を推進するマンパワーの主たるものを臨床系教室から受け入れた大学院生と研究生に頼らざるを得ないことより、 研究テーマがややもすれば分散した。
今後はテーマを絞り込み、 より研究を深化させて行くことが必要である。 さらに in vivo と in vitro 実験の融合を目指して行くことも重要である。 過去5年間において教室で研究を行った5名〔課程博士:2名、 論文博士:3名〕が医学博士を取得し、 また発表した英文論文は25編であった。
教育については最新の内容を取り入れた講義項目の見直し、 そして生理学実習項目として 「誘発筋電図」 と 「皮膚感覚受容器からの神経活動記録」 を新たに付け加えた。 これらの取り組みにより学生の 「神経・脳科学」 への関心を高めるよう努めた。 他大学の多くで実施され、 一定の評価が与えられている基礎研究室配属制の導入について早急に検討し、 また小グループ制ディスカッションを取り入れ、 学生が主体的に勉学に励みうる環境を整備してゆくことも大切である。
【今後の改善方策、 将来構想、 展望等】
今、 国立大学は法人化問題との絡みで、 大学そのものあり方が問われているが、 この現状に教室員はもっと敏感になるべきである。 これまでややもすれば対岸の火事とみなしてきた感があるが、 今後は研究・教育ともに教室の独自性を提示し、 たとえ構成規模は小さくともその存在を無視しえないような教室作りを目標とする。 まず、 教育面では生理学講義のコアカリキュラムとアドバンスカリキュラムの独自作成、 生理学教育法シェアリングネットワーク構築への参加、 チュートリアル教育の実情、 有用性と問題点の整理などを行う必要がある。 さらに基礎研究室配属制度の導入も緊急検討課題である。 研究面ではあくまで生体機能の理解には分子・遺伝子レベルからのアプローチとともに生体全体としての統合的アプローチが重要であるとの認識で研究を進めていきたい。 今後は研究テーマを絞り込み、 現象面の記載にとどまることなく、 統合生理学と分子・遺伝子生理学の融合を図りながら、 より実態〈メカニズム〉に迫った密度の高い仕事を推進して行くこと、 そして若き生理学プロパーの研究者の育成が重要課題である。 |