3 基 礎 医 学 講 座

解剖学第二講座

【過去5年間の実績等】
1. 講座の特色等
(1) 教育の特色等
 解剖学は医学の基幹となる学問領域で肉眼解剖学 (含む神経解剖学、 発生学) と組織学とに大別され、 講義、 実習を通して人体の構造に関する基本的知識を修得し、 かつ生命体としての機能発現に関する構造的根拠を考察することにより医学を学ぶ上での基礎作りを行うものである。 1年次当初から通年で肉眼解剖学が、 1年次後期から組織学総論がはじまり、 2年次前期の組織学各論および2年次後期の人体解剖学実習で終了するカリキュラムを平成5年より実施している。 解剖学第一講座と2年交代で肉眼解剖学と組織学を担当している。 従って、 平成7年度は1年生の組織学総論を、 また2年生には組織学各論を、 8年度は1年生に肉眼解剖学を、 2年生には組織学各論を、 9年度は1年生に肉眼解剖学を、 2年生には人体解剖学実習を担当した。 10年度は1年生に組織学総論を、 2年生には人体解剖学実習を担当した。 また11年度は1年生には組織学総論を、 2年生には組織学各論を担当している。 平成10年度解剖学実習では極めて稀な浅上腕動脈の症例に遭遇し、 担当学生が中心となって解剖学会九州地方会で発表した。 組織学実習では Wet Lab も取り入れ、 学生がみずからの血液を採取し、 塗沫標本を作製、 染色し検鏡する実習も組み込んでいる。 またインスリンや成長ホルモンに対する特異抗体を用いた免疫組織化学的染色も適宜学生に行わせている。 インターネット WWW サーバーに 「Histology Laboratories」 を立ち上げ、 学生の自主的な学習に供している。
(2) 研究の特色等
1) 超微形態ならびに物質の保存に優れた高圧凍結技法の開発と組織化学への応用を菅沼、 澤口等が進めている。 従来の凍結技法では得られなかった深い硝子様凍結試料を安定して作製可能な試料キャリヤーを考案した。 澤口は高圧凍結/凍結置換、 Lowicryl K4M 包埋試料を用いて、 ラット胃底腺主細胞の酵素原顆粒を選択的に染色する過マンガン酸カリウム酸化法を開発し、 その実用性を明らかにした。 また本染色法が高圧凍結、 凍結置換法により作製した Lowicryl K4M 樹脂包埋超薄切切片のコントラストを増強することを見い出し、 免疫組織化学的染色と併用することでより正確な抗原の局在を明らかにすることができるようにした。

2) 昆虫細胞 (Sf21) のゴルジ分画を用いてゴルジ装置を認識する単クローン抗体の作製に川野等が成功した。 得られたゴルジ装置特異抗体の一つ12B1は昆虫細胞のシスゴルジ層板を認識するのみならず、 哺乳類の細胞では核タンパク質を認識することを免疫組織化学的に明らかにし、 さらに12B1抗原のクローニングにも成功した。 本抗原は哺乳類 Ca 結合性ゴルジタンパク質 CALNUC のホモログであることも明らかにした。

3) 胃底腺副細胞が分泌する副細胞型粘液の機能解明を目指してラット胃粘膜から GSA-II レクチンで認識される粘液糖タンパク質の精製に成功し、 ペプチドバックボーンに対する特異抗体は胃底腺副細胞、 十二指腸腺細胞、 小腸、 結腸の杯細胞に対して陽性を示した。 異なる粘液分泌細胞で共通のエピトープをもつ粘液物質が生成されていることを明らかにした。 また遺伝子解析からヒト Muc5AC とホモロジーが高いことが生沼等によって明らかにされ、 5’末端領域の cDNA シークエンス (5580bp) を解読した (DDBJ/EMBL/GenBank:AB042530)。 また組織化学的に種々のグリコシダーゼ消化と複合糖質組織化学を組み合わせることにより副細胞型粘液の糖鎖構造の解析を長池等が行った。 さらに実験的に作製したラット胃潰瘍モデルを用いて胃粘膜の再生過程における本粘液糖タンパク質の動態解析も始めている。
2. 共同研究
(1) 学内 (他の講座等)
1) 鳥原、 森満 (耳鼻咽喉科学講座) 等とマウス蝸牛管の陰性荷電部位を電顕組織化学的に明らかにすることができた。
2) 名和等 (寄生虫学講座) と Nippostrongylus brasiliensis 感染ラット小腸における複合糖質の発現変化を明らかにした。
3) 小谷、 大瀧等 (臨床検査医学講座) とラット胃粘膜におけるヨードポンプの組織化学的研究を行った。
4) 片岡、 河野等 (病理学第二講座) が進めている HGF activator inhibitor type 1 (HAI−1) タンパク質の発現分布を電顕レヴェルで明らかにした。
5) 川野等が進めている昆虫細胞ゴルジ特異抗原のタンパク質解析を中山等 (生化学第二講座) の協力を得て行った。
6) 中里、 松倉等 (内科学第三講座) とラット胃粘膜において ghrelin 産生細胞を免疫電顕染色で同定した。
(2) 学外 (外国、 他の大学等)
1) 水光等 (宮崎大学) とアリルスルファターゼの基質特異性に関する研究を川野が行った。
2) Ponnambalam 等 (Dundee) と TGN38のゴルジ装置での発現解析を行った。
3) Nilsson 等 (Heidelberg) とゴルジ局在性の糖転移酵素のリサイクルに関する研究を行った。
4) 原田等 (久留米大学) とATP7Bの役割をヒトおよびラット肝細胞で検討した。
3. 地域との連携
 平成8年度宮崎医科大学公開講座において菅沼が 「消化吸収の不思議ー胃・腸のしくみを探るー」 と題して宮崎市および延岡市で講演した。 また平成11年度宮崎市市民公開講座において菅沼が 「内臓の構造と役割ー五臓六腑についてー」 と題して講演を担当した。 また宮崎リハビリテーション学院の解剖学の授業を菅沼が、 宮崎医療管理専門学校の解剖学の授業を川野が、 都城洋香看護専門学校の解剖学の授業を生沼がそれぞれ担当している。 また宮崎県立盲学校、 聖心ウルスラ学園歯科衛生士専門学校からの解剖学実習見学も引き受けている。

4. 国際交流
 平成7年11月にカリフォルニア州立大学サンデイエゴ校から川野が2年間の海外研修を終え、 帰国した。 平成8年2月にスイス連邦工科大学チューリッヒ校の Martin Mueller 教授が来室し、 高圧凍結技法について講演し、 技術的諸問題について討論した。

5. 外部資金の導入状況
資金名 平成8年度 平成9年度 平成10年度 平成11年度
科学研究費 2 件 1 件 1 件 1 件
 2,000千円   740千円  1,200千円   640千円

【点検評価】 (取組・成果 (達成度) ・課題・反省・問題点)
 解剖学教育が1年次2年次に実施されていることから学生が医学を学ぶ上での基本的な土壌を作り上げることを心がけてきたが、 一方将来、 基礎医学を選択する人材の発掘、 育成にも努力してきた。 その結果、 本学卒業生の中から当講座所属の大学院生が二人、 第一内科学講座所属の院生が一人、 それぞれ研究に励んでおり、 当講座の研究活動の主要な担い手として成長しつつある。 研究活動では人的資源の制約から一時的に低迷したが、 院生の参加により、 上昇に転じることができた。 新しい技法である高圧凍結技法の実用化に成功し、 さまざまな応用が可能な新しい染色法の開発にも成功した。 また細胞内小器官としてその役割が極めて注目されているゴルジ装置関連の仕事でも昆虫細胞12B1抗原の解析から新たな局面を展開することができた。

【今後の改善方策、 将来構想、 展望等】
 解剖学教育では学生が形態科学の重要性、 面白さを体得できるように種々の工夫、 改良を適宜進めていく中で、 将来の基礎医学を担う人材の発掘、 育成にも留意して臨むつもりである。 研究活動ではこれまで以上に、 高圧凍結技法の開発と組織化学、 免疫組織化学への応用に力点を置き、 胃粘膜における粘液の流動動態の組織化学的解析、 粘液の分子生物学的研究も完成させ、 機能解明へ一歩でも近づけたい。 また glycosylation site としても重要なゴルジ装置関連の研究もさらに発展させ、 人的、 経済的なさまざまな障害を克服しながら総合的に糖鎖生物学の発展に貢献できる研究室を作り上げるつもりである。

[ 戻 る ]