3 基 礎 医 学 講 座

寄生虫学講座

【過去5年間の実績等】
1. 講座の特色等
(1) 教育の特色等
 本学では地域医療への貢献という設立の主旨から、 開学当初より基礎医学講座の一つとして寄生虫学講座が設置されている。 寄生虫学の講義・実習併せて96時間というのは全国の医科系大学でトップクラスである。 従来、 3年次学生に対して系統講義を10-12月に行ない、 講義終了後12月下旬から1月に実習を行なってきた。 このスケジュールでは講義と実習の結び付きが弱いため、 H11年度からは系統講義56時間 (総論16時間、 各論40時間)、 実習40時間とし、 午前中に各論の講義を行ない、 午後からその履修項目について実習を行なうという形式に変更した。 講義の内容に関して、 従来は寄生虫の生物学的側面や宿主の免疫応答などに重点を置いていたが、 近年の医師国家試験の出題傾向などに合わせて、 寄生虫感染症の臨床的側面に重点を移した。 それに従って、 従来の虫卵、 虫体、 中間宿主などのスケッチを中心とした生物学的実習内容から、 X 線写真や CT などの画像の読み方や、 検査成績の読み方など、 症例検討に主眼を置いて、 臨床寄生虫学を重視した内容に変更した。
(2) 研究の特色等
 S59年に名和が着任してから、 教室の一貫した基礎研究のテーマは消化管寄生虫に対する粘膜防御機構の解明である。 研究の進め方の特色は、 スタッフ、 大学院生を問わず、 粘膜防御機構というテーマの範囲で各自が自由な切り口で作業を進める態勢をとっていることである。 最近の一連の成果は、 「Mucosal Immunology」 第2版 (Academic Press, 1999) の一章となって結実した。
 基礎研究とは別に、 当教室の重要な活動として、 寄生虫症の免疫血清診断がある。 当初これは臨床へのサービスという位置付けであったが、 最近では年間400件以上の検査を受託するようになり、 症例の取りまとめや、 検査方法の改良も重要な研究テーマとなっている。 特に、 南九州で多発している肺吸虫症、 顎口虫症、 ブタ回虫による内臓幼虫移行症などの新興・再興感染症に関しては文部省、 厚生省科研費などを受けて、 研究活動を進めている。 この問題は国際的にも注目をあつめ、 米国農務省 (USDA) 国際学術研究計画局長 Dr. Murrell が HS 財団の招聘で H10年1月に来宮し、 意見交換を行った。 また、 H10年8月に幕張で開催された第9回国際寄生虫学会では、 名和が Dr. Murrell と共にワークショップ 「Ascarid nematode and VLM」 を主催し、 同年10月にはコペンハーゲンで開催された国際ワークショップ 「Mysteries of Ascaris」 に招聘された。
 人事面では、 若手の出入りが多く、 学内・学外と活発な交流をしている。 泌尿器科からの院生・井手は平成7年3月から国立がんセンターに内地留学し、 平成9年3月に本学で学位を取得し、 H9年10月に本学泌尿器科の助手となった。 第2外科からの院生・富田は H8年3月に学位を取得し臨床に戻った。 泌尿器科からの院生・小林、 および H8年4月から学内共同研究を進めた皮膚科助手・黒川はともに H10年3月に学位を取得し、 現在はそれぞれ臨床で活躍している。 当教室助手・丸山は H8年4月に名古屋市大医動物学講師として転出、 H10年4月には同・助教授に昇任した。 同じく助手・伊藤は H8年3月から米国ハーバード大学 Prof. Podolsky のもとに留学、 H10年3月に帰国し、 本学第2病理講師となった。 H8年9月に北大獣医出身の石渡が助手に着任。 ブタ回虫症の研究のため H10年2月から USDA の Dr. Urban, Jr のもとに留学し、 H12年2月に帰国。 H9年4月から本学卒業生の内山が助手に着任し、 杯細胞の分化増殖や粘液についての研究をすすめている。 H10年4月から中尾が、 また H11年4月から坂元が大学院生として研究に加わった。
 関連人事として徳島大総合科学部助教授・大橋 (S54〜H3年当教室助手) が H9年4月に同教授に昇任、 同じく宮崎大農学部獣医学助教授・堀井 (H3〜5年当教室助手) が H10年1月に同教授に昇任した。 また、 秋田大医学部寄生虫学助教授・阿部 (S54〜H2当教室助手) も、 H12年4月に秋田県立大分子生物学教授に就任した。 これら当教室の出身者とは一貫して共同研究を継続しており、 当教室の活性化に役立っている。
2. 共同研究
(1) 学内 (他の講座等)
 ・第2解剖・第2内科・第3内科
(2) 学外 (外国、 他の大学等)
 ・ハーバード大学医学部病理学・米国農務省ベルツビル研究所・東北大加齢研・秋田大学寄生虫学・慈恵医大熱帯医学・慈恵医大耳鼻科・名古屋市大医動物学・京都府立医大医動物学・徳島大学総合科学・宮崎大学農学部・鹿児島大学多島圏研究センター
3. 地域との連携
 寄生虫症診断の受託件数は H9年頃から急増し、 昨年1年間で28都道府県から400件もの検査を受託した。 そのうち約150件は宮崎県内からであり、 それを含めて全受託件数の8割が九州管内である。 この背景の一つとして、 鹿児島大学および熊本大学の寄生虫学教室が事実上消滅したことが挙げられる。 南九州ではその独特な食文化や畜産業の集約化のために、 人獣共通寄生虫症が極めて重要な感染症の位置を占めており、 当教室は地域の中核拠点として地域医療へ貢献している。 これに関連して、 さまざまなレベルの検査技師会や医師会などで最近の寄生虫症の動向と問題点についての講演を行なった。

4. 国際交流
 寄生虫学の性質上、 海外との学術交流は盛んである。 H8年1〜11月にはソウル大学大学院生・鞠真児が文部省研究生として滞在。 H8年12月にメキシコ・シナロア大の Dr. Camacho が文部省科研費国際学術研究により来訪した。 H10年1月には USDA 国際研究計画局長 Dr. Murrell が HS 財団招聘外国人研究員として来訪し、 人獣共通寄生虫症に関する意見交換を行なった。 H10年9月にはスロバキア科学アカデミー寄生虫研究所 Dr. Dubinsky が学術振興会二国間協定により来訪し、 幼虫移行症についての情報交換を行った。 H10年11月にはフィリピン大学公衆衛生学助教授 Ms. de Leon がやはり学術振興会二国間協定により来訪した。 H11年2月から2年間の予定で学振外国人特別研究員としてナイジェリアから Dr. Onah を受け入れている。 H11年3月には JICA 国際寄生虫対策ワークショップ一行10カ国20名の視察研修を受け入れた。 また、 H11年4月から1年間、 宮崎県費留学生として、 原元を受け入れた。 これら多数の外国人を受け入れる一方で、 名和は、 H8年9月 (文部省科研費) と H11年9月 (日本学術振興会) の2度に亙り、 メキシコ・シナロア大学に、 また、 H11年6月に中国温州市に (日中医学協会)、 寄生虫症免疫診断の技術指導と講演に出向いた。 助手2名の米国留学については研究活動に上述した。

5. 外部資金の導入状況
資金名 平成7年度 平成8年度  平成9年度  平成10年度  平成11年度
科学研究費 2 件 1 件 2 件 3 件
 2,000千円  5,700千円  4,200千円  4,300千円
厚生科学研究費 1 件
1,000千円
ヒューマンサイエンス 1 件 1 件
総合研究事業 1,500千円 1,500千円
奨学寄附金 2 件 1 件 3 件
3,000千円  1,000千円 2,700千円

【点検評価】 (取組・成果 (達成度) ・課題・反省・問題点)
 教育については、 従来の講義と実習をセパレートした系統講義形式から、 講義と実習を一体化することで、 効率化ができた。 医師国家試験の出題傾向にあわせて、 臨床診断学を重視した内容に改めた。 研究に関して、 基礎的研究では、 粘膜防御におけるマスト細胞、 杯細胞由来の粘液多糖の役割について世界をリードする成果をあげることができた。 臨床研究では、 Multiple-dot ELISA 法を導入することで、 寄生虫症の免疫学的スクリーニングについて多項目同時迅速診断が可能になった。 これは大きな研究成果であるが、 その結果、 検査受託件数は年々増加し、 H10、 11年度は400件を超え、 ほぼ日本全体をカバーするに至り、 事実上国内の主要な寄生虫症診断センターとなっている。 このことは、 基礎医学講座ができる地域医療貢献として重要であるが、 あまりにも業務量が増大すると、 本来の研究・教育業務を圧迫することになる点で問題である。 講座固有の問題点としては、 助教授が高齢化して研究・教育への貢献度が低いことが挙げられる。 今後は助教授・講師職の定年引き下げ、 勤務評定の実施、 あるいは契約制などを考慮し、 人事の活性化をはかる必要がある。

【今後の改善方策、 将来構想、 展望等】
 感染症新法の施行により、 届出が義務付けられる寄生虫症は4類感染症33疾患のうち、 マラリア、 アメーバ赤痢などの5疾患だけとなった。 また、 最近5年間の医師国家試験問題を見ると、 寄生虫関係の出題は毎年1題あるかどうかという低頻度である。 このように医療行政や医師国家試験における寄生虫症軽視の風潮があるが、 その一方で、 学外からの診断・治療に関する相談や検査依頼は増加の一途をたどっている。 特に南九州ではその独特な食文化や畜産業の集約化のために、 人獣共通寄生虫症は極めて重要な感染症の位置を占めている。 卒前教育の問題も臨床サービスの問題も、 本学単独で本質的な解決策が得られるものではなく、 厚生行政を巻き込んだ全国的な視点での解決策の策定が望まれる。 とりあえず現状をある程度受け入れる形で将来構想を考えるとするならば、 学部学生への教育時間を縮小し、 寄生虫学を卒後教育に組み込むことが考えられる。 大学院専攻科として地域医療支援センターを立ち上げ、 寄生虫学をその一部門とすれば、 卒後教育と臨床サービスとを兼ね備えた機能を賦与できるのではなかろうか。

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