3 基 礎 医 学 講 座

公衆衛生学講座

【過去5年間の実績等】
1. 講座の特色等
(1) 教育の特色等
 我が国の医師の職分について、 医師法第1条に 「医師は、 医療及び保健指導を掌ることによって公衆衛生の向上及び増進に寄与し、 もって国民の健康な生活を確保するものとする」 と規定されてる。
 この規定にみられるように公衆衛生の向上及び増進に資することが医師の職分の基本であり、 専門家でなくても、 公衆衛生に関する知識・技能を具備することが医師としての最低必要条件である。
 一方、 社会構造、 社会制度の変化及び医学・医療技術の進歩に伴い福祉を含む医療政策は変化せざるを得ない側面を有している。 新たな時代の変化に対応した公衆衛生に関する知識を習得させることを目的に、 現実に生じている具体的な事例を題材にをあげ新たに生じる健康問題に対処できる基礎的な知識を習得させるための教育を行っている。
(2) 研究の特色等
 本講座は開講以来、 閉塞性呼吸器疾患及びいわゆる成人病の範疇に入る各種疾患を対象に野外調査を中心とした疫学的研究を行っている。 この疫学的研究については断面調査で得られる成果は限定されたものにならざるを得ないことを考慮し、 集団における新規発症率及び発症を左右する関連要因 (個体の素因、 環境要因等) を明らかにすることを目的に同一集団を対象に長期に亙る追跡調査を行っている。
 1999年には1984年から1998年にかけ、 本講座及び千葉大学医学部公衆衛生、 国立環境科学研究所と共同で行ってきた25地域 (45小学校) の学童の喘息有症率の地域別変動を明らかにし、 また1996年には過去4年間にわたり大阪市内、 大阪府下、 宮崎県下学童約4、000人を対象に行ってきた杉花粉症に関する疫学調査で、 学童の杉花粉症状有症率及び杉花粉による学童の感作率 (杉抗体陽性率) を左右する要因は杉花粉の飛散数であり、 大気汚染はこれらを修飾する因子であることを明らかにした。
 この研究は1997年以降は成人 (事業所従業員) を対象に調査を行い、能動喫煙及び受動喫煙が杉花粉症の発症に及ぼす影響が少ないことなどを明らかにした。
2. 共同研究
(1) 学外 (外国、 他の大学等)
大気汚染と学童期の喘息との関連性に関する疫学調査
研究組織
千葉大学医学部公衆衛生、 国立環境科学研究所環境影響評価研究チーム、 東海大学健康科学部、 宮崎医科大学公衆衛生、 財団法人結核予防会 (班長:常俊義三、 事務局:財団法人結核予防会、)

慢性閉塞性肺疾患の国際比較に関する研究
研究組織
瀋陽医学院予防医学、 サンパウロ大学付属病院、 独協医科大学情報センター、 千葉大学医学部公衆衛生、 国立環境科学研究所環境影響評価研究チーム、 四日市大学医学情報センター、 東海大学健康科学部、 宮崎医科大学公衆衛生、 財団法人結核予防会 (班長:常俊義三、 事務局:財団法人 環境情報センター)

ヒ素汚染 (飲料水) の人体影響−内蒙古 (呼特和市) の疫学調査
研究組織
呼特和市防疫センター、 日中医学協会、 宮崎医科大学公衆衛生 (調査担当者:常俊義三 事務局;日中医学協会)
3. 地域との連携
環境問題:ヒ素汚染、 土呂久鉱山ヒ素暴露地域の住民の経年観察に参画し、 また法的措置として行われている被害者認定 (公害認定審査会) に参画している。
そ の 他:宮崎県福祉保健部が主催する 「はつらつ宮崎・ヘルスプラン21」 「基本検診委員会」 等に参画している。
 なお、 昭和53年から平成10年まで宮崎県国富町の健康政策の立案・調査・検診にに参画している。

4. 国際交流
1) 平成5年以降 中国 「内蒙古の飲料水のヒ素汚染の人体影響」 について、 実態の解明 (疫学調査) と研究班組織の確立、 研究者の養成を目的として現地の調査を行い、 ヒ素暴露量を明らかにするとともに暴露量と皮膚異常との間に 「量−反応」 の関係を明らかにするとともに、 肺ガン、 肝臓ガンの多発する可能性を示唆する結果を得ている。

2) 平成8年以降 日中医学協会、 中国予防医学協会の協力を得て、 瀋陽医学院、 北京医科大学と共同で中国の大気汚染の人体影響。 サンパウロ大学付属病院と共同でブラジルの大気汚染の人体影響に関する調査研究を行っている。

3) その他 1994年 「International Symposium on Hazardous Air Pollution」 (Japan Society of Air Poluution, Enviroment Agency, Japan、Tokyou Metropolitan Government) の実行委員及びシンポジスト、 総括を担当した。
(参加者:OECD,ドイツ、 カナダ、 米国、 英国、 中国、 韓国、 日本等650名)
 1999年「International Symposium on Ambient Fine Particles and Health (Japan Society of Air Poluution、Enviroment Agency,Japan、Tokyou Metropolitan Government、The Pollution-Related Health Damege Compensation and Prevation Association) の実行委員長及びシンポジスト、 総括を担当した。
(参加者:ドイツ、 カナダ、 米国、 英国、 日本等 670名)

5. 外部資金の導入状況
資金名 平成7年度 平成8年度  平成9年度  平成10年度  平成11年度
科学研究費 2 件 1 件 1 件 1 件
1,800千円 1,700千円 500千円 300千円
奨学寄附金 1 件 1 件 1 件 1 件 1 件
 2,000千円  2,000千円  2,000千円  2,000千円  2,000千円

【点検評価】 (取組・成果 (達成度) ・課題・反省・問題点)
 大気汚染に関する疫学調査は環境行政、 特に環境基準設定に関する資料として活用されており、 その成果は得られている。 またスギ花粉症に関する調査結果は 「花粉症保健指導マニュアル」 (環境庁、 平成12年) に採択されるなどの成果が得られている。 内蒙古のヒ素問題については、 現地での研究組織を確立することに成功し、 個人毎の累積暴露量を把握するとともに、 予防対策を確立するために必要な基礎的な資料を収集することができた。
 中国、 ブラジルの大気汚染の人体影響に関する調査はようやく軌道に乗った段階にあり今後の研究がその成否を左右するものと考えている。
 環境汚染の生体影響については、 限られた地域、 研究機関では対処できない段階にあり、 研究領域を越えた幅広い研究者の参加が必要であると考えられる。 また疫学調査では長期間の観察が必要である等により若手研究者が少なく、 研究者の身分保障、 育成が必要であると考える。

【今後の改善方策、 将来構想、 展望等】
 20世紀の公衆衛生学が二次予防としての早期発見・早期治療を目標とする時代であったとすれば、 21世紀は健康維持・増進を目標とする一次予防の時代でなければならない。 また、 ヒトゲノム解読計画の完成も間近な状況で、 公衆衛生学は最新の科学的知見を取り入れ、 その成果を医療の実践的活動に反映させていく必要もある。
そのために、 教育として、 以下の講義を行っていきたい。
1) 臨床医学における Evidence Based Medicine の考え方・保健医療行政で必要な疫学的知識
2) 健康教育方法論
3) 医療政策学
4) 医療経済学
5) 地球環境科学
 研究としては全集団を対象にするという公衆衛生の思想を尊重しながら、 個人個人に応じた予防医学の実践や医療の効率化につながる生活習慣病の分子疫学、 医療の経済評価に関する研究を行っていきたい。 また、 地球あっての人間であり、 引き続き環境衛生学、 環境疫学の研究も行っていく予定である。

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