3 基 礎 医 学 講 座

衛生学講座

【過去5年間の実績等】
1. 講座の特色等
(1) 教育の特色等
1) 既出版の教科書に類するものでの自己学習
2) 緊急性の高い社会医学に関連する問題への取り組み
3) 社会医学上の関心の高い職場、 医療、 福祉などの現実の直視
4) 医療分野にとどまることなく、 それを取り巻く諸要因の理解
5) 人の健康の積極的な維持、 増進の土台となる栄養
6) 老化、 先天異常への視点
7) 最近の分子生物学の成果をいかして、 予知医学として活用
8) 生活習慣病など生体の内面からの諸種の情報を基にした診断や予防
9) 新・再興感染症、 内分泌撹乱物質への理解と対応
上記のごとき、 その時期にあわせて、 諸テーマをかかげて、 達成度の向上に努めた。
(2) 研究の特色等
 田指導下の学位取得者を以下に列挙する。
 綾部貴典 リジン残基部位特異的変異導入とヒトアデニル酸キナーゼのアデニンヌクレオチド基質との相互作用 平成9年3月
丸山英晴 αートコフェロールのラット肝部分虚血再灌流時におこる耐糖能および肝ミトコンドリアの障害抑制効果に関する研究 平成9年3月
山本 淳 急性動脈閉塞に伴う虚血再灌流の骨格筋ミトコンドリア呼吸能に対する影響
平成8年3月
澁谷浩二 リンスによる保存肺の再灌流障害予防効果についての研究 平成9年3月
長濱博幸 虚血・再灌流における家兎心筋ミクロゾーム画分の蛋白の変化に関する研究
平成11年3月
 山口は、 アミノ糖類による DNA 鎖切断作用の機構の解明、 疾病との関連の解明とを目指している。 アミノ糖からの変化生成物であるジヒドロピラジン構造体が DNA 鎖切断能を発揮する本体の一つである事から、 反応性が高いジヒドロピラジン構造体の諸性質を明らかにすることが、 切断作用の機構の解明へ寄与するものと、 研究を進めている。 多岐わたる研究の進展にともない、 測定機器や技術不足を補うために、 学外との共同研究体勢を構築しつつ研究を推進している。
 血中における糖が、 蛋白質のアミノ基を取り込み、 アミノ糖を経て、 ジヒドロピラジン構造体へ変化することが推定される。 したがって、 ジヒドロピラジン構造体の in vitro における反応が、 in vivo でも進行しているとの予測のもとに、 疾病 (糖尿病およびその合併症) の発症の原因との関連を追求するべく研究の方向を展開している。

1) ジヒドロピラジン構造体のいくつかの新規反応性 (in vitro) が明らかとなった。

2) DNA 鎖切断作用における反応種が、 ラジカル種であることが明かとなった。 即ち、 酸素ラジカル:ヒドロオキシルラジカルと、 複数の炭素中心ラジカルが同時に検出された。

3) 生体内でも、 糖→アミノ糖→ジヒドロピラジンの反応が進行するならば、 そこで発生する各種のラジカルが、 生体成分や組織を攻撃して疾病へと進展する過程が、 強く予測できる結果が得られ始めた。

4) 生体への影響、 効果を検討するべく、 オートラジオグラムによる生体内分布、 培養細胞への効果、 等の実験の芽を伸ばしている。
2. 共同研究
(1) 学内 (他の講座等)
 田は、 二外科、 二内科学講座との共同研究 (前記学位取得者の研究) を行った。
 山口は、 『ジヒドロピラジンの DNA 鎖切断に関する研究』 のために、 電子スペクトル共鳴装置を所有する一般教育科目化学 (中島助教授、 '99〜) と反応種の検出のため実験、 また生体への影響を探索するために、 臨床検査医学講座 (野村助手、 '99〜) との培養細胞への添加実験、 等の共同研究
(2) 学外 (外国、 他の大学等)
 研究の遂行上、 実験設備の不備を補うためおよび知識、 技術の導入のために、 研究の展開にしたがって、 核磁気共鳴装置、 X 線解析装置、 質量分析機、 電子スピン共鳴装置等が必要となり、 そのために、 各種の装置の利用を目的にして共同研究体勢を築いた。 山口忠敏−ジヒドロピラジンの DNA 鎖切断に関する研究−福岡大学 (薬学部) '91〜、 熊本大学 (薬学部) '94〜、 東京都老人総合研究所'97〜、 宮崎大学地域共同研究センター'97〜、 東京医科歯科大 (生材研) '98〜、 等との共同研究。 インターネットによる電子メイルを利用することで、 共同研究者間の実験データや情報の交換が容易に可能となった。
3. 外部資金の導入状況
資金名 平成7年度 平成8年度  平成9年度  平成10年度  平成11年度
科学研究費 2 件 2 件 1 件 2 件 1 件
6,300千円 2,500千円 600千円 5,600千円 1,700千円
奨学寄附金 1 件
1,000千円
受託研究費 1 件 1 件 1 件 1 件
1,510千円 1,358千円 1,360千円 897千円

【点検評価】 (取組・成果 (達成度) ・課題・反省・問題点)
 その時々に、 テーマを掲げて、 強調して、 学生への指導にあたってきた。 学生への教育の浸透度にはまだまだの感がある。 指導、 教育をする立場の教官の意識の改革が、 まず大前提であることを痛感する。

【今後の改善方策、 将来構想、 展望等】
 新しい教育や教授方法の改善が叫ばれている今日、 社会医学の観点から、 医学教育はどうあるべきかを考慮している。 しかしながら、 常にベストな方法は考案できないまま試行錯誤で教育の任を果たしている。 最近の分子生物学の成果も生かして、 分子予防医学、 予知医学として活用してゆけるような方向へ展開出来るのが望ましいと考える。 生活習慣病などの生体の内的側面から得られる諸種の情報をもとに、 疾病の予防、 早期の疾病の診断や治療、 さらには将来に備えた予知による予防の手だてを得ることがこれからの社会医学を学ぶ学生に不可欠となるものと思われる。 生体が置かれているあらゆる環境要因への理解、 最近問題の新・再興感染症、 内分泌撹乱物質等を理解し、 対応できるような自ら考える人材の教育を行うことを主眼としたい。 ヒトの日常的な社会医学上の課題について、 自ら学び解決策を捜す習慣が身につくように計って行きたい。
 講座間の、 学部間の、 さらには大学間の垣根を取り除き、 お互いの交流を深め、 研究におけると同じように教育に関しても議論して、 意識の改革をはかるべきである。

[ 戻 る ]