3 基 礎 医 学 講 座

解剖学第一講座

【過去5年間の実績等】
1. 講座の特色等
(1) 教育の特色等
 解剖学的知識は臨床医学を勉強するために必須である。 精巧に造りあげられた人体の構造を器官・組織・細胞および分子レベルから観察・解析し、 機能との関係を正確に理解できるようになることを教育目標にしている。 その上で正常構造と発生を含む異常 (疾病) との関係を考察するための基礎的知識と思考力を養う。 1年生に対しては、 発生学や神経学を含むマクロ系講義の全て (前期・後期) とミクロ系講義・実習の総論 (後期) を行い、 2年生に対してはミクロ系講義実習各論 (前期) と人体解剖学実習 (後期) を担当した。 講義は第2解剖学講座と共同して2年毎のローテーションで行った。 マクロ系講義は運動器系を助教授が行い、 その他は教授が行った。 講義ではプリントを配布し、 OHP やスライドを併用し、 板書して解説した。 解剖学では実習の比重も高い。 非常勤講師や臨床教官から適宜の指導も必要である。 ミクロ系講義は全て教授が行い、 独自に準備した講義プリントを用いた。 特別講義ではトピックスを話してもらった。 実習はマクロ系・ミクロ系共に教官全員がマンツーマン方式で学生に対応した。 ミクロ系ではコンピューター上で自主学習できるようにした。 実習評価はスケッチの提出と教官によるチェックを行い、 実習テストをマクロ系では合計4回、 ミクロ系では実習終了後に1回行った。
(2) 研究の特色等
 当教室は哺乳類の生殖生物学・生殖医学に関する研究を進めてきた。 特に、 生殖細胞の発生から受精/初期発生に至るまでの生物現象を対象にし、 個体レベルから分子細胞学レベルで解析した。 抗精子単クローン抗体を各種揃えていることは特色であり、 ヒト精子タンパク質も同定し解析している。 主な研究内容は次の通りであった。

1) 精子先体内部タンパク質 MN7 (アクリン1)、 MC41 (アクリン2) および M101 (アクリン3) の局在、 組織化および機能解析
 精子先体はセリンプロテアーゼ等の多数の加水分解酵素と構造タンパク質を含む。 先体反応時にはこれらの酵素を放出しながら、 先体反応や透明帯との結合あるいは透明帯への進入に関係するがそのメカニズムは分かっていない。 MN7 (アクリン1)、 MC41 (アクリン2) および M101 (アクリン3) は先体内で棲み分けながら、 先体反応前後で異なる機能を発揮することを証明してきた。 すなわち、 MN7 (アクリン1) は先体反応に関与すること、 MC41 (アクリン2) は透明帯への強い結合 (2次結合) に関与すること、 M101 (アクリン3) は精巣上体内成熟に伴って分子修飾を起こし、 先体反応後に機能することを証明した。

2) 精子先体赤道部タンパク質 MN9 (エクアトリン) の機能解析
 哺乳動物精子の先体赤道部細胞膜は卵子との膜融合に関わる。 MN9 (エクアトリン) はヒトを含む赤道部に局在する。 先体反応後にも赤道部に残存して囲卵腔にまで持ち込まれ、 精子・卵子細胞膜融合に関連する事を証明した。 現在、 卵子活性化への影響を検索中である。

3) 精子形成過程における tubulobulbar complex の役割
 先体内容物は精子形成過程においてゴルジ由来の先体に組み込まれる。 余剰先体内容物は精子形成末期において、 tubulobulbar complex と呼ばれるライソソームを伴う桿状構造によって排除される事を証明し、 精子形成機構に新知見を与えた。

4) 分子シャペロン・カルメジンの精細胞内発現
 精巣特異的カルシウム結合タンパク質であるカルメジンをノックアウトすると精子は透明帯を認識できない。 カルメジンは分子シャペロンとして、 パキテン期一次精母細胞で粗面小胞体に発現し初め、 ステップ14成熟期精子細胞で radial body-annulate lamellae (粗面小胞体と関連する構造) の変性に伴って消失することを明らかにした。

5) カルニチン欠乏による閉塞性無精子症の解析
 全身性カルニチン欠乏マウス (JVS マウス) は、 カルニチン輸送担体欠損によるカルニチン欠乏により、 精巣上体内精子成熟が障害される結果、 閉塞性無精子症が起こる事を世界で初めて明らかにした。

6) 継続中の研究
 免疫グロブリンスーパーファミリータンパク質ベイシジンの挙動と機能解析、 2) ラット鞭毛表面抗原 CE9/MC31 (26-35K タンパク質) の発現と機能解析、 3) 精子発生制御への関与が予測される MC301タンパク質の発現と機能解析。
2. 共同研究
(1) 学内 (他の講座等)
 周産期脳における heat shock protein と microtubule associating protein (MAP22 の分布変化 (産婦人科学教室)。 カドミウムの精巣に対する影響 (薬剤部)。
(2) 学外 (外国、 他の大学等)
 分子シャペロン・カルメジンノックアウト精子の機能解析 (大阪大学)。 先体成分アクロシンの機能およびアクロシンノックアウトマウスの形態解析 (筑波大学;平成9〜11年度一般/基盤研究 B 分担)。 GTP 結合タンパク質 Rab3A と先体反応の関係 (九州大学)。 Hsp70-2ノックアウトマウスにおける先体形成制御 (京都大学)。 農薬カルベンダジンの精巣への影響 (宮崎大学)。 牛 X,Y 精子の分別に利用する抗精子モノクローン抗体の調整 (家畜改良事業団;平成8〜9年度受託研究)。
3. 地域との連携
 5年間で県内13校のコメディカル教育医療機関の学生延べ約3500名に対して解剖実習見学示説を行った。 講義は短期を含め延べ6校を教室員で分担した。 本学の人体解剖実習に必要な解剖体を収集するための外郭団体 「白菊会」 の事務局を置き、 県内の献体希望者 (現生存会員約800名) に必要な情報を与え、 本学における献体の窓口になった。

4. 国際交流
 平成8年にハワイ大学医学部解剖学・生殖生物学講座/柳町隆三教授およびコーネル大学医学部 Michael Bedford 教授が来訪し、 生殖生物学一般について討論を行った (同時に産婦人科学教室とセミナーを開催した)。 精細胞培養における先体形成について、 フランス INSERUM-INRA U 細胞分化部門 (Dr. AM, Sapori) に対して研究協力を行った。

5. 外部資金の導入状況
資金名 平成7年度 平成8年度 平成9年度 平成10年度 平成11年度
科学研究費 2 件 1 件 2(※1)件 3 件 4(※1)件
 2,200千円  1,300千円  2,450
 (※350)千円
 2,200千円  2,750
 (※150)千円
奨学寄附金 1 件
1,200千円
受託研究費 1 件 1 件
1,500千円 1,500千円
※内分担者
 
【点検評価】 (取組・成果 (達成度) ・課題・反省・問題点)
 平成8年に吉永が専任講師として赴任し、 平成10年には助教授に昇任した。 平成11年に外国人研究者 (助手) を任期付き (3年) で採用した。 現在教官4名、 大学院生2名、 研究生3名、 事務官2名、 非常勤職員1名が協力して教育・研究を推進できる体制を構築している。 解剖学的知識は国家試験に出されていることも念頭におき、 低学年での講義では要点を分かり易く解説する必要がある。 学生自身が臨床医学との関係で解剖学を学ぶモチベーションを高める努力をする。 研究面では平成7年〜平成11年には、 英文原著を19編、 総説5編 (英文1編、 和文4編) を報告した。 文部省科学研究費は12件 (一般/基盤研究B分担:2件、 一般/基盤研究C:6件、 萌芽的研究:2件、 奨励研究:2件) を獲得した。 ある程度の成果は得られたが、 さらに深く研究を進める必要がある。

【今後の改善方策、 将来構想、 展望等】
 1〜2学年合わせて年間150時間前後の広範な講義・実習を行うので、 教官の労力も多く効率的な講義・実習を行うように工夫する。 人体解剖実習時期は火葬との関係で前期に移動する必要があるので、 ミクロ系や他の学科目と調整する必要がある。 研究面では、 これまでの研究を継続する。 卵子や卵管への特異抗体や特異タンパク質の微小注入実験、 体細胞核 (幹細胞核) の脱核卵細胞質への注入実験、 精細胞を用いたヒト不妊症解明/治療につながる基礎実験も計画する。 細胞活動に関する機能分子の生殖器系/内分泌系組織における意義を検索する。 最近、 ミュータント動物や遺伝子改変動物を用いた共同研究が多くなっているのでこの方向の研究も進める。 若手研究者は研究計画や論文作成を独自にできるように育ってきているので積極的に支援する。

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