2 基 礎 教 育 等

化   学

【過去5年間の実績等】
1. 講座等の特色等
(1) 教育の特色等
 今後、 分子レベルでの医学研究や医療がより頻繁になることが予想される。 このような観点から医師や医学研究者が当然持っているべき化学の基礎知識や考え方について、 量子化学、 構造化学、 分子反応論、 化学平衡論、 有機化学反応機構、 生物有機化学、 分子生物物理学などの視点から講義、 演習、 実習を行い、 将来にわたる医学の学習や研究において、 化学の基礎的な部分が理解できるようになることを目標としている。 なお、 授業は伊藤が平成11年度から、 中島が平成7〜11年度に担当した。
 第1学年前期の 「有機物理化学」 (伊藤担当) では、 原子や分子に関する基礎知識、 量子化学の基礎、 分子が原子からどのように構築されるのか (化学結合論)、 分子構造の規則性、 分子反応論、 化学平衡などに関して講義、 演習を行い、 種々の生命現象を分子の構造や挙動からある程度考察できるようになる為の基礎力を養う。
 第1学年後期の 「医学有機化学」 (伊藤担当) では、 有機分子の構造、 有機分子命名法、 有機電子論、 有機反応機構、 生物有機化学、 有機分子の分光学などに関して講義、 演習を行い、 生物構成分子である有機分子の性質、 構造、 反応性などについて学び、 生体構成分子の機能と役割がある程度理解できるようになる為の基礎力を養う。
 第2学年後期の 「生体有機化学」 (中島担当) では、 生体微量元素、 含金属タンパク質の構造と機能などの生体物質化学について講義するとともに、 生体における酸・塩基平衡、 緩衝作用及び生体関連物質の分光分析などの実習を行い、 医学学習の基礎となる知識・技能を修得させる。
(2) 研究の特色等
 微生物の重金属元素集積能を利用する銅、 カドミウムなどの毒性重金属元素の除去、 ウラン、 金などの有用金属元素の回収資源化の研究をすすめている。 平成7年度は、 科研費 (国際学術) を受け、 米国ウラン鉱山でのウラン濃縮菌の検索を行った。 平成8年度は、 黎明研究 (日本原子力研究所) を受け、 オーストラリアウラン鉱山でのウラン濃縮菌の検索を行った。 平成9年度には、 日本原子力研究所において、 プルトニウムの微生物吸着実験を行い、 放射性廃棄物の微生物浄化について研究した。
 平成9年度より、 山形県生物ラジカル研究所及び宮崎大学の X バンド電子スピン共鳴装置を用い、 生物体に取り込まれた銅イオンの構造化学的解析を行った。 平成10年度に 「微生物を素材とする重金属吸着剤の開発と該吸着剤のミクロキャラクタリゼーション」 のテーマで科学研究費 (基盤研究B) を受け、 X バンド電子スピン共鳴装置を購入し、 この装置を用い研究を行っている。 平成10年度より、 電子スピン共鳴法により、 ウラン、 銅、 バナジウムなどの重金属イオンによるヒドロキシラジカルなどの活性酸素発生機構、 微生物菌体、 生体物質による制御機構の解析を行っている。
 また、 活性酸素など生体中に発生する不安定ラジカルは、 直接分析することが困難なため、 ニトロン系、 ニトロソ系化合物をこれらのラジカルと反応させより安定なラジカルとして計測する方法 (スピントラップ法) が利用されているが、 平成11年度より、 京都大学、 京都工芸繊維大学との共同研究で、 より優れたスピントラップ剤の開発を行っている。 平成9年度より精神医学講座 (三山教授、 植田講師) との共同研究として、 てんかん及びパーキンソン氏病モデルラットにおけるヒドロキシラジカル、 NOラジカルなどの脳内ラジカルの発生と消長についての電子スピン共鳴法による研究を行っている。
 また、 平成11年度より、 東京大学の施設を利用し、 脳内微量元素の動態解析を行っている。 平成11年度より、 衛生学講座 (山口助教授) との共同研究として、 電子スピン共鳴法によりピラジン系物質の DNA 切断反応の解析を行っている。 (以上中島)
 平成11年度から伊藤が研究室を担当した。 伊藤は機能性分子、 生体構成分子、 機能性高分子 (例えば、 ポリエンやキノンなど) の電子状態と励起状態動力学などの研究に従事してきた。 例えば、 1972年に発見されたポリエンの21Ag電子状態は光合成や視物質のエネルギー伝達に重要な役割をしていることが知られている。 平成11年度に実験室の掃除と一部の不使用備品の廃棄を行い、 研究に必要な硝子工作場所と真空系を設置した。 群馬大学と東北大学との共同研究ではキノン分子の発光特性、 電子状態、 光反応性を蛍光分光光度計、 三重項-三重項過渡吸収計 (群馬大学)、 時間分解電子スピン共鳴装置 (東北大学) などを利用して調べた。 また、 國立臺湾大學との共同研究では機能性有機金属高分子の励起状態動力学を分光学的に調べている。 (以上伊藤)
2. 共同研究
(1) 学内 (他の講座等)
精神医学講座: (平成9年度より)
衛生学講座: (平成11年度より)
(2) 学外 (外国、 他の大学等)
宮崎大学地域共同研究センター (平成9年度より)
山形県生物ラジカル研究所 (平成9年度より)
東京大学原子力研究総合センター (平成10年度より)
京都大学エネルギー理工学研究所 (平成11年度より)
京都工芸繊維大学繊維学部 (平成11年度より)
群馬大学工学部 (平成11年度より)
東北大学反応化学研究所 (平成11年度)
國立臺湾大學化學科 (平成11年度より)
3. 国際交流
 上記のように、 國立臺湾大學化學科の Yang 教授と共同研究を行っている。

4. 外部資金の導入状況
資金名 平成7年度 平成8年度 平成9年度 平成10年度 平成11年度
科学研究費 2 件 1 件 1 件 1 件 1 件
7,800千円 100千円 100千円 9,200千円 1,200千円
受託研究費 1 件 2 件
2,500千円 3,337千円

【点検評価】
 (教育) 「有機物理化学」 と 「医学有機化学」 (伊藤担当) では、 適宜リポート問題と夏季及び冬季休暇中には宿題を課し、 これらを添削して返却している。 また、 質問は授業中、 授業外に関係なく受けるようにしている。 なお 「医学有機化学」 では資料の配布などの他、 分子模型や視聴覚資料を利用している。 「生体有機化学」 (中島担当) では、 生体物質の構造・機能についての学習、 生体物質の取り扱いの習得など医学学習の基礎となる教育を目標とした。 教科書・参考書の他、 資料を配布するとともに、 適宜レポートを課し、 質問には直接解答するのではなく、 文献・参考書を示し、 ともに考える等の取り組みを行い、 学生が主体的に学習できるよう配慮した。
  (研究) 平成10年度に科研費Bにより電子スピン共鳴装置を購入し、 物理化学・構造化学的手法により生体と重金属の相互作用の研究の更なる展開をはかった。 また、 臨床講座や、 他大学、 研究所と活性酸素に関する共同研究も展開できた。 成果は原著4報、 国際学会5件、 国内学会24件として発表した。 (以上中島)  平成11年度には研究室の掃除と多少の整備を行い、 分子分光学・量子化学的手法により研究を行うとともに、 データ解析を行った。 成果の一部は平成11年に原著2報、 総説1報、 米国学会1件、 国内学会1件として発表した。 (以上伊藤)

【今後の改善方策、 将来構想、 展望等】
  (教育) 化学は内容が多岐にわたるが、 内容を厳選してより解り易い授業を行いたい。 また、 授業中のリポート問題や夏季、 冬季休暇中の宿題は今後も継続させたい。 (以上伊藤)
 インターネットのデータベースを利用するレポート課題など、 学生がより主体的に興味をもって取り組める学習方式を模索し、 展開させたい。 (以上中島)
  (研究) 微弱発光 (蛍光、 リン光、 ラマン散乱光) 計測と量子化学計算の為の環境整備を行い、 今後、 生体構成分子などの励起状態分子動力学に関する研究と分子分光学の基礎データの系統的な蓄積を行う予定。 (以上伊藤)
 ウラン、 トリウムなどのアクチノイド系元素に関する研究が、 原子力政策、 エネルギー資源、 環境問題と関わる重要課題であることと、 生体中の活性酸素の動向は医学的にも重要で興味ある課題であることから、 科研費で購入した電子スピン共鳴装置を活用し、 これらの研究を一層展開させたい。 また、 基礎医学講座、 臨床医学講座との活性酸素に関する共同研究をさらに展開させたい。 (以上中島)

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