2 基 礎 教 育 等

社 会 学

【過去5年間の実績等】
1. 講座等の特色等
(1) 教育の特色等
 社会学は、 人間の社会行動の裏に潜む規則性 (社会的秩序・変動など) を研究する分野である。 「医療社会学」 (1年生対象) では、 前期に井上・大村 『社会学入門』 (日本放送協会) や姫岡勤編 『社会学-改訂版』 (ミネルバ書房)、 インケルス/辻村訳 『社会学とは何か』 (至誠堂) などをテキストとして (時期によって変更)、 社会学の基本的な概念と理論の初歩を解説する。 後期は、 医療の歴史社会的側面 (西洋医療史・病院史など) とミクロな人間関係的 (医師-患者関係など) ・行動科学的 (病気行動論、 疾患の社会的・行動的要因などの) 側面を説明する。 また、 非常勤講師の時井 聡 (淑徳大学社会学部教授) は、 とくに T.パーソンズを中心に社会システム論の歴史と基礎的概念について専門的な立場から詳細な解説を行っている。 さらに 「医学史」 (1年生対象:6時間菊井分担) では、 西欧中世におけるプロフェッションとしての医師の起源と米国医師会史を通した米国医療制度の歴史社会学的解釈について解説する。
  「医療組織論」 (2年生対象) では、 1年次の基本的知識をもとに医療機関の組織・制度的側面 (マクロ) の問題や地域医療の社会的性格等について、 我が国だけではなく欧米諸国の具体的な事例を含めて講義する。 あわせて、 「医療倫理」 の問題も社会学的視点から言及している。 また時井は、 専門職理論の視点から医療専門職 (主に医師) の社会的機能と問題について、 とくに米国医療保険制度改革後急速に進む医療の企業化など具体的事例を踏まえながら解説を行う。 さらに非常勤講師の高橋睦子 (島根県立大学総合政策学部教授) は、 外交官であった体験を生かして (同じヨーロッパでも非アングロサクソン系の) フィンランドを中心に北欧の医療・福祉制度について、 詳細な説明を行っている。
 このほか平成11年度には、 「教養教育改善事業」 (文部省) の一環として、 「教養特別講義プログラム」 を実施した。 講師に上田健作 (宮崎産業経営大学経営学部講師-当時) を起用し、 「米国保健医療システムの実態と非営利活動の位置」 について日本の医療制度との比較を踏まえながら講義とグループ討議によって個人と (他者を含む) 社会のあり方を考えさせる試みをした。 学生への講義の影響について、 講義終了後のアンケートによると、 86%の学生から 「本講義が個人と社会の関係を考えるきっかけになった」 という回答を得た。 またその理由として、 「専門科目ばかり勉強していると社会的に無知になる」 「医師は患者とその家族だけではなく、 広く社会と関わることを実感した」 「社会における医師の役割、 とくに個人と組織の間の役割葛藤を通して医師として社会的に成長して行くことがわかった」 などの自由回答を得た。
(2) 研究の特色等
 菊井は本学に赴任して以来、 米国医学教育の歴史社会学的研究に従事している。 平成7年8月から平成8年6月まで文部省在外研究員として、 米国北ミシガン大学心理学科 (NMU) とカリフォルニア大学サンフランシスコ校医学部・看護学大学院 (UCSF) で 「米国医学教育課程改革の歴史社会学」 に関する研究を行った。 とりわけ UCSF 社会行動学科では、 C.ハリントン教授 (社会学) の指導で、 客員講師として、 第1に米国医学教育史・医学教育課程史、 米国医学政策史、 UCSF 医学研究史・教育史、 歴史社会学・医学史研究法などに関する一次・二次資料・文献資料などを調査・収集した。 第二に、 医学部・看護学大学院セミナー (教官・博士課程院生・博士課程修了生対象) へ参加した。 とくに米国保健政策・経済学セミナーでは、 米国医療政策の諸問題とくにクリントン政権の保健医療改革案を巡る各種の論争や保健医療の民営化に関する国際比較などについて討論した。 また保健・医療アウトカムズセミナーでは、 慢性病治療に関するマネジド・ケアの問題を社会学・経済学・臨床医学の立場から討議した。 両セミナーとも、 医学教育課程改革の社会的背景を分析する上で大いに役立つものであった。 平成8年4月から6月にかけて、 UCSF 医学部及びその附属研究機関などにおいて、 UCSF の医学教育改革について医学教育・研究関係者への面接調査を行った。 とくに N.ロックフェラー教授 (科学史) から UCSF 医学部の研究史と学科間闘争について、 J.バーバチカ教授 (家庭医学) からは UCSF 医学教育課程への家庭医学・老人医学教育の導入と展開のプロセスについて、 それぞれ貴重な情報が得られた。 さらに、 G.リッセ教授 (医学史) と米国医療社会学会の重鎮である E.フライドソン教授には、 歴史社会学の研究方法について示唆に富む指導を受けることができた。 このようにして、 在外研究は今後の米国医学教育史研究にとって貴重な機会であり、 平成8年度は在外研究の報告を中心とした学会発表・講演を行った。
 平成9年度・10年度は主に在外研究で収集した資料の整理・精読及び以下で略述する共同研究を中心に研究活動を行った。 平成11年度からは収集した資料を使って、 「19世紀から20世紀前半における米国医学研究・教育及び看護研究・教育への 『科学』 の導入過程とその結果」 に関する研究に従事し、 そのなかで (科学導入と教育制度再編を骨子とする) 医師会主導の医学教育改革の社会的性格や看護教育への科学導入の試みと拒絶のプロセスなどを明らかにするとともに、 現在の米国医療保健システム及び医療保険制度改革を取り巻く社会的問題 (医療の企業化に伴うマネジドケアの進展や無保険者の増加など) に関する研究に取り組んでいる。 平成12年度末にはこれらの研究を数本の論文にまとめる予定である。 その他、 平成10年度からコンピュータ・ネットワークの社会学的研究を始め、 知識社会学的視点からネットワークの定義・発達過程・社会的機能等について考察した ( 『ドイツ語情報処理研究』 10号に論文掲載)。 この分野については現在、 ネットワーク構築の技術的視点からも事例研究を行っている。
2. 共同研究
(1) 学外 (外国、 他の大学等)
 平成8年12月に日本証券奨学財団より研究助成金 (100万円) が交付され、 医療系非営利組織の国際調査に関する共同研究に従事している (菊井高雄・時井 聡 「変革主体としての非営利組織-米国加州女性健康運動グループの場合」) 。 米国加州の医療系非営利組織約1600を調査対象に選定し、 郵送法による質問紙調査を実施、 結果を NPO 研究会、 西日本社会学会 (論文掲載) などにおいて発表している。
3. 地域との連携
(株)シンクタンク宮崎客員研究員 (平成7年度より平成9年度まで)
(社)日本医学協会評議員 (平成4年度より現在に至る)

4. 国際交流
 平成7年8月−8年6月 文部省在外研究員 (カリフォルニア大学サンフランシスコ校客員講師他)

5. 外部資金の導入状況
資金名 平成8年度
奨学寄附金 1 件
1,000千円

【点検評価】 (取組・成果 (達成度) ・課題・反省・問題点)
 教育に関しては、 数種類の社会学教科書を使ってみたが、 学生から 「難しすぎる」 などの意見が出た。 基礎学力低下の問題も絡んでおり、 今後はよりわかりやすく伝達 (プレゼンテーション) する創意工夫が求められている。 また医療現場の実際を、 医師や医療技術者などを講義に招く形で学生に紹介する必要があろう。 研究面では、 在外研究によって持ち帰った資料のすべてを整理した訳ではない。 とくにインタビューのテープで文字化していないものが多数存在する。 これらの資料を駆使して研究成果を順調に上げたとは言えない。 ただ、 こうした資料を整理する過程で新たな研究テーマ (米国医学研究・教育への 「科学」 導入の過程と結果) を得たことは、 意義深いと考えられる。 共同研究は他分野の研究者との交流にも繋がり、 その成果はを平成12-13年度に書籍の形で発表する予定である。

【今後の改善方策、 将来構想、 展望等】
 教育面では、 学生に自ら学ばせる 「問題解決学習」 のための少人数ゼミナールやチュートリアル方式の講義・演習が今後求められている。 平成13年度からの新カリキュラムには、 「社会学演習」 (仮) や 「医学史」 「医学英語」 の分担において、 ぜひこの考え方を反映した授業作りをする予定である。 研究に関しては、 上述の研究テーマを学位請求論文に発展させられるよう、 これまでの学会発表や平成12年度の成果をそれぞれ学会誌レベルの論文にまとめて行くつもりである。 ネットワークの社会学的研究 (技術修得を含む) は今後進展が予想される新分野であり、 少しずつだが開拓して行きたい。

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