2 基 礎 教 育 等

心 理 学

【過去5年間の実績等】
1. 講座等の特色等
(1) 教育の特色等
1) 教育目標として到達すべき知識に関し、 医学心理学の観点から人間の行動に関する諸要因の基礎的知識を得る。 人間の発達過程と各発達段階の問題について基礎的知識を得る。 病める心の諸様態を知る。

2) 技能として、 多様なパ−ソナリテイと行動を理解するのに必要な心理診断法、 カウンセリングの知識技法を会得する。 効果的な学習方略を習得する。 ストレスと対処行動を学び、 それを活用できる。

3) 態度として、 自己概念と経験が一致した開かれたパーソナリテイを身につけ、 医療に貢献出来る心構えを習得する。 論理的思考の下に、 正常心理、 異常心理を的確に判断し、 必要な対処法をとることが出来る。 これらの教育目標を掲げて、 平成10年度までは講義を中心に学習を進めた。 平成11年度後半には10名程度の小グループ毎にテーマを与え、 自主学習を行わせ、 発表する機会を設けた。 意欲的に取り組む学生も多く、 学生の反応は概して好評であったが、 テーマが各グループで異なるため、 他のグループのテーマに関して、 学習が充分でないという意見があった。 必要最低限の知識習得に加えて、 自主学習で更に高度の知識を得ることは学生諸君に望ましい姿であろう。
(2) 研究の特色等
1) 記憶モデルとしての kindling:小脳歯状核破壊の大脳扁桃核 kindling への影響を見た。 ラットとネコで扁桃核 kindling の発展過程への影響が異なるが、 何れも初期の段階では促進傾向が認められた。 後放電の持続時間でも種族差が認められた。 二次焦点形成について、 ネコでは有意に促進された。
 てんかん性発作発射発現に関して、 微少透析を共同研究者の植田が行い、 扁桃核 kindling に一致して、 発作時 glutamate の異常放出と GABA の増大を認めた。 GABA は最終段階で発作間欠期に増大したままであった。 この GABA の変化はけいれん準備性と関連するものであろう。 即ち、 増大した GABA は入力部である海馬歯状核で抑制効果を発揮し、 結果的に海馬の低活性化をもたらし、 これは発作間欠期の臨床所見と対応する。 発作時にはより多くの神経細胞の同期化を来し、 更に glutamate の異常放出とあいまって発作発現に至るものと考えられる。
 次に海馬は記憶殊に短期記憶には必須の役割を果たしている。 刺激効果が海馬にその痕跡を残すことにより、 その後の刺激に影響してゆく現象は神経系の可塑性モデルとして重要である。 扁桃核に初発する異常な後放電がいかなる形でシナプス変化を生じ、 シグナルカスケードに至るか不明な所も多い。 Glutamate の異常放出は当然 postsynaptic high-affinity の変化とともに代謝性 glutamate 受容体を介してシナプス伝達に強力な変化を生じる。
 シナプス後性 glutamate 受容体の活動亢進はけいれん準備状態と関連し、 その受容体の拮抗薬は強力な発作抑制剤となりうる。 このように glutamate 受容体や transporter (輸送体) の変化がてんかん原性過程に深く関る。 Glutamate tranporter は、 細胞外の glutamate を低濃度に維持し細胞毒性から防御する。 astroglial transporter として GLAST と GLT-1がある。 正常マウスと GLAST、 GLT-1夫々の knock out mouse を用いて、 kindling の発展過程を詳細に調べ、 glutamate、 GABA の動態、 glutamate 受容体、 GABA 受容体、 GLAST、 GLT-1レベルについて研究は目下続行中である。
2) 平成9年度には第23回性格・行動と脳波研究会を主催した。 全国より、 80名の参加者があった。
3) 事象関連電位に関して単行本 (事象関連電位、 新興医学出版社1997) を編著で出版し、 脳波、 事象関連電位研究者に広く読まれている。

2. 共同研究
(1) 学内 (他の講座等)
 glutamate transporter knockout mouse kindling に関して精神医学植田講師、 石田助教授と共同研究を行っている。
(2) 学外 (外国、 他の大学等)
 東京医科歯科大学田中教授と glutamate transporter knockout mouse kindling に関して共同研究を行っている。

3. 地域との連携
 平成10年12月まで8年間にわたり宮崎県教育委員として、 地域の教育行政に参加した。 その間に宮崎県教育委員会委員長職務代理の期間2年間には環境審議会委員を兼任した。 また、 平成9年度まで宮崎県精神医療審査会委員を務めた。 専門分野であるてんかんに関して社会啓蒙、 患者家族の福祉を目的とする日本てんかん協会宮崎県支部の講演会を会員と共に開催し、 特別講演の座長を務めた。

4. 国際交流
 関連領野である 「神経可塑性とてんかん原性」 に関する国際シンポにも積極的に参加した。 米国てんかん学会会員である。

5. 外部資金の導入状況
資金名 平成7年度
科学研究費 1 件
1,500千円

【点検評価】 (取組・成果 (達成度) ・課題・反省・問題点)
 教育に関して、 これまで講義中心の知識伝授型の教育を主として行って来た。 知識の量としては充分であってもその知識を学生が使えるかというと問題が残った。 膨大な心理学の項目の中で必修項目を絞れば、 知識伝授のみでない教育を行うことは可能であろうが、 学生が充分な知識量を得うるか疑問が残る。 知的好奇心を培うためには、 必修の部分に加えて、 自主学習、 グループ学習を取り入れると、 やる気のある学生諸君は自ら問題提起をして研鑚を積むことも可能であろう。 更に平成11年度後期には10名程度の小グループ毎にテーマを与え、 自主学習を行わせ、 発表する機会を設けた。 意欲的に取り組む学生も多く、 学生の反応は概して好評であったが、 テーマが各グループで異なるため、 他のテーマに関し、 学習が不充分という点は否めない。
 研究面では研究室、 設備、 人等全ての面で白紙で心理学教室がスタートしたこともあり、 データが出るまでに予想外の時間を要した。 Kindling に関する研究は共用の臨床プロジェクト研究室の片隅で、 視覚認知に関する研究については電気生理センターの1部屋の片隅を借用しながら、 多くの方々に配慮して頂き、 何とか研究を営んでいる。
 Kindling に関して knockout mouse を用いて、 詳細な glutamate, GABA の動態、 glutamate 受容体、 GABA 受容体、 GLAST,GLT-1レベルについての結果を向後検索予定である。

【今後の改善方策、 将来構想、 展望等】
 教育方法の改善方策について、 知識伝授型の講義と共に、 小人数グループによる自主学習のよさも取り入れ、 それらが補完するような形で、 充分な知識、 学習への意欲、 知的好奇心、 対人関係等のコミュニケーション能力、 プレゼンテーション技能を学生が獲得出来ることが目標となろう。 要はよく設定されたカリキュラムの下で、 適切な必修項目に加えて、 高度のことも学べるシステム作りを向後の課題とすべきであろう。
 研究面では実験が可能な研究室の確保がまず望まれる。 本来実験系部門である心理学の研究室がそのような部屋や設備を有しないのは、 是正されてしかるべきであろう。 将来的には kindling の神経可塑性において astroglial glutamate transporter である GLAST と GLT−1がどのように関っているか明らかとなれば、 glutamate 受容体の動態の一部も明らかとなり、 これらは glutamate 作動薬や拮抗薬に関するてんかん治療薬開発にも貢献できよう。

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