平成13年度解剖体追悼式・名簿奉納式実施

 平成13年度解剖体追悼式が、 10月17日 (水) 本学体育館で実施された。
 式は、 午後2時から行われ、 本学にご遺体を提供していただいた2,764柱の霊に対し黙祷を捧げた後、 平成12年10月から平成13年9月までの1年間に学生の解剖実習及び病理解剖に捧げられた71柱の献体者名簿が奉読された。
 続いて森満学長が追悼の言葉、 学生代表 笛田典子さんが追悼の言葉を述べた。
 その後、 学長初め、 ご遺族らの参列者一人一人が菊の花を捧げ、 故人の冥福を祈った。 式の終了後、 本学慰霊碑の前で解剖体名簿奉納式が行われ、 71柱の名簿を奉納した。

追 悼 の 言 葉

 本日ここに、 ご遺族の皆様と相集い、 医学教育と研究のために御献体いただきました皆様方の慰霊祭を行うにあたり、 まず御霊のご冥福を心よりお祈り申し上げます。
 ご遺族の皆様には、 在りし日の故人の面影を偲び、 新たな悲しみの中に、 感無量の思いを抱いて居られることと拝察いたします。
 また私ども宮崎医科大学の医師・看護婦、 医学科学生、 今年新設されました看護学科学生、 および教職員一同も、 医学学習の第一歩であります解剖実習を思い起こし、 改めて御霊への感謝と共に、 皆様の尊いご遺志に応え、 医療人としての本分を尽くすべく、 今ここで覚悟を新たに致しております。
 宮崎医科大学は、 皆様の尊い献体へのご意志と、 ご遺族の皆様のご理解によりまして、 医学教育と研究に不可欠であります人体解剖のお許し頂き、 今日までの27年間、 その目的を果たしつつ発展して参りました。 本学卒業生で医師国家試験に合格したものは既に2000名以上となり、 その内約300名が宮崎県内の医療施設で活躍いたしております。 医学博士も既に約400名になりました。 更に本学から発表された医学論文の質は極めて高く、 国公私立全大学の中で、 旧帝大クラスをも凌いで第2位であり、 国際的にも高く評価されております。
 また大学附属病院の医師は、 自らの診断と治療の適否を、 病院病理部での病理解剖を通じて学ばせていただいております。 皆様の病気克服への切なる願いにお応え出来なかった事を厳しく反省すると共に、 新たな治療法を見い出すための貴重な参考資料として、 十分に生かしたいと研鑽を続けております。
 更に最近の医療においては、 単に医師のみの診療活動では不十分となってまいりました。 看護婦、 X線技師、 臨床検査技師などの多面的な協力なしには充分な医療が出来なくなっております。 これらコメディカル・スタッフを養成しております県内の看護、 医療福祉、 リハビリ関係の大学、 学校からも、 毎年多くの学生や生徒が、 本学における解剖実習を見学し、 複雑な人体の構造を学んでおります。 その数は本年度は総計739名に及びました。 皆様のご意志はこうした医療関係者の学習にも十二分に生かされております。 ここにそれら施設名をご報告申し上げ、 これら施設を代表し、 心より深く感謝申し上げます。
 宮崎県立看護大学、 九州保健福祉大学、 国立都城病院附属看護学校、 聖心ウルスラ学園短期大学、 延岡看護専門学校、 宮崎看護専門学校、 宮崎医療福祉専門学校、 都城看護専門学校、 鵬翔高等学校衛生看護専攻科、 日南学園高等学校田野看護専攻科、 宮崎歯科技術専門学校、 都城歯科衛生士専門学校、 宮崎リハビリテーション学院、 宮崎県立盲学校以上の14施設であります。
 最近のわが国の医療・福祉制度は、 従来の国民皆保険制度に介護保険制度が加わり、 極めて複雑となって参りました。 特に医療技術は益々高度化、 精密化され、 脳死臓器移植もようやく日常的な医療として定着したようであります。 新世紀になって、 新たに遺伝子医学、 組織臓器再生医学などの臨床応用が始まりつつあります。
 その一方で、 日常的な医療行為の中で、 様々な問題も発生いたしました。 その多くは医療経済上の制約に起因するものであり、 単に医師、 看護婦、 技師等の医療人のみが、 その責任を問われる問題ではありません。 しかしながら矢張り、 医療人としての倫理観や責任感の在り方も厳しく問われなければなりませんし、 厳しい反省が必要と考えております。
 こうした医療人としての高いモラルは、 まず医学生となって最初に体験する解剖によって、 確実に大きく芽生えて参るものであります。 それは解剖実習を終えた学生諸君の感想文に如実に現れております。 白菊会の 「私たちのための良い医者を世の中に送り出してほしい、 私たちは、 献体によって、 生前に受けた医学の恩恵に報いることが出来る事を喜び、 特典も報酬も求めません。」 という献体の心こそが、 医のモラルの根底にあるべきものと思いますし、 それを黙々と実行された皆様の尊いご意志こそが、 立派なお手本であると思います。
 最後になりましたが、 ご多忙の中、 この追悼式にご参列いただきましたご来賓の方々に心より御礼を申し上げます。 またご遺族の皆様の末永いご幸福とともに、 重ねて御霊のご冥福を心よりお祈り申し上げます。

                                             平成13年10月17日   
                                                宮崎医科大学長  
                                                   森 満    保


   追悼の言葉を述べる森満学長

献体者へ感謝と追悼の気持ちを込めて献花する学生


追 悼 の 言 葉

 山の木々もその装いを変え、 金木犀の香りが漂う爽やかな季節を迎えています。 本日ここに平成13年度宮崎医科大学解剖体追悼式が執り行われるにあたり、 解剖学実習及び医学研究の為に献体なされました御霊に対して、 学生を代表して慎んで追悼の言葉を捧げます。
 思い返せば1年前のちょうど今頃、 私達は解剖学実習を始めました。 実習中の一コマ一コマは、 今でも鮮明に覚えています。 「御遺体は最初の患者である。」 これは、 解剖学実習を行うにあたり、 先生から私達に与えられた言葉です。 私は、 人の命を委ねられる立場になるのだと自覚すると共に、 大きな責任を感じ、 気の引き締まる思いでした。 初めて御体にメスを入れる時、 不安と緊張そして畏敬の気持ちで手が震えていた事を思い出します。 しかし、 実習が進むにつれて、 人体の構造の美しさ、 そして一人一人個性がある事に魅了され、 無我夢中の4ヶ月はあっという間に過ぎていきました。 実習のすべてが終わり御遺体を納棺する時、 それまで自分の感情を抑え実習の対象として見るようにしていた御遺体を、 この世に生きていた一人の人格として認識することができました。 故人の着ていた衣服や愛用されていた日用品を目の当たりにし、 献体をして下さった事に限りない感謝を感じました。 また、 故人と生活を共にしていたご遺族の方々にも、 献体に協力して下さったことに深い感謝を感じます。 御遺体は、 私に医師を目指す者の原点を教えて下さいました。 これから、 挫折した時や数々の節目には、 御遺体のことを思い出し、 それが自分にとって大きな支えとなる事と思います。
 解剖学実習が解剖学だけではなく、 すべての医学の根底となり、 必要不可欠であるという事が最近分かって来ました。 生理学、 病理学など基礎医学を勉強する際、 実習で得た立体的人体構造の知識のおかげで、 理解がより深まるという事が多くあります。 また、 実習で得た事は知識だけではありません。 それ以上に、 医師になるという自覚を強く持たせてくれる、 人間的な体験であったと思います。 献体された方々への感謝と尊敬の念を忘れる事無く、 しっかりと御意志を受け止め、 今後も努力精進していく事を誓います。
 最後になりましたが、 私達に数々の貴重な体験を授けて下さった故人の御霊に対し、 心から感謝と尊敬の気持ちを捧げ、 慎んで御冥福をお祈り申し上げます。 そして、 絶ち難い肉親の情を越えられ、 御協力をして下さいました御遺族の皆様方の深い御理解と崇高な御心に対して厚く御礼申し上げ、 追悼の言葉といたします。

                                         平成13年10月17日      
                                          宮崎医科大学 医学科3年 
                                                    笛 田 典 子

          
 追悼の言葉を述べる学生代表の笛田さん


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