年 頭 所 感
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新年あけましてお目出度うございます。 21世紀の第1年次は、 9月になって、 同時多発テロや炭疸菌テロ、 そしてビンラディン逮捕アフガン戦争といった極めて前世紀的な事件が勃発しました。 新世紀の幕開けで、 何か全てが明るく改善・刷新されるのではという期待が儚い幻想であることが、 理の当然のことながら、 明らかになったわけです。 暦年上の区切りが現実的には全く無意味なものであることの現れですが、 それでも1月1日を挟んで忘年会・新年会を持ちたがるのは、 如何ともし難い日本人の本性なのでしょう。 ここでも臆面もなく、 前年を振り返り、 また新年への抱負を述べて年頭所感といたします。 昨年は、 待望の看護学科が新設され、 第1回生を迎え順調に運営され、 さらに今年は看護学科棟の建築予算も決まりました。 また動物実験施設の改装や、 開学以来の念願であった基礎臨床研究棟7階ピロティ部分の教室・研究室増設などの施設面での充実、 加えて附属病院の諸制度改善により、 目に見えて運営実績が向上しました。 またリハビリテーション部新設も承認されました。 このように、 本学の全体的評価を高める特記すべき事項が数多く達成されましたことに、 改めて関係教職員の皆さんの努力に深く感謝いたします。 さて国立大学全体としては、 法人化問題が大詰めを迎え、 年度内には最終案が出される手筈になりました。 中間案には多くの問題点が指摘されていますが、 法人化そのものは既に一定方向への潮流として流れ出していて、 もはや阻止することは勿論、 その流れの方向を些かでも曲げることもできない段階となりました。 そのことは、 秋期国大協総会が1時間足らずという討議時間で終わったことに象徴されています。 「戦いすまず日が暮れて」 の感がありますが、 今後は法人化と言う設置形態変更の機会を少しでも有意義に活かす方向への、 前向きの努力こそが求められるものと思います。 学内的には、 宮崎大学との統合問題が今や最も大事な時に差し掛かりました。 新年早々には、 全国に例を見ない、 両大学の学生による統合問題シンポジウムも企画されています。 多くのマスコミに見るように、 医大提案は社会的に非常に高く評価されています。 しかし取材記者はよく、 本学提案で、 相手の宮大は非常に良くなりそうですが、 医大のメリットは何があるのですかと質問します。 その点について余り説明していませんでしたが、 新生大学が生命科学に重点化できて最もメリットがあるのは、 患者さんと医療人であり、 特に患者さんには、 これほど頼もしいことは無いと思っています。 最近の医学・医療におけるハイテク技術・機器の導入は目覚ましく、 確かに研究・臨床活動に飛躍的な進歩をもたらしましたが、 同時に、 多くのブラックボックス的な機器が持ち込まれることにもなりました。 以前は、 使用する機器の構造や機能は熟知しておくべきものとされ、 もし機器が不調なときには、 研究者・医師自らが裏蓋を開けてチェックしたり、 部品を交換したりしたものです。 しかしながら今や裏蓋のない機器は勿論のこと、 臨床現場で直ちに交換可能な部品など全くないのが普通になりました。 それは自動車免許試験に、 昔あった構造問題が無くなったことと同じです。 今は運転はできても故障時に部品交換や修理はできないのが普通です。 それでは未開地に今のハイテク車で行くことは全く不可能で、 しかも非常に危険なことです。 同様に研究・臨床での使用機器がブラックボックスでは、 その機器の能力範囲内での研究・治療しかできません。 もし器機の不調で緊急事態が発生したら、 患者の生命が危機に陥ります。 また新領域・未開領域の研究を行うことも全く不可能です。 しかし医工学士によって、 現場で修理・調整され、 またもう1桁の精度向上ができたら、 患者の救命や、 研究での新発見ができたかも知れません。 現在、 ジェット旅客機には正副操縦士のみならず機関整備士が常に同乗している時代です。 医療も、 医療人だけでは安全に行えないハイテク時代になっているのです。 このような現場でのブラックボックスに対するセーフテイーネット不足が医療事故多発の原因の一つと思っていますが、 その解消に大いに期待されます。 一方、 工学的新技術が、 人・家畜・植物など生命科学に活かせる場を見いだした例が極めて多いことも周知のとおりです。 例えば核磁気共鳴現象の記録装置が人体に応用されたMRI画像診断装置、 またコンピュータの加算機能活用による3次元CT画像、 生体微弱反応関連での加算脳波計、 ABR (聴性脳幹反応)、 超音波診断装置等目覚ましいものがあり、 この分野にはなお無限の新領域が残されています。 しかし今日本には勿論、 世界的にもこの方面の人材は極めて不足しています。 新生大学がこの分野のメッカとなることを願っています。 結局は大脳高次機能研究・応用である教育文化学部も、 核家族化し伝統的な家庭教育が崩壊し始めた社会で、 医療人の守備範囲外で苦しむ人々にとって、 極めて有り難い学部となります。 例えば一人っ子乳幼児の躾け学、 孤独高齢者への死の哲学教育、 多くの悪しき生活習慣改善策の研究・教育、 各種の文科・芸術療法等々限りがありません。 統合によって一定任期で、 医学、 獣医学、 医工学、 食資源学、 教育学の専門家が各学部に自由に配属されることなど、 ごく普通のこととして実現するでしょう。 そこでは素晴らしい学際的研究の花が咲くことでしょう。 勿論、 医大教官には全学的な人体・生命科学の教養講義で、 そして畜産県宮崎に不可欠な獣医学科維持存続のための共同講義で、 担当時間が大幅に増えることは覚悟して置くべきでしょう。 文部科学省は、 各大学の統合の理念と時期について、 その全体像を14年度中に知りたいとの方針ですので、 まだ論議を尽くすための時間的余裕があります。 両大学の現スタッフは、 自らは居ない10年後、 20年後、 更に50年後に、 大きく実を結んだ統合新大学の状況を脳裏に具体的にイマジネートしながら、 不動の理念の基での統合を目指して努力すべきと考えています。 そして期限に囚われて安易なモザイク統合に走るような愚を避け、 両大学の新スタッフのもとで真剣な検討を重ねていただきたいと願っています。 その上で最良の決断を下されるものと期待しています。 学内の全構成員の皆さんにも、 自分自身の問題として真剣に考え、 協力して頂きたいと願っています。 折しも、 本学ではその新学長の選挙が始まりました。 国立大学法人化が平成16年とすれば、 学長任期中に、 統合も法人化も行われます。 従って医科大学として最後の6代目の学長として、 その2つの重責を担っていただくことになります。 加えてトップ30大学の選抜のために、 他大学との比較、 評価が行われるでしょう。 新学長にはその矢面に立って、 評価委員会との論戦に大いに奮闘して頂かねばなりません。 そのような現状分析から、 今求められる新学長の資質は、 従来の名誉職的ポストに比すべくもない 「もの」 であることは言うまでもないでしょう。 文部科学省のみならず、 関連他省庁での知名度が高く、 官僚とも太いパイプがあることは勿論、 地元国会議員、 県・市など地方行政機関や日本医師会・県医師会との連携、 国立大学法人化の審議経過と内容への深く正しい知識、 統合する両大学内部事情の熟知等々も不可欠でしょう。 そして何よりも、 その人物の揺るぎ無い信念と、 強いリーダーシップが不可欠と思います。 学長選挙に次いで法医学、 内科学第三、 精神医学の3教授も停年退職されますので、 後任教授選考委員会が作られました。 勿論公募されますが、 単に応募を待っているだけでなく、 最高の人材をもとめて、 積極的なスカウトも考えるべき時代かと思います。 そして予断・偏見・私心を捨て、 真に本学のためだけを考えた新学長・教授の選考が行われることを心から願っています。 また本学の教員選考内規が開学当初からのもので、 可成り低いレベルに設定されており、 マンパワーの限りない向上が求められている現状にそぐわないことから、 その改訂をする必要があります。 全学教官のアンケート結果がまとまりましたが、 その意識が非常に高いことが分かって安心しています。 医学科、 看護学科、 基礎教育3部会に、 それぞれ適切な内規が定められることを強く期待しています。 平成8年4月に学長に就任以来、 早くも6年を経過し、 残り任期は僅かに3ヶ月となりました。 学報巻頭言も今回が最終回です。 この間に多くの問題が生じましたが、 教職員、 学生諸君の協力によって、 特に大きな過失もなく、 見るべき進展を遂げて来たのではないかと思っています。 この場を借りて心から感謝申し上げます。 まだ些か早すぎますが、 学長としての最終号の巻頭言を終わるに当たって、 宮崎医科大学の、 そして新生大学での限りない発展を祈願いたします。 |
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