宮崎大学小児科
患者さん・一般の皆様へ

日常生活の知識;カビ対策

  1. カビと細菌の違い
  2. アスペルギルスの分布
    1) アスペルギルスの増殖している所
    2) 日常生活での分布
     1:住まい
     2:加工食品
     3:普段の生活の場
     4:非日常の場
     5:年間行事
     6:浮遊している真菌の種類
     7:身体では
  3. カビの除菌方法
    ∴ 冷蔵庫の野菜室
    ∴ カビが発生しないようにするには     
    ∴ それでもカビが発生してしまったら

<カビのミニ知識>
A.カビ発生の条件(例外のカビもあります)
B.病気によって異なる防御機構と発生しやすいカビの種類


 ここでは、アンケートの中で最も多かった「どのようなことに気をつけたら良いのか」という質問の答えの一つとして、日常生活で気を付けることについて記載しました。慢性肉芽腫症患者はできるだけ、「カビ」や「細菌」に侵される量を減らすことが重要です。例えば、動物モデルであるCGDマウスの実験では、接種した「カビ」や「細菌」の量により病気が発症し、死亡するか否かが決まります。同様なことは過酸化水素が産生できないMPO欠損(正常者よりも弱いが CGDに比べて軽症です)でもわかっています(図10)。「カビ」や「細菌」は、私たちの生活に密接に関係しています。特に日本ではみそ・醤油・お酒・かつおぶし・パン・チーズなどの発酵食品をよく食べますが、これらは「カビ」や「細菌」の協力なしでは作る事ができません。薬品のペニシリンも放線菌という一種のカビから作られていますし、「カビ」は私たちの生活に大いに役立っています。反面、放出する胞子が原因でアレルギー疾患が起こったり、胞子などを餌とする「ダニ」が発生したりで、ミクロの世界はいつも大騒ぎしています。抗生物質が発達し、細菌感染症を何とかコントロールできるようになった現在、「カビ」の問題は治療が難しいうえ、知識も十分でないことから、日常生活にも目を向けて、注意し予防することが重要だと考えています。カビは胞子(分生子)を出し、乾燥したところでも生きることができ、適度の湿度、温度、酸素があるところで増殖します。慢性肉芽腫症患者ではこの分生子を食細胞が貪食出来ても殺菌できないことがこの病気の原因となっています。特にアスペルギルス・フミガツスによる肉芽腫が多く、治療にも大変困ることから、真菌、主にアスペルギルスについて、どのような日常また非日常的生活の場で出会っているのか、どうしたら大量のカビへの感染を予防できるのか考えてみました。

・カビ:細胞が糸状に生育し、それらが結合して集団となっていきます。集団を作るとやがて膨大な胞子を空気中に放散させ、別の場所での集団形成を続けていきます。なお、胞子は強固な殻に包まれていて抵抗力が強く、長時間の生存が可能です。CGD患者さんの肉芽腫病変から検出されるカビは、アスペルギルス・フミガツスとカンジダ・アルビカンスがほとんどです。治療薬から考えてもアスペルギルス・フミガツスが問題となりますので、以降このカビのことについて詳しく述べます。細菌:菌の形(球菌・かん菌・連鎖球菌)によって大別され、さらに繁殖に際して空気を必要とする好気性菌と空気を苦手とする嫌気性菌の2種類があり、細胞分裂により急速に増殖していきます。CGD患者さんでは、多くの細菌の中でも、細菌自身でH2O2を産生できない細菌(ブドウ球菌、大腸菌、サルモネラ菌など)によって、皮膚や腸管などが障害され、そこから血液に細菌が回り敗血症になります。これらの細菌感染症にしても、基礎に肉芽腫があって、そこから細菌の侵入を許すことが多いようです。

(1)アスペルギルスの増殖している所
アスペルギルス・フミガツスは熱に強い真菌で世界的に広く分布しています。増殖に適した温度域が幅広いので,生息環境は,しばしば報告されるような恒常的な高温域のみに限定されません。アスペルギルス・フミガツスは優勢というほどではないが,土壌中に広く分布しています。山や松林,コーヒー農園,タマネギ,米,穀物,イチゴの根,腐った植物,鳥の排泄物,自家発熱した枯れ草,堆肥,タバコ,貯蔵中のサツマイモ等の中に見いだされます 。アレルギーでも問題になっていますが、他の空気中のアレルゲンと比べて,空気中のアスペルギルスの胞子の濃度は低いそうです。増殖に高い温度を必要とすることは,一年の中で最も寒い数カ月間に発症することが多いことと一見矛盾するように見えます。40℃の温度条件に加え,至適発育のためには,基質の水分が十分に適した状態にあることが必要であり,この条件は冬の数カ月に,より得られやすいようです。堆肥にした植物の残渣や、湿気を多く含んだ干し草やわらの山の内部で自己発熱が起こり,その結果多数の胞子が増殖して空気中に移行するので,局所的に胞子数は高カウントを記録するそうです。アスペルギルスは12〜57℃,特に至適温度として37〜43℃の範囲で増殖能を有することが特徴です。

(2)日常生活での分布 カビは住まいや食品、普段の生活の場にも多く見られます。 カビはアレルギーとの関係でも色々調べられていますが、ここではカビ、特にアスペルギルス(慢性肉芽腫症で最も多く経験される真菌です)の胞子が生菌として存在する所や分布について述べます。

◆ 住まいで注意するところ

 風呂場、ジュータンの裏、畳、エアコン、冷蔵庫の野菜庫

◆加工食品で注意する物や場所カビや酵母を利用した食品は多いのですが、慢性肉芽腫症で肉芽腫の原因になっているという症例報告はありません。ヨーグルト、ビール、日本酒、味噌・納豆、醤油、漬け物、チーズでもカビや細菌が使われていますが、ブルーチーズを除くと症例報告はないようです。実際腸内には多くの大腸菌が住んでおり、たくさんのためになることをしているのも事実です。これは慢性肉芽腫症でも同じことです。しかし、肉芽腫病巣にさらなる細菌感染を受けると重症化するので、注意しましょう。日本酒や醤油・納豆をつくる工場などは胞子が浮遊している場合がありますので、工場見学なども控えましょう。椎茸工場でのバイト中に肺炎になった症例がありますが、アスペルギルス肺炎だったそうで、恐らく、茸工場で使用されていたオガクズにアスペルギルスが多く存在したと思われます。   

◆ 普段の生活で注意する場所

  土の中, 山や松林,コーヒー農園,タマネギ,米,穀物,イチゴの根,腐った植物,鳥の排泄物,自家発熱した枯れ草,堆肥,タバコ,貯蔵中のサツマイモ   

◆非日常の生活で注意する場所

  温泉の薬浴風呂、黒色酵母、新築の家、大掃除(特に畳換え)、落ち葉拾い(掃除を含めて) 、森林浴   

◆ 年間行事

ほこりが立ち、多くの人が集まる場所はできるだけ避けましょう。仕方なく参加する場合は、マスクをお忘れなく。   

◆浮遊している真菌の種類

戸外  クラドスポリウム/ペニシリウム/カンジダ/アスペルギルス/アルテルナリア

公共施設  ペニシリウム/カンジダ/アスペルギルス/アルテルナリア

さらに人が集まるデパートや劇場  カンジダや酵母菌

森林では  キノコ(スエヒロタケ,コニオスポリウム(かえで)) スポロトリコーシス(松林)

◆身体では

常に口腔内、消化器、皮膚

普段の家庭でカビが問題になるのは

  1. 風呂場
  2. ジュータンの裏、畳
  3. エアコン
  4. 寝具
  5. 冷蔵庫の野菜室
    です。

各々のカビの除菌方法は、テレビ番組や、家庭用雑誌に詳しく解説してありますので、参考にしてください。 手順についてですが、できるだけ真菌をまき散らさないように、工夫しましょう。カビの胞子は掃除機のフィルターを通ることが知られており、かえってまき散らしていることもあります。患者さんはその間外に避難させておくなり、工夫が必要です。多くのホームページが開設されていますので、そこを御参考ください。
http://www.daiichibs.com/mansion/mente/sumai.html  

◆冷蔵庫の野菜室の掃除を例にしてお話します。

  1. 野菜室の収納庫を外して、野菜を出し、中に溜まっているゴミなどを除去する(根菜類は土の中で育ちますので、どうしてもアスペルギルスを持ち込みます)。
  2. 野菜室の収納庫から野菜を出し、収納庫の内部全体を消毒用エタノールで清拭する。
  3. 5分以上経過してから外に出して、ペーパータオルを使って内部の細かなゴミを拭き取る。また、収納庫の外側にも消毒用エタノールを噴霧して、ペーパータオルで拭き取る
  4. 洗い流した後、収納庫を雑巾で拭き取る。
  5. 収納庫に消毒用エタノールを噴霧してから、野菜室に戻す。
  6. 野菜は洗って、ポリエチレン袋にいれて収納する。  

◆カビが発生しないようにするには・・

  1. 湿度を高くしない。つまり、換気を良くする。
  2. 「カビ」の栄養源を無くす。ホコリやダニの死骸を無くす。すなわち、マメに掃除をする。畳、ジュータン、タイルの目地、衣服   
  3. ダニ駆除(やはり乾燥)室内の乾燥、日光干し、掃除機、寝具の洗濯 )結露させない工 夫が必要

◆それでもカビが発生してしまったら・・・手段の一つとして「塗料」を塗る方法があります。

  • 発生場所や塗料の種類については、業者の方とご相談ください。
  • 外壁:超低汚染塗料や防カビ塗料があります。飛散防止ネットを使用したり、超低汚染塗料付近への飛散・風に十分注意しましょう。
  • 室内壁・天井・浴室:防カビ塗料や抗菌塗料があります。溶剤系は中毒の要因になるため避けたい。換気対策が必要です。

  

A.カビ発生の条件(例外もあります)

・水分: 65%以上の湿度を必要とします。

・栄養: じゅうたん・畳・ホコリ・手アカ・フケ・ダニの死骸などの有機物。

・ 酸素: カビの胞子が着床しても酸素がなかったら発芽しません。

・ 温度: 20〜28度をもっとも好みます。

B.病気によって異なる防御機構と発生しやすいカビの種類

白血病で白血球減少を伴う免疫低下状態にある場合:
  カンジダ/アスペルギルス/クリプトコッカス
腎移植で白血球減少を伴わない免疫低下状態にある場合:
  クリプトコカッス/カンジダ/アス ペルギルス
慢性肉芽腫症では、常に白血球機能低下があり、免疫低下状態です:
  アスペルギルス/カンジダ

あとがきにかえたきっかけは、食細胞機能異常症研究会の先生からもたらされた患者さんの情報 だったと思います。工場で真菌に大量に暴露された患者さんが、重症真菌感染症で亡くなられた というものでした。この話は、慢性肉芽腫症の患者さんを普段診ている私たちには衝撃的な内容 でした。同時に日常生活において、より実際的な指導が必要なのだと痛感しました。より実情に 即したマニュアルを作るために、患者の皆さんやご家族のかたにアンケート調査を行いました。 患者さんが普段どのような生活を送り、どんな点に困っているのかを探るのが目的でしたが、多 種多様な質問や疑問、苦しみや悩み、切実な声など返ってきた答えは私たちの予想を超えたもの でした。本書は、患者さんやご家族の想いに応えるにはまだ不十分かもしれませんが、日常生活 指針となれるように作成したつもりです。少しでも皆さんのお役に立てることを願います。

アンケートにご協力いただいた患者さんとご家族の皆さま、各施設の主治医の先生がた、ありがとうございました。心よりお礼申し上げます。

アンケート内容については、当研究会会長・関西医科大学小児科小林陽之助先生からもご助言いただきました。アンケート結果の分析には、厚生労働省「原発性免疫不全症候群」研究班長・富山医科薬科大学小児科宮脇利男先生、同小児科金兼弘和先生、信州大学小児科安井耕三先生、国立成育医療センター膠原病・感染症科立澤宰先生の各先生にもご参加いただきました。関西医科大学小児科蓮井正史先生からは、「日常生活の手引き」をご寄稿いただきました。そして研究会の先生がたから数多くの心強いご支援をいただきました。本書に携わっていただいた各先生がたにお礼申し上げます。ありがとうございました。

平成16年6月
宮崎大学医学部小児科
水上智之
日高文郎
布井博幸