宮崎大学小児科
患者さん・一般の皆様へ

少し詳しい慢性肉芽腫症の臨床と治療の話

  1. 患者数、性別、年齢分布、病型分類、生存曲線
  2. 治療戦略
    (1)インターフェロン・ガンマー
    (2)肉芽腫への対策
    (3)新たな抗真菌薬
    (4)骨髄移植について
    (5)遺伝子治療
  3. 図1〜8,表1〜4と説明 

1患者数、性別、年齢分布、病型分類、生存曲線

慢性肉芽腫症は乳児期に始まる反復性の細菌・真菌感染症および感染巣の肉芽腫形成により 特徴づけられ、臨床症状、数世代にわたる詳しい家族歴の聴取と、細菌や真菌をとりこむ食細胞での活性酸素(O2-)産生能の欠損で診断されます。現在日本に240名以上の患者が登録されております。将来の出生前診断や遺伝子治療に備えるために遺伝子解析を行うこともあります。活性酸素は細胞膜に存在するNADPHオキシダ―ゼという酵素により産生され、殺菌に使われます(図1)。活性酸素としてはスーパーオキシド(O2-)や過酸化水素(H2O2;消毒に使うオキシドール)、次亜塩素酸(HOCl-;お風呂掃除にカビキラー)などがよく知られています。少し詳しくなりますが、この酵素(NADPHオキシダ―ゼ)は膜蛋白であるチトクローム b558(gp91-phoxとp22-phoxからなる)と3つの細胞質蛋白(p47-, p67-phoxとRac p21) から構成されています。gp91-phox蛋白はX染色体上コードされており、X連鎖性劣性遺伝形式 を示します。他の因子は皆常染色体劣性遺伝形式を示します(図2表2を参照)。細胞質因子は膜蛋白質であるチトクロームb558の活性調節を行っており、刺激が来たときのみ、盛んに 活性酸素を産生する仕組みになっています。その他細胞内ではp40-phoxも活性亢進に関わっていることが明らかになりました。

普段の注意としては、感染源から身を守るように努め、ワクチンは早く完了させましょう。 しかし、BCG接種は禁忌です。ST合剤の予防投与、IFN-γの予防的治療が行われ、予後に貢献しています。抗真菌薬(ITCZなど)の予防投与についてはまだその効果が確認されていません。 急性感染時の治療には抗生物質の投与、顆粒球輸血、骨髄移植、遺伝子治療が考えられています。アメリカで遺伝子治療が95年、98年と2000年に行われましたが、まだ研究段階です。

これまでの慢性肉芽腫症の統計ですが、平成15年の厚労省の統計によると、原発性免疫不全 症候群で慢性肉芽腫症がもっとも高頻度となっています(表1)。我々の調査によりますと、 204家系239名の慢性肉芽腫症患者さんが登録されています。男女比は208:31で約6.7:1と なり、22万出生人口当たり1名の発生している異なります。平均余命は25-30歳で、日本全体では発生頻度に偏りは認められません。型別分類が出来ている患者さんは表2のとおりです。

gp91-phoxについては遺伝子解析も進み、表3のように種々の変異が検出されています。 これらは諸外国とほぼ同様です。今回のアンケート結果ですが、206名に郵送して71名の患者さんから回答いただきました(回収率34.5%)。それによりますと、ST合剤内服者が62名 (93.9%)、インターフェロン使用者が26名(40%)でした。


2)治療戦略

慢性肉芽腫症の治療についてですが、一般的治療としては症例の感染の頻度と程度により、 ST合剤、IFN-γ,抗真菌剤が投与されています。肉芽腫が生じた症例の内科的治療としては明確な指針は無く、まだ試行錯誤の治療となっております。このような治療で十分な治癒が得ら れない症例に根治療法を目指して骨髄移植が行われるようになってきました。まだ試験的な段階ですが、遺伝子治療の試みも後で紹介します。

慢性肉芽腫症では約1/3の患者でインターフェロン・ガンマーが重症感染発生の抑制に有効であることが欧米の大規模な二重盲険試験で明らかになり、日本でも検討がなされ、同様の結果であることが報告されました。しかしその作用機序は明らかではありませんでした。

我々は、同じスプライス異常の遺伝子変異を持った3名の患者さんにインターフェロン・ ガンマーを投与し、その反応を解析することができました。その結果、投与後約2週間目から約4週の間、正常好中球の20-30%の活性酸素産生能を有した細胞を検出できました(図4)

最も活性酸素を産生している時の好中球から、正常の約2−3%の正しいgp91 mRNAが合 成されていました。我々の結果からは、生体内の幼弱な骨髄芽球にインターフェロン・ガン マーが働くと(図5)、わずかな正常蛋白を発現することになり、活性酸素産生能を回復したと考えられます(図6)。慢性肉芽腫症では、5%も回復すると感染に罹患し難くなることが知られていますので、結果として感染予防効果が得られたものと考えられました。

スプライス異常の症例については、このような作用機序も存在しているのではないかと考えていますが、そうでない症例もあることは同時に確認しております。

肉芽腫組織は図5のように非常に活発な炎症細胞(貪食細胞の壊死した乾酪壊死層や類上皮 細胞と活性化単球から成り,その周辺にリンパ球が集簇する組織)で構成されています。肉芽 腫形成の機序につきましては、まだ十分明らかになっておりませんが、貪食した菌を消化殺菌できずに、活性化されたままで単球が存在しますと、種々のサイトカインを放出し、周囲に肉芽組織を形成するのではないかと考えられています。この肉芽腫の治療法となるとあまり無く、外科的切除ができる場合はまだ良いのですが、そうでない場合は抗真菌薬の長期投与をおこなうことになります。それ以上の選択は無く、家族とも辛い思いをすることになります。我々が経験した症例は3歳男児で、生後3ヶ月の時点から2箇所右側肺野に、合わせて肺野の半分を占める巨大な肉芽腫が認められました。幸いにもアンフォテリシンBの投与 により、初回は軽快し、約半年の経過で退院されました。その後充分な予防投薬を行い、そ れが実行されていたにも関わらず、1年後に肺門部から広がる肉芽腫を認めるようになりました。はじめと同様アンフォテリシンBにて治療を開始するも、治療に反応せず、むしろ増 大傾向を示したため、外科で摘出していただきました(図6)。組織検査で多核巨細胞も認 められ、肉芽腫組織であることは明らかでしたが、真菌の菌糸も染色されず、培養でも真菌 は検出されませんでした(図5)。この間約1年以上かかりました。このような経験から骨 髄移植をお勧めして、ミニ移植を行って頂き、無事生着が確認されたところです。

抗真菌薬につきましては、2002年末からキャンデイン系抗真菌薬が成人で使用許可がおりました。主にカンジダに有効と考えられていますが、アスペルギルスにも有効でおおいに期待されています。また外国ではボリコナゾールというトリアゾ−ル系抗真菌薬が使用開始され、腎障害もなく非常に有効だと言われています。1日も早く日本でも使用できるようになることが期待されています。

上のように難治性感染が多いことから、骨髄移植治療が最近増加しています。これまでに国内の10症例の状況をアンケート調査しました。組織適合抗原一致の健康な兄弟姉妹からの移植は全例成功しているようです。また、諸外国でも骨髄移植が多く実施されるようになってきており、フルダラビンなどによる所謂ミニ移植も行われています。今後はGVHD予防や感染予防などについても、もっと副作用の少ない方法が提案されることを期待しています。

しかし、10例の移植症例のうち3例が死亡されました。いずれも臍帯血幹細胞移植でした。理論的ももちろん可能であるし、実際移植後15日から20日と順調に生着まで至っているに関わらずGVHDや感染で死亡されました。資料の請求は国立成育医療センター膠原病・感染症科の立澤先生か宮崎大学小児科までご連絡いただければご提供できると思います。

最後に遺伝子治療についてですが、1995年と1998年に米国立衛生研究所にてp47-phox 欠損型とgp91-phox欠損型慢性肉芽腫症(図7)に遺伝子治療が試みられました。また、2000年にはインデイアナ・ポリス大学のDinauer MCらがgp91-phox欠損型同疾患に対して遺伝子治療を施行しました。いずれも、末梢血幹細胞を用いた方法でしたが、末梢血に誘導された活性酸素産生細胞は0.1%以下に留まり、目標の5%に至りませんでした。今後レンチウイルスを用いた遺伝子治療の計画がなされ、非分裂細胞への導入も計画されている様ですが、アラン・フィシャーらのX-SCIDに対する遺伝子治療でT細胞系の増殖性疾患が11例中3例発生しまして、現在のところかなり遺伝子治療に対する懐疑の目が注がれているところです。


3)図・表の説明

図1↓:食細胞機能
図1
食細胞は血管内をローリングしながら、炎症の刺激が加わった血管を感知し、そこに付着し、そこから炎症部位へ遊走し、異物を貪食、殺菌、消化する機能を持っている。

   

図2↓:食細胞の殺菌機構
図2
食細胞(好中球)の顆粒や膜表面(a) には、NADPHを基質に電子を酸素に与え、スーパーオキシドへと変換するNADPH oxidaseなる酵素X (b)が存在することが知られている。この酵素はgp91-phox, p22-phox膜蛋白とp47-, p67-phox, Rac1/2とp40 -phox細胞質蛋白から構成されていることが明らかになった (c) 。

 

表1↓:
表1
日本における原発性免疫不全症候群の種類と発生頻度慢性肉芽腫症が最も多い疾患の一つとなっている。

 

表2↓:
表2
慢性肉芽腫症患者の型分類と頻度変異NADPH oxidase構成蛋白により分類されている。臨床的にはgp91-phox欠損患者の方が他のタイプより重症の感染に罹りやすいようであるが、統計的解析はまだ十分になされていない。

 

表3↓:
表3
gp91-phox欠損型慢性肉芽腫症患者の遺伝子変異分類 他の遺伝性疾患と同様に種々の遺伝子変異が認められる。

 

図3↓:
図3
インターフェロン-g 治療によりH2O2産生改善が認められた症例 DHR-123によるH2O2産生(下段)とgp91-phoxの発現(上段)をインターフェロン-g 皮下注射後、経時的に観察した。14日目から30日まで明らかなH2O2産生を認めた。

 

図4↓
図4
インターフェロン-g 治療による活性酸素産生能回復で想定される作用機序インターフェロン-g は、造血幹細胞に働き、極く一部の細胞で正常なすプライスを促し、正常なgp-91 phoxを合成することとなり、H2O2産生活性を持つ食細胞が認められるようになると考えられる。

 

図5↓:
図5
肉芽腫組織:手術により摘出できた肺肉芽腫のHE染色標本では、組織の至る所に大きな多核巨細胞と周辺のリンパ球の集簇が認められる。

 

図6↓:
図6
肉芽腫のCT像
A-1, -2) 初発時の肉芽腫、下肺野と肺門部から背部へかけての肉芽腫所見が認められる。
B) 再発後の治療経過による肉芽腫像の変化を示している。肺門部から肺動脈へ広がる肉芽腫のため、肺葉切除手術が困難で、種々の治療が施された。
C)は治療経過を示している。
D)ここまで肉芽腫を縮小できて手術を施行することにした。

 

表4↓:
表4
新しい抗真菌剤 昨年キャンジン系薬剤が日本で発売され、カンジダやアスペルギルス感染に重篤な腎障害もなく使用されている。米国でも腎障害の少ないボリコナゾールが発売され真菌症に効果を示しており、日本での発売が待たれる。

 

図7↓:
図7
遺伝子治療の症例5例のgp91-phox欠損型慢性肉芽腫症患者に遺伝子治療が行われた。いずれも1ヶ月頃からH2O2産生能の改善が認められたが、それも正常者の高々0.1%であり、3ヶ月までにはほぼもとの状態に戻ってしまった。しかし、この間2名の患者では肝膿瘍の改善が認められている。

 

図8↓:
図8
CGDマウスとMOP 欠損マウスでの感染実験結果左のグラフから2.3X105, 4.6X106, 6.9X107 CFUのカンジダ菌体量を各々のマウスに経鼻感染させ、経過を見たものである。少量ではCGDマウスで約2ヶ月、大量ではMPO欠損マウスでも10日くらいで死亡してしまっている。(このデータは荒谷先生の許可を受けて掲載しました。)