健康情報シリーズ

Hygeia 

                                       (Hygeiaとはギリシヤ神話の健康の女神)
 
 

生理痛について

 

 第47号
 宮崎大学 医学部 保健管理センター分室  2005.1

宮崎大学医学部産婦人科学講座 山内憲之


  

 1.はじめに
 「生理痛」とは、月経時に認める病的な症状(下腹痛など)を表す言葉として一般的に使用されています。医学用語では、「月経困難症」(dysmenorrhea)といいます。月経困難症は、「月経に随伴しておこる病的症状で、月経の開始に伴い下腹痛・腰痛などの痛みのほかに悪心・嘔吐・顔面紅潮などの症状を伴い、月経終了後にこれらの症状が消失するか軽減するもの」と定義されています。

2.月経とは?
 「月経」について、教科書には「通常28日〜30日の間隔で起こり、限られた日数で自然に止まる子宮内膜からの周期的な出血」と説明してあります。簡単に言いかえると、「排卵周期にある女性が、妊娠(受精・着床)しなかった時、古くなった子宮内膜を血液と一緒に子宮外に排出すること」です。だから、月経は血液・子宮内膜・粘液を含んでいます。月経の持続日数は、ほとんどが3〜7日で、通常の月経の量は100g程度です。付け加えると、月経期に女性は、閉経後の女性や男性に比べ毎日平均0.6mgの鉄を喪失していると言われています。
 月経中の女性の身体の変化としては、骨盤内に著しいうっ血が起こり、骨盤内臓器は充血し、子宮はやや肥大し柔軟となります。また、骨盤内神経が圧迫され下腹部の重圧感、下腹痛、腰痛、頻尿を自覚することもあります。

3.症状
 症状は、局所所見では下腹部の重圧感、下腹痛、腰痛などがあります。また、便秘、下痢、乳房の腫脹・疼痛、乳頭の過敏などもあります。全身症状としては、不快感、疲労感、頭痛、めまい、食欲減退、悪心、眠気、不眠、気分のむら、憂鬱などがあります。これらの症状は、女性の40〜60%に出現すると言われます。この症状が強く、日常生活に支障を来すとき月経困難症と診断されます。

4.病態・原因
 月経困難症の病態には、2つあります。ひとつは、器質性月経困難症(organic dysmenorrhea)といわれ、骨盤内に器質的な原因があるものです。たとえば、子宮筋腫・子宮内膜症・子宮後屈・子宮奇形などがあります。
 もう一つは、機能性月経困難症(functional dysmenorrhea)と言われるものです。これは、器質的な原因がないものです。分娩経験のない女性に多く、骨盤内のうっ血、ホルモン分泌障害、自律神経失調症が原因であろうと考えられています。

5.診断
 これらの診断に関しては、器質性の月経困難症の場合、器質的な原因があるので、内診・超音波などで器質的な疾患の有無を検査することで診断できます。
 しかし、機能性の月経困難症の場合は、器質的な異常がありません。すなわち、原因となる明らかな所見がないのです。そのため、問診を含めた、全身症状から診断します。

6.治療
 治療は、確立されたものはありません。器質性の月経困難症の場合は、器質的な原因がありますから、月経困難症があまりに強いときには、その原因(器質的な)を除去(治療)します。たとえば、子宮筋腫が原因であれば、子宮筋腫の核出(手術)をおこないます。子宮内膜症が原因であれば、GnRHaという薬剤を使用(偽閉経療法)し、原因を治療します。
 しかし、機能性の月経困難症の場合は、器質的な異常がありませんので、鎮痛剤などを使用した、対症療法が基本となります。
 最近行われるようになった治療法の一つに、「ピルの内服」があります。もともとピルは、避妊の薬です。これは、低用量の女性ホルモンです。体外から女性ホルモンを体内に入れることで、視床下部にネガティブフィードバックをかけ、排卵を抑制します。この作用を利用し、月経量(体内の女性ホルモンレベル)を減少させたり、体内の女性ホルモンレベルをコントロールすることで月経困難症を改善させます。

7.月経前緊張症(premenstrual syndrome)
 月経に伴って起こる「月経随伴症状」には、もう一つ「月経前緊張症」と言われるものがあります。これは、月経が開始する数日前から、月経困難症と同じような症状もありますが、とくに鬱状態などの精神的な症状が強く出現するものです。そして、月経開始や終了をもって、症状が消失します。原因は不明ですが、ホルモンバランスの異常との説があります。治療は、ピルで排卵を抑制することが最も有効な治療です。

8.最後に
 月経随伴症状は、60%の女性に認める症状であり、それが日常生活に支障をきたしたときに月経困難症と診断され、治療の対象となります。しかし、実際の診療の場では月経困難症を主訴に産婦人科を受診される患者さんは、あまり多くはありません。産婦人科を受診する女性の約3%と言われます。多くの人は、なんの検査もせずに市販の痛み止めや、手持ちの痛み止めを内服しているようです。
 月経困難症かな?と思っている方は、器質的な原因があるかもしれませんので、一度産婦人科を受診されるといいと思います。
 


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